2024.02.14

増田ユリア「チョコレートで読み解く世界史」
【私の食のオススメ本】

  • 書名:チョコレートで読み解く世界史
  • 著者:増田ユリア
  • 発行所:ポプラ社
  • 発行年:2024年

高校で27年にわたり世界史、日本史、現代社会を教えていたジャーナリストでありコメンテーターでもある増田ユリア氏の、バレンタインデーに向けた1月発売という企画本、とも取れる本書である。「食いしん坊」である著者本人がチョコレートを通してヨーロッパの歴史を読み解いていく。実に「美味い」やり方だ。

実際この戦略というか手法は成功している様に思う。

著者がコメンテーターとして出演する世界情勢を取り上げるテレビ番組で、バーターみたいにプロモーションが行われていた。ただの世界史副読本だと気乗りしないが、食べ物から歴史を学ぶ!とあったので、その気になって購入してしまった。

そして、歴史を不得意とする自分も読み始めてアレアレっと引き込まれていくのだから。

カバー裏には「ヨーロッパ視点で語られてきた歴史を世界情勢が混迷する今こそ、学び直す」とある。テレビで世界情勢を語る著者ならではのキャッチである。

スタートは15世紀から始まる「大航海時代」からのこと。知らなかったがコロンブスの新大陸発見のことは現在「スペイン・ポルトガルの海洋進出」と教えられるそうだ。これは「大航海時代」がヨーロッパ(キリスト教社会)中心の視点だと批判があったからとのこと。

誰かが「不適切にもほどがある」と叫んだのだろう。

人類が初めてカカオの実を口にしたのは数千年前のメソアメリカ(メキシコおよび中央アメリカ北西部とほぼ重複する地域)。ヨーロッパで初めてカカオを手にしたのはスペイン人。

これはさまざまなモノの往来が行われた「コロンブスの交換」といわれる植民活動の産物だ。アメリカ大陸には、馬・牛・羊・小麦・サトウキビ・車輪・鉄器が伝わり、ヨーロッパには落花生・カボチャ・トウモロコシ・唐辛子・ジャガイモ・トマト・タバコなど、そして「カカオ」が伝わった。

伝染病も交換してしまったのだが。

メキシコを支配下においたスペイン人は、すり潰したカカオ豆だけの原住民の飲み物に、砂糖を合わせたカカオドリンクを習慣として広め、その収益を手にした。その習慣はスペインでも広がり、焙煎したカカオに水や砂糖を加え温めて飲む様になった。

そして、スペイン人はカトリック以外の宗派や宗教を「異端」としてイスラム教徒を追い出し、ユダヤ人も追放したのだが、スペインで発展したチョコレートはそのチョコレート作りを学んだユダヤ人によってフランスへ伝わる。

スペインと同じくユダヤ人を追放したポルトガル。この二つの国と敵対していたフランスが1550年にユダヤ人の受け入れを始める。ユダヤ人たちはスペインの国境近くに集まった。港のあるバイヨンヌだ。100年後の17世紀にはチョコレート産業が栄えた。

そして、そここそがスペインとフランスにまたがるバスク地方であり、バイヨンヌはその2割にあたる美食で名高いフランス領バスク地方にある。

(この説以外にも「修道院同士のつながりから伝わった」「ルイ13世と14世スペイン王女との婚姻」という説もある)

本書ではチョコレートがヨーロッパの歴史と宗教の歴史の間を漂いながら時代や出来事に関わっていく。バレンタインデーのチョコレート・プレゼントはどこから始まった、とかいう雑学はどうでもいいので、楽しみながら食と世界史を学ぶ方が良いのでは。

さらに増田ユリア氏は、チョコレート業界でカカオ生産地の児童労働が問題視されてきたことも取り上げている。そして、生産農家から輸入しているカカオを100%追求できるシステムや加工からチョコレートの製造販売までを一環して手がけるBeen to Bar方式まで、取材している。

WRITER Joji Itaya

出版にたずさわることから社会に出て、映像も含めた電子メディア、ネットメディア、そして人が集まる店舗もそのひとつとして、さまざまなメディアに関わって来ました。しかしメディアというものは良いものも悪いものも伝達していきます。 そして「食」は最終系で人の原点のメディアだと思います。人と人の間に歴史を伝え、国境や民族を超えた部分を違いも含めて理解することができるのが「食」というメディアです。それは伝達手段であり、情報そのものです。誰かだけの利益のためにあってはいけない、誰もが正しく受け取り理解できなければならないものです。この壮大で終わることのない「食」という情報を実体験を通してどうやって伝えて行くか。新しい視点を持ったクリエーターたちを中心に丁寧にカタチにして行きたいと思います。