- 書名:色から選ぶ、ソースの図鑑
- 編者:柴田書店(編集:丸田祐 井上美希)
- 発行所:柴田書店
- 発行年:2023年
ソースのレシピを見て(読んで)ワクワクする時代にまだ生きていてよかったと思う。ソースの事典的なものはこれまでいくつも出版されて来たが、25人の日本の第一線で活躍するシェフたちによってそのレシピが提供されているものとしては最新の内容だろう。
この25人のシェフは年代も違うのだが、国内外の一流のレストランなどで修業してきたことは確かだ。ということは、その国、そのレストランに永く伝わるソースだったり、進化してきたレシピを知っているということだ。
すでにこのコーナーでアントナン・カレームのコミック版伝記の紹介をしているが、カレームは19世紀、ソースを「ソース・アルマンド、ソース・ベシャメル、ソース・エスパニョール、ソース・ヴルーテ」と4つの基本に分類した。
そのソースはフランス料理の領域を超え、国や地域の独自の食文化と時代時代の料理人の表現によりリミックスされ続けてきた。繰り返すようだがが、本書はその料理人たちが「教えたい自分のソース」レシピ集である。
ここから始めれば、過去へ遡っての深掘りにも興味を持つだろうし、容易になる。そして多様な現在地を俯瞰で捉えることができる。
本書ではミシュランの星を持つフランス料理『L’aube(ローブ』のオーナーシェフでありOPENSAUCEメンバーの今橋英明氏もソースのレシピを提供している。確かに、これまで何度か今橋シェフの料理をいただく機会があったが、その度にその一皿の鮮やかなポイントでもあり、食材をマリアージュする魔法のソースが一体どのように出来上がっているのかと感動しながらも毎回首を傾げていた。
素人にまったく同じに再現できるとは考えもしないが、他のシェフの作るソースも同様に謎解きになり、頭にも胃袋にも刺激にもなる。
この本を見た感想の一つとしてアントナン・カレームの言葉を再度記載しておきたい。
「料理を終えたあとのシェフの義務は、記録し出版することだ」
出版にたずさわることから社会に出て、映像も含めた電子メディア、ネットメディア、そして人が集まる店舗もそのひとつとして、さまざまなメディアに関わって来ました。しかしメディアというものは良いものも悪いものも伝達していきます。 そして「食」は最終系で人の原点のメディアだと思います。人と人の間に歴史を伝え、国境や民族を超えた部分を違いも含めて理解することができるのが「食」というメディアです。それは伝達手段であり、情報そのものです。誰かだけの利益のためにあってはいけない、誰もが正しく受け取り理解できなければならないものです。この壮大で終わることのない「食」という情報を実体験を通してどうやって伝えて行くか。新しい視点を持ったクリエーターたちを中心に丁寧にカタチにして行きたいと思います。