ブルゴーニュ地方ヴォナ村。
この地には、1981年から38年間ミシュラン三ツ星を獲得し続けているレストラン ジョルジュ・ブランがあります。
このフレンチの名店で5日間ソムリエとして働くという大変貴重な経験をさせて頂きました。
ジョルジュ・ブラン氏は1943年生まれ。フランスで最も有名なシェフの一人です。
彼はこの地方で育てられる世界最高級の鶏肉、ブレス鶏を世界に広めたことでも知られます。
赤いトサカ、真っ白な毛、青みがかった脚はまさにフランスの国旗のようで、フランス国民から愛されています。
肉質は緻密で柔らかく、素材の味がしっかりとしており、フランス料理に欠かせないソースとの絡みが抜群です。
ブレス鷄は放し飼いで飼育され、1羽あたりに10平方メートル以上の草地を与えることが義務付けられています。しかし放し飼いのため全体の約10%はキツネやカラスの被害に遭うと言われます。
ニワトリの中で唯一原産地呼称(AOC)にも認証されており、厳しい基準をクリアした鶏の足にはそれを示すタグが付けられます。
レストランの隣にはジョルジュ・ブランの経営する5つ星ホテルがあり、宿泊客はスパやラウンジを利用することもできます。敷地内にはヘリポートも完備されており、セレブやVIPがお忍びで来ることも…。
2018年の9月には現 天皇陛下もジョルジュ・ブランを訪れました。
レストランを中心にヴォナ村は賑わいます。
周りにはいくつかの宿泊施設の他にパティスリー、ブティック、リカーショップ、ブラッスリー、シャルキュトリーショップなどがあり、その全てがジョルジュ・ブランのグループです。
自分が宿泊したホテルに併設されたリカーショップには見慣れた日本酒もみつけました。
実はジョルジュ・ブラン氏は日本酒にもたいへん関心を持っています。
宿泊先から少し歩くと小さな薬局やカフェなどがあり、町のはずれにはスーパーもあります。
人口約3000人ほどのこの小さな村は、レストランの定休日である月曜日と火曜日は閑散としています。(ちなみに水曜日と木曜日は夜の営業のみ。働く側としてもゆとりのある勤務スタイルです。)
水曜日になると周辺のショップにはレストラン ジョルジュ・ブラン目的の観光客が訪れ、村は賑わいます。木曜日にはマルシェ(朝市)も開かれて、地元のチーズや野菜も並びます。
こんなこじんまりとした小さな村で私のレストラン研修は始まりました。
今回はソムリエとしての研修なので、メインの仕事となるのは当然ワイン。ここのワインカーヴには約11,000種類、140,000本のワインが保管されています。
そのうちワインリストに載っているのは3,500種類のみで残りは飲み頃となるまで熟成させます。
研修初日からスタンバイやテーブル番号などをしっかり教えていただきました。
当然なのかもしれませんが、さすがジョルジュ・ブランのスタッフ。皆動きが早くテキパキとしています。
ディナーの営業が始まると初日からいきなりホールの一角を任されました。
「じゃあDaiki、あとよろしくね!」と言わんばかりです。
この辺りで”研修生”として来ていた自分を捨て去る必要があることに気付くのです。
「本気でやらないと…!」
連日ほぼ満席の状態の中でのワインサービスは非常にエキサイティングです。
ほとんどのテーブルでワインが飲まれます。
高額なワインのオーダーも次々と入り、ソムリエチームが連携をとって提供していきます。
グラスで注文できるワインは”ダブルマグナムボトル”と言われる3000ml容量の大きなボトルからサーブします。
当然片手で注ぐことはできないので両手を使ってお客様の目の前で注いでいくのですが、両手でも重く、正確に注ぐのは至難の技でした。
あるテーブルで、その”ダブルマグナムボトル”からワインをサーブした時に私はテーブルクロスの上に赤ワインを一滴こぼしてしまいました。
当然お客様に謝罪した上でソムリエの上司に報告すると、
「大丈夫だよ。でもお詫びとして食後にデザートワインをサービスしよう」と言いました。
ワインを垂らすことはもちろんあってはならないことなのですが、そこまでの対応には正直驚きました。
「粗相」とするレベルの高さ、これが「ジョルジュ・ブラン」なのかと。
そして店内では料理やワインがテンポよく各テーブルにサーブされ、レストラン全体が非常に心地のよい雰囲気で時間が流れていきます。
研修の中でカルチャーショックを受けたことの一つが、ペット入店OKだということです。サービスをしていると2名のお客様の後ろに1匹の犬が付いていき、飼い主のテーブルの下に潜ってちょこんと伏せるのです。
補助犬でもなさそうなので、同僚のスタッフに「ペットOKなの?」と聞いてみると「フランスでは珍しくない」とのこと。さすが「犬は社会の一員」という国です。
せっかく研修に来たので色々と学びたいと思い、時間を見つけて調理場見学に行ってみました。(実はスーシェフの方を含めて2名の日本人が調理場にいます。)
清潔感のあるキッチン内は、驚いたことにガス火は一切使わず、調理は全てIHです。フランス料理界では近年の流行りだそう。
そんなところも写真に…とやっていると
「Daiki、ホールちゃんと見ていないとダメだよ〜」と言われてしまいました。
フランス人のディナーはスタートが遅く、8時頃から始まります。
ワイン片手に会話をしながらゆっくりと食事を楽しみます。
ディナーのピークが過ぎて落ち着いてきたので一息ついて時計を見るともう午前1時…。
スタンバイから営業、ラストの片付けまでしっかりと働かせて頂きました。
こんな風に、研修の日々はあっという間に終わってしまいました。
短い期間でしたが、「ジョルジュ・ブラン」のサービスの精神やスタッフの連携、オペレーションはとても素晴らしく、ミシュラン三つ星レストランの格の高さを感じることができた5日間でした。
(この記事はOPENSAUCE元メンバーによって在籍中に書かれたものです)