- 書名:愉しい日本酒学入門
- 編著:新潟大学日本酒学センター
- 発行所:河出書房新社
- 発行年:2025年
これまで読んだ「日本酒とは何か」「日本酒の現在」を知るための本にくらべて、とても読みやすく面白いという感想を持った。例えていうならば大学の市民講座でとっても楽しい講座に通っている感じで読み進むうちに、読者はかなりの識者になれそうなのだ。
帯に「知るほどに話したくなる」とあるがその通りである。
日本酒礼賛として日本酒をとりまくあれこれを俯瞰的に取り上げた「講義1」。日本酒の原料である米と水そして微生物の動き、技術と職人についての「講義2」。日本酒を味わうための官能学・飲食学をしる「講義3」。日本酒の健康学の「講義4」。日本酒の歴史から現在、そして日本酒の社会における役割を知る「講義5」。料亭、花街、古典文学の中の日本酒などの日本酒の文化学から酒を主食とする民族の話までの「講義6」。最後の「講義7」では社会学的視点からの日本酒について論じている。
そもそも新潟大学の「日本酒学センター」のセンター長や農学部教授など20名ほどでの編著なので、ひとつの学問の体系として学べるのは確かだ。
「日本酒学」という学問を構築したのは新潟と新潟大学というところの戦略もあるのだろうが、海外でも造られ始めている日本酒を世界へアピールするにはナイスな発想だとは思う。
ただし、これらをまとめた人々は「日本酒礼賛」の立ち位置であることは確かで、読者には疑問符を頭に置きながら、?がついたところはさまざまな文献と照らし合わせて判断しながら読むように注意はしておきたい。
酒は万病の元か百薬の長か?というあたりでは、一人当たり1日、ビールなら500ml、日本酒なら1合が適量とこれまで通りの疫学研究からの内容が書かれていて、人としてはそうありたいと思っているのだが、そんな平均飲酒量で日本酒の未来を明るくできるのだろうかとつい考えたりするのである。
また、編者の文章に、日本酒学という学問をつくった際に『酒は人類の最古の友である』というキャッチコピーをつけた、とある。後ろに『悪友であった』とつけていたのだが反対があって削除したという。酒自体は現代の人間の営みの中で矛盾した位置にある。そう考えると酒の製造も矛盾の中にある。
とくに海外進出などこれからの日本酒ビジネスについては、希望的データや観測だけを鵜呑みにするのは危険だろう。しかしながら、日本酒がさまざまな形で展開、評価されていく可能性は否定されることはないだろう。世界中で注目されているのは確かだ。しかし、それがどこまで伸びていくのか、マーケットが出来上がるのか、嗜好品として確立するのどの規模なのか?
國酒「日本酒」はどこを目指すべきなのか。
表紙に「お酒好きのための教養講座」とあるが、本書は食に関わる人には読んでおくことを薦めたい。本書の土台となるのは大学の日本酒学の参考図書『日本酒学講義(ミネルバ出版)』で、専門的な内容なのだが、それを読むのは容易ではないはず。やさしく体系的に整理された本書から入るのが良いだろう。さまざまなニュースや情報を読み解くベースにはなるはずだ。
本書と一緒に過去に紹介した久保順平著『世界の富裕層を魅了する「日本酒」の常識』という本をも薦めたい。本書より3年前に出版されたものだが、両方を読んでから現在の日本酒について調べると、見えてくることも多そうだ。
出版にたずさわることから社会に出て、映像も含めた電子メディア、ネットメディア、そして人が集まる店舗もそのひとつとして、さまざまなメディアに関わって来ました。しかしメディアというものは良いものも悪いものも伝達していきます。 そして「食」は最終系で人の原点のメディアだと思います。人と人の間に歴史を伝え、国境や民族を超えた部分を違いも含めて理解することができるのが「食」というメディアです。それは伝達手段であり、情報そのものです。誰かだけの利益のためにあってはいけない、誰もが正しく受け取り理解できなければならないものです。この壮大で終わることのない「食」という情報を実体験を通してどうやって伝えて行くか。新しい視点を持ったクリエーターたちを中心に丁寧にカタチにして行きたいと思います。