- 書名:おいしさの表現辞典
- 著者:川端晶子・渕上匠子
- 発行所:東京堂出版
- 発行年:2006年初版 2010年三刷
この本は食べ物の『おいしさ』を表現したいときに文例を知ることができる事典だと思ったのだが、実は想像をかきたてる「読み物」である。作家やエッセイスト、新聞、漫画などで使われた文章が並んでいる。
例えば<御飯>には「四日ぶりにご飯を炊く、四日ぶりにぬく飯をたべる、あたたかい飯のうまさが今更のやうに身にしみる」(種田山頭火)といった文が見つかる。
<ビスケット>には「フランスの本当のフランスパンと同じ訳でバタ(ママいき)をつけなくても食べられる一種の軽くて芳ばしい食料なのである」と吉田健一の文章が抜粋される。
<ぶどう酒>では開高健が「ぶどう酒がまわってそろそろおたがいに頬が夕焼色になったところを見はからってこの小話をやってみたら・・・」と。
同じくいくつもの例が並ぶ<ワイン>の項では「香りがたちのぼる。…さからわない、味になっているのだ。寄り添ってくる味、と言いかえてもいいかもしれない」川上弘美の『センセイの鞄』を紹介する。
本書は、アユずし、雑炊、ソースカツ丼、ハヤシライス、こんにゃくのさしみ、生湯葉射込みの天ぷら。あしたばの軟葉、心太、紅玉、生鰹節、山羊のチーズ、スンホ流キムチ鍋‥‥と350ページ以上、単語が並ぶ。
こんな調子で食材が文字で並んでいるのだ。この本で言葉をひけば、いちいちその先が読みたくなって作業が進まないのだから困ってしまう。
出版にたずさわることから社会に出て、映像も含めた電子メディア、ネットメディア、そして人が集まる店舗もそのひとつとして、さまざまなメディアに関わって来ました。しかしメディアというものは良いものも悪いものも伝達していきます。 そして「食」は最終系で人の原点のメディアだと思います。人と人の間に歴史を伝え、国境や民族を超えた部分を違いも含めて理解することができるのが「食」というメディアです。それは伝達手段であり、情報そのものです。誰かだけの利益のためにあってはいけない、誰もが正しく受け取り理解できなければならないものです。この壮大で終わることのない「食」という情報を実体験を通してどうやって伝えて行くか。新しい視点を持ったクリエーターたちを中心に丁寧にカタチにして行きたいと思います。