2022.03.15

下川 哲 食べる経済学
【私の食のオススメ本】

食べる経済学 表紙

  • 書名:食べる経済学
  • 著者:下川 哲
  • 発行所:大和書房
  • 発行年:2021年 

SDGsということに、自分は何をすれば良いかと常に考えているとは言えない。その課題から出てきた「レジ袋」を購入するか、エコバッグを持っていくかと悩むあたりで止まっている。それは大きな数字だけをぼんやりみているからかもしれない。実はピンときていないのである。きているフリはするのだが。

著者である早稲田大学政治経済学術院准教授、下川哲はこんなことを考える。牛丼1人前を作るために必要な資源はどのくらいか?

牛肉100g、タマネギ70g、米250g、醤油10cc、砂糖小さじ1・・そしてトウモロコシ1kg、水560L、1平方メートル以上の耕地、が必要だ。耕地というのは、ただのスペースではなくその土地に含まれる栄養のことでもある。こう書かれると、うーん、食べるということは地球全体の資源とつながっている、と思うのだ。

食べる=地球に影響を与える、ということだ。

経済学の中でも、食に関わる市場の仕組みや人々の行動に注目したものが農業経済学だ。この本では、「農業経済学」という枠組みを用いて「食べる」にまつわる社会問題を見直していく。地球と食卓をつなぐ感覚というのがだんだんわかってくる。

著者は、「食べる」と「食料生産」を合わせて考えることで、普段自分たちが何を食べるかによって、地球環境や将来世代にどう影響するかが見えてくる、という。しかし、このことにピンときている人が少ないともいう。

この本では農業経済学をもって、「食べる」から社会を俯瞰し、そこにまつわる社会問題を数値で確認し、今より「食べる」を良くするための試行錯誤を考える。そして未来をイメージさせてくれる。つまり、ピンとくるのだ。

最も望ましい「食べる」とは何か。国際食料市場がなぜ重要か。食品ロスは誰のために削減するのか。食品偽装はなぜ繰り返されるのか。肉食と環境における悩みとは。なぜ政治的な思惑はつきまとうのか。「食べる」と「人間らしさの難しさ」が阻むもの・・・そして、できるだけ多くの人に「健康的で持続可能な食生活」を実践してもらうためには・・。

時間潰しに読むような装丁に見えるが、視点は鋭く、そして語り口はライト。今、読むべき本。いろいろな社会問題や課題に対し自分がどちらへ向かうべきか、どう行動すべきかが見えてくる。

WRITER Joji Itaya

出版にたずさわることから社会に出て、映像も含めた電子メディア、ネットメディア、そして人が集まる店舗もそのひとつとして、さまざまなメディアに関わって来ました。しかしメディアというものは良いものも悪いものも伝達していきます。 そして「食」は最終系で人の原点のメディアだと思います。人と人の間に歴史を伝え、国境や民族を超えた部分を違いも含めて理解することができるのが「食」というメディアです。それは伝達手段であり、情報そのものです。誰かだけの利益のためにあってはいけない、誰もが正しく受け取り理解できなければならないものです。この壮大で終わることのない「食」という情報を実体験を通してどうやって伝えて行くか。新しい視点を持ったクリエーターたちを中心に丁寧にカタチにして行きたいと思います。