ゲストシェフにブランシュ・ロワゾーさん(仏)。能登半島地震被災で避難生活を送る子どもたちを特別ディナーに招待
2024年10月14日A___RESTAURANTにおいて、能登復興支援「EAT AID」第3回目となるイベントが開催され、17時から始まった第一部では、令和6年能登半島地震で被災し避難生活を送っている小中学生を招待しての特別ディナーが行われました。
当初、フランス料理界のレジェンド、ベルナール・ロワゾー氏の精神を受け継ぐブランシュ・ロワゾーさんをゲストシェフとして招いた通常のコースディナーが企画されていました。しかしレストランチームとブランシェさんとの打ち合わせが進む中、避難生活を送っている子どもたちを招待してエールを送りたいという思いが一致、「EAT AID」としての企画として開催することに至りました。
参加募集には1組53名もの応募がありました。席数が限られていたため、やむなく抽選で12組31名の招待となりましたが、子どもたちと保護者の皆さんに「おいしいエール」を届けることができました。
(※19時からは第二部として一般フリー参加スタイルのEAT AID 3rdが開催され、1st,2ndの回同様に盛況となりました。)
ブランシェさんと故郷ブルゴーニュ料理
ゲストシェフのブランシェ・ロワゾー さんは、フランス料理界伝説のシェフである故ベルナール・ ロワゾー氏の次女でグループレストランの料理長。シェフは男性のものだけではないという意味をもつ「La cheffe」という言葉を用い、フランスを代表する若き料理人としても注目されています。日本において懐石料理や茶道も学ばれています。
ブランシェ・ロワゾーさんのプレートは赤ワイン仕立てのポーチド・エッグ。ロワゾーさんの出身地、フランスはブルゴーニュ地方の名物料理であり家庭料理でもある『ウフ・アン・ムーレット(œufs en meurette)』です。
赤ワインとベーコンやマッシュルームを煮込み、さらにバターなどを加え煮詰めて作ったソースをポーチド・エッグにたっぷりかけた、ビストロなどではメインにもなるワインの産地ならではの一皿です。
『ロワゾー・ドゥ・フランス(6月に東京店がオープン)』流では「ポーチドエッグのムーレット 赤ワインの香り」と名付けられ、キャラメリゼしたオニオンのエスプーマを使いモダンに仕上げられていますが、今回のディナーでもそのスタイルが踏襲されていたようです。その味は本家三つ星レストランの料理長の手によってそのまま子どもたちに届けられました。
この日のメニューの調理では子供用のアレンジはせず、「能登シイタケ・加賀蓮根・柿・鯖などのテリーヌ」 「能登産サワラ焼き〆の一口スープ」 「(前述)ポーチドエッグ」 「オリーブオイルのアイス」といった最新の調理技術も使ったレストランディナー料理を提供(※アルコール成分などは残らないように処理)。レストランスタッフによって、参加した子どもたち一人ひとりをレストランのお客様として迎えられました。
また、金沢市が主催する和食料理コンテスト「全日本高校生WASHOKUグランプリ2024」(北國新聞社後援)で、石川県勢で唯一出場し優勝したチームを輩出した鵬学園高校もインターンとして準備に協力。日仏のプロのシェフたちと一緒に作業をするなど、彼らの貴重な体験となったことは間違いありません。そして彼らにも私たちがEAT AIDを行う意義と思いが伝わったことと思います。
「おいしいエール」のこと
今回行われた「避難生活を送る子どもたちのための招待ディナー」の参加者募集案内状に『おいしいエールをレストランから』という言葉を使いました。このディナーイベントを報道した地元新聞はそれを受け「能登の親子においしいエール」という見出しをつけました。
「エール」は日本語として、声援、応援といった意味で確立した言葉です。「エールを送る」を英語でyellを使って直訳してしまうと「わめき声を送る」になってしまいます(通常はCheer forやcheer upが使われます)。
しかし、筆者はこの「エール」という和製英単語的カタカナが嫌いではありません。静かに心の内で声援を送るときにこそ響く素敵な日本語に思えるからです。
「いきものがかり」の水野良樹は” YELL “で <サヨナラは悲しい言葉じゃない それぞれの夢へと繋ぐ YELL> <僕らが分かち合う言葉がある こころからこころへ 声を繋ぐ YELL>と15歳の頃の深く思い悩んでいた自分を思い返し作詞しました。水野氏がYELLと書き歌ったのは日本語の” エール “だと思います。この曲の中ではどこにも「フレーフレー」とか「がんばれ!」とは歌われていません。
あっという間に崩壊してしまった家や町、集落を目の当たりにしてしまったテーブルの小中学生の心の奥を、われわれが覗き見ることはできません。「元気になって」という声がけではその心に寄り添えていないような気がするのです。
もし何かが止まってしまっているのなら、動き出させてあげたい。食の力でそのきっかけをあげることができたら。
食事とはおなかを満たすだけのものではありません。一皿の料理の中には食べる者を癒す力、目覚めさせる力、想像させる力があふれています。料理とはそうあるべきものだと筆者は思います。
それがレストランが贈ることができる「おいしいエール」です。そして食事の場が、避難先とは違う、ファンタジーの香りを纏った不思議な空間ならば、ひと時でも望まない日常から抜け出せ、料理の持つ力はさらに増幅することでしょう。A_RESTAURANTとは正にそういう場所なのだと思います。
この日ディナーに参加したことが、子どもたちの心を、それぞれの料理、一皿の中の複雑な味が織りなすハーモニーが刺激し、少しでも癒しになり、何かに目覚め未来を想像する時間になったのなら幸いです。
また、新聞記事には、輪島の仮設住宅に住む参加者の母親の「良い気分転換になった」という言葉がありました。
大人も子ども気分転換が必要なのには変わりがありません。特に目に見えない緊張を抱えている被災者や避難生活を送る人にとって「気分転換」は重要です。食の領域でそういう気分転換の場と機会をこれからも提供していくことはOPENSAUCEの大きな役目だと考えます。
2か月ほどで震災から1年が経ちます。9月には豪雨災害に見舞われ中学生を含む15人が亡くなりました。石川の食を支えてきた能登の復興は、また遠くなってしまいました。
だから私たちOPENSAUCEは、私たちにできる「おいしいエール」という支援、EAT AIDという活動を止めることはできません。これからも、持続させていくために考えられる最大の力を注いでいきたいと思います。
編集部(文責: Joji Itaya)