私は台湾に住んでいる(現在)。
台湾というと美食の国というイメージを持たれる方も多いが、果たしてどうだろうか。それは正直、値段によるよ、と思っている。
現在、日銀が大規模緩和策を維持する方針のまま、マネーを垂れ流し、今現在で1ドル150円超えが当たり前の円安。景気を犠牲にしてでも緩和策から脱却するか、インフレによる貧困化は構わないと緩和策を継続するか、そろそろ考えなければいけないのに選挙前なので時局を動かせずにダラダラと円安が続いている2023年10月の最中に私は台湾に行ってしまったのである。
私は台北の三重区というところに住んでいるのだが、安いといわれる三重(台北橋駅周辺)の屋台で食事をしても150元。700円ちょっとである。
どうせ金出すなら、いいもの食べてやるわい、ということで20代の頃からずっと食べたかったものを食べることにした。
それが、素食(スーシー)である。日本の「素食」とは意味が異なる。
一番最初にこの素食の存在を知ったのは、約20年前。攻殻機動隊2ndGIG第8話『素食の晩餐 FAKE FOOD』であった。
素食とは平たく言えば、ベジタリアンフードである。元々は仏教や道教の一派で食べることを禁じられた三厭(羽がある生き物が空厭、地上の生き物が地厭、水の中の生き物の水厭)、さらに五葷(ネギ、ニラ、ニンニク、ラッキョウ、タマネギ)などニオイの強いものを忌避する。ここまでは日本の精進料理と同じである。しかし、素食の特徴は、「これは肉とか魚じゃない?」と思えるほどに、普段の料理に味も見た目も巧妙にコピーする「もどき料理(「倣葷菜(ファンフンツァイ)」)」にある。これは宋代の頃には確立され、清代の薛宝辰『素食説略』を著した頃には頂点に達する。
さて、本当に肉や魚と思うのか。そこで品数も多く頼みたいし、ベジフードと気づくかどうかも試したいということで、素食を知らない日本人女性2名と行ってみたという単なるデート記録である。
やってきたのは台北のMRT松江南京駅から出て徒歩0分の『養心茶樓蔬食飲茶』というお店。
さて、入って注文するとまずストイック度合いが試される。
「全(純)素ですか?」と店員さんから聞かれる。全素とは、牛乳も卵も排除する精進料理である私はあえて卵入れない全素路線でいってみた。
さて、最初に出てきたのは焼きそば。料理名は「廣州炒麵」
お店の人がお薦めしてくれた料理。
このエリンギが肉代わりというか、なかなか美味しいアクセントになるんですね。
非常においしかったです。
むしゃむしゃ、ご馳走様。
「わー、鮑―!!!」
ククク。騙されおったわ。
このメニューは『滷水鮮包片』。これはバイリング茸を使った料理。日本ではユキレイ茸とも呼ばれる。このコリコリとした食感はまさにアワビ。
ところが「あれ、これキノコじゃない?」
と、すぐにバレてしまった。
素食とは、出家した坊さんやストイックな信徒が三厭五葷を避けるための料理。あくまでも、「これを食べて、肉とか魚を食べた気持ちになる」というものなのである。最初から肉や魚を食べると思って食べている人には通じない。
これは鮑であると、キノコから鮑の要素を脳内で再構成してこそ初めて通用するFAKEFOODだったのである。
最初の料理から種明かし。「全部素食っていう料理なんだー」と、企画を明かし、純粋に素食を楽しむことにする。
とりあえずビールでも貰おうかな、あ、ビール無いの。さすが徹底している。お茶ください。
さて、次の品目は
どう見ても肉。
カレー味。どうだ、さすがに肉….うん、食べてみるとエリンギだわ。
肉じゃないけど、エリンギの可能性を広げているのは確か。
香獅子頭
タロ芋と豆腐を団子にして、醤油で煮込んだもの。鶏肉団子といったら信じるレベル。というか、鶏肉団子よりも芋の粘り気があって、芋料理として単純に美味しい。
みんな「芋おいしいー」と言っていた。
肉ではなく、1発でバレる芋である。しかし、芋料理としてかなり美味しい。
中央から時計回りに赤いのが養心燒賣皇。上海小籠包、田園蔬菜餃。
正直、精進料理とは思えない点心の味。肉汁(野菜出汁)の旨みが素晴らしい逸品。
この店に来たら点心は絶対に頼んだ方がいいです。
おや、この料理はなにかな。料理名「芋香子排」
断面の見た目は、なんか北陸名物のヘシコに衣つけたかんじ。え、鯖じゃないの?
中はもっちりのタロイモ。外側の黒いのは海苔。その外は湯葉。
初めての食感。
これは何をオマージュしたのか気になって店員さんに聞いてみた。
そんなことを聞かれたことがないらしく、10分後に「豚肉料理です( ง ᵒ̌∀ᵒ̌)ง⁼³₌₃」と、料理長から聞いてきてくれた。うーん、豚肉っぽくはなかったかな。海苔を使っているので、魚のオマージュかと思っていました。
この店は台湾でも予約困難店の一つで、開店と同時にすぐ埋まってしまう。
肉や魚の代替というより、菜食の可能性を広げる新たな試みに素食は広がっていった感がある。
台湾に行きましたら、ぜひ一度足を運んでみることをお薦めします。
写真を撮り忘れましたが、デザートの杏仁豆腐が絶品です。
養心茶樓蔬食飲茶
- 住所 台北市松江路128号2F
- 電話番号 (02)2542-8828
- 営業時間 11:30~14:00、17:30~21:30
- 休業日 年中無休
- クレジットカード 可
- 日本語 不可
- 日本語メニューあり
- MRT「松江南京」駅出口8番を出てすぐ左隣
私は、だいたい数日に一食しか食べない。一ヶ月に一食のときもある。宗教上の理由でも、ストイックなポリシーでもなく、ただなんとなく食べたい時に食べるとこのサイクルになってしまう。だから私は食に対して真剣である。久々の一食を「適当」に食べてなるものか。久々の食事が卵かけ御飯だとしよう。先に白身と醤油とを御飯にしっかりまぜて、御飯をふかふかにしてから器によそって、上に黄身を落とす。このときに醤油がちょっと強いかなというぐらいの加減がちょうどいい。醤油の味わい、黄身のコク、御飯の甘さ。複雑にして鮮烈な味わいの粒子群は、腹を空かせた者の頭上に降りそそがれる神からの贈物である。自然と口から出るのは、「ありがたい」の一言。