私はなんとなく社会に出てしまったので、就活というものをしたことが無いのだが、いつの間にやらそろそろ終活の年齢に差し掛かろうとしている。
だが、高校生の頃にアルバイトの経験をしたことは、ある。
ファストフードのアルバイトでは履歴書を持参して、そのお店のバックヤードの小さな説教部屋のようなところに通され、下っ端社員みたいな人に面接で色々と身の上話しを聞かれた。
もっとも高校生の履歴書なので、大して書く中身なんかあるわけも無く、そもそも履歴書なんて書いたことがないので、買ってきた履歴書の見本通りに「どこそこ中学卒業、現在に至る」ぐらいしか書くことも無ければ、読んでる方も一体これで何が判断出来るというのだろうか?という疑問を持ちながら面接を受けていた。
アルバイトがしたくなった志望動機も実に単純で、家から近かったからだし、何故働くのかと言えば、三鷹楽器で喉から手が出るほど欲しい楽器を見つけてしまったからだった。高校生には高額な楽器だったので、それを買うには働いて小遣いを稼ぐ以外に方法が思い付かず、そんな時にいつもの通り道、中央線の武蔵境駅前に新規オープンするファストフードの貼り紙を見つけて応募したのだった。
それがケンタッキー・フライドチキンだった。
ケンタッキーのチキンは好きだし、遅番の時には賄いで好きなメニューを食べさせてくれるというし、いつも練習に使っていた音楽練習スタジオの近くだし、家の近所だし、条件的にはもう言うこと無しだった。
ただ、最終面接をしてくれたGM(店長)がなかなか性格の悪い男だったのが腹立たしかった。副店長はガソリン臭いBMW 2002 turboを乗りこなす所ジョージさんのような粋な大人で、休みの日にはその車でよく遊びに連れて行ってくれた。
私のバイト初日の仕事は、チキンを揚げるわけでも、店頭で注文を受けるわけでもなく、武蔵境駅前でニワトリの着ぐるみを着させられて、客引きをするというものだった。真夏でもなかったのだが割と暑い日の昼下がりで、私は着ぐるみの中の暑さで朦朧としながら目の前を通り過ぎる主婦や小さなお子さんに手を振ったりしていた。遠くから恐る恐る寄ってきて、私の足やお尻にキックする子供も居た。
最初は軽くあしらっていたものの、しつこく寄ってきては何度も蹴っ飛ばしてくる子供が居たので、いいかげん途中で頭にきて、ニワトリ姿のまま駅前を追いかけ回して泣かせてしまった。そして私はニワトリのまま性格の悪い店長にこっぴどく怒られてしまい、なんだか納得ができなかったので「だったらてめぇがやれよ!この、うすらデブが!」と暴言を吐いてしまい、真っ赤な顔になったGMに更に怒られてしまった。
お店の閉店後に、同じシフトで一部始終を見ていた上智大学に通うオールナイターズみたいな女子大生が、私を不憫に思ったのか、食事に連れていってくれた。おしゃれな話に聞こえなくもないが、連れていってくれたのは東秀(東秀というのはオリジン弁当の前身でチェーン店の中華食堂)だった。あそこの回鍋肉定食は実に美味かった。
で、チキンである。
私はアルバイト時代に、何本のチキンを揚げたのか分からないほど揚げたし、そして食べた。あのチキンは、本部から厳重に管理されてお店に届けられた謎の小袋に入ったスパイスを、お店のキッチンでフラワーと混ぜ合わせ、予めカットされて真空パックされた鶏肉を、謎の白い専用液に漬け込んで、さっきのスパイスと混ぜた粉にまぶしてトントンと余分な粉を落とし、これまた専用の圧力釜でじっくりと揚げるのだ。部位によって粉の付け方や骨の外し方など、少しテクニックが必要な作業だった。チキンを揚げるたびに釜の内側についたカスをステンレスのヘラで取る作業と、調理のたびに粉をふるいにかけダマを取る作業が、私は面倒臭くて嫌いだった。しかし今思えば、それを毎回真面目にやってるからこそ美味いんだろうなと今では思う。
働いていた頃の思い出も手伝ってか、ファミマよりもモスバーガーよりも、チキンといえばケンタッキー派だし、なにしろ初めてUBER Eatsで注文したのもケンタッキーだ。
そしてここでご紹介したいのが、我がFOODCLUBに新登場するフライドチキンである。
ラテンアメリカ料理を得意とするFOODCLUBの野岸シェフが、いつの間にかこっそりと開発していたフライドチキンが、すこぶる美味い。
研究を重ねたというマリネ液に漬け込んだチキンを低温調理してからオリジナルスパイスの衣で揚げているらしい。ハワイで一番美味いと言われている「Kona Bill’s Café Express(ガソリンスタンドの中にある)」よりも、ジューシーでサクッとしていてクラフト感があり、あきらかに美味い。
最近ではクリスマスのチキンに「唐揚げ」も仲間入りしているようなので、今年は選択肢のひとつにFOODCLUBのフライドチキンもご検討頂ければ幸いです(宣伝)
『耕作』『料理』『食す』という素朴でありながら洗練された大切な文化は、クリエイティブで多様性があり、未来へ紡ぐリレーのようなものだ。 風土に根付いた食文化から創造的な美食まで、そこには様々なストーリーがある。北大路魯山人は著書の味覚馬鹿で「これほど深い、これほどに知らねばならない味覚の世界のあることを銘記せよ」と説いた。『食の知』は、誰もが自由に手にして行動することが出来るべきだと私達は信じている。OPENSAUCEは、命の中心にある「食」を探求し、次世代へ正しく伝承することで、より豊かな未来を創造して行きたい。