2020.09.01

農業法人KNOWCH 村田智社長インタビュー 農業ベンチャー設立とこれから 後編

農業法人KNOWCHの村田代表

FM石川のラジオ出演を終え畑に向かう村田智(むらたさとし)社長に、前編では農業法人取得と、ここまでの流れを聞きました。後編では、農業法人が求める人材像と、農業界の未来についてさらに掘り下げました。

農業法人に転職はアリ?(株)KNOWCHの求人について

-これからどういう人材が欲しい、KNOWCHにジョインして欲しいという人物像はありますか?

まずは、農業やってみたいという好奇心があるかですね。やる気があるというと精神論的になっちゃうんですけど。

それプラス、さっきの話じゃないですけど、自分で能動的に動けるかどうかですね。

僕がずっと目の前で見てるわけじゃないので、自分で考えて行動をする、仕事をするということが非常に多いんですよ、農業って。

なので、自分でやったことないから「村田さん来るまでできません」とか、一、二回やってみて失敗したから「もうこれできません」というような人はちょっと厳しいですね。

– ラジオ番組のインタビューでも言ってましたね。

一人あたりの栽培面積を増やそうと思うと、僕が言ったことばかりやる人間ばっかりだと、僕死んじゃったらそれで終わりじゃないですか。

なので、早く作業の計画立てられたりとか、トラブルに対応できるようになって欲しいんです。

僕の時間も有限なので、言ったことしかできないと、正直厳しいですね。

人材については、やっぱり面接が非常に大事で、だいたい面接すると、「御社の農業のやり方に感銘を受けました」とか、農業は業界として、たとえばコロナ禍でも安定してるとか言う人もいるんですよ。「だから働きたいと思います」と。

じゃあ、質問を変えて、そこまで農業をやりたいと思ってるなら、今日の面接までに農業やるために取り組んでることありますか?って聞くと、みんな「入社してからがんばります」みたいなことを言うんですよ。

そういう人は、この人は入っても受け身の人なのかな?と思っちゃうことはありますね。

– 今まで入った社員の中で面白いと思った人は?

いま26歳の人がいるんですけど、元・農業高校の先生なんです。

経歴として安定している先生を辞めて受けに来たんで、理由を聞いたら、自分が学生たちに教えてるんだけど、農業高校なのに農業に就職する人がほぼ居ないと。

これは自分たちの教え方が間違ってるんじゃないかという疑問から、どんどん農業に興味を持ち出して、自分がもし、もう一度教えるとしても、農をなりわいとしたことがあるという経験を活かして教育したいと言われたのは、面白かったですね。

-じっさい農業高校って、卒業しても農業される方は少ないんでしょうか。

そうですね、少ないと思います。実際、5%もいないんじゃないですか、継ぐ人。

-会社組織でこれからもやっていくと、そういう人も増える可能性もありそうですね。

あると思います。

けっこう石川県とか全国区で名前の知れてる農業法人さんっていっぱいあるんですけど、家族経営のところが多いんですよ。そうすると、例えばご夫婦の間にはさまれちゃったりとか、夫婦げんかしてると仲裁役になったりとかもあるみたいです(笑)

もしくは、やる気のある方だったら、ゆくゆく経営者になりたいけど、ファミリーカンパニーだとだいたい、息子さんとかが後を継ぐじゃないですか。

それでその限界を感じてしまって、やっぱり会社組織がいいっていう。しかも、家族経営じゃないところっていう方が希望者としては多いです。

– 農業高校で勉強してる人たちっていうのは、習ったことが活かせる就職先もあまりないということでしょうか。

一番、就職先として多いのは、たとえばホームセンターとか、JA農協とか、あと資材メーカーとかが多いですね。トラクターメーカーとか。

で、肝心な農業に行く人がいないっていう。

– 農業高校は今、生徒の人数は減ってるんですか。

減ってるとは思いますけど、普通高校に対して大幅な割合で減ってるということは無いと思いますね。減る割合は。少子化の流れの減り方だと思います。

-農業はいま、キラキラなストーリーも入れて偏った意味合いや、ナチュラル志向だったり、脱サラといった文脈でも農業を取り上げると思うんですけど、KNOWCHで言うところの農業やりませんかっていうのは、誰でもとりあえず一回来てみませんか、という感じですか?

メディアの取り上げ方はほぼそうですね。ただ、例えば、ありがたいことにホームページとかから、メールで興味があるとご連絡頂くこともあるんですよ。やっぱりうちも、一応プロセスを踏んでいて、Zoomでミーティングするようにしてます。

次が、1日なり2日なりの、学生だったらインターン、社会人だったら週末体験だったりという形で段階を踏んでいって、それでもジョインしたいということであれば、そこで採用面接を計3回やります。

一回目の面接が一番若手のスタッフ、入社したら最初に一緒に働くことになるであろうスタッフですね。

二回目の面接が、僕を除いた役員面接です。

三回目が、僕を交えた役員三名での面接という形で進めてますね。

– 二回目の村田さんを除いた、というのはどんな理由でしょうか?

けっこう、人間って会うことに親近感って出てくるじゃないですか。

一回くらいの面接だとけっこう演技できるんですけど、まぁ、意地悪な言い方ですけど二回目、三回目ってなるとボロが出てくるので(笑)

それで三回に分けてるっていうのはありますね。

農業法人KNOWCHのメンバー

– 意地悪というより農業においては、企業に入るクリアの仕方で入ってもお互いに意味がないっていうことですよね。

そうですね。けっこう、コロナ禍っていうのもあるんですけど、いま半年で8人くらい面接してるんですよ。

やっぱり多いのが、ありがたいことにメディアの取材とか頂いてるんで、取材を読んできてるんでしょうね。で、同じこと話すんですよね(笑)

じゃあ、うちでやりたいことはわかったんだけど、◯◯さん自身が農業でやりたいことあるんですかって聞くと、やっぱり何もないんですよね。

マニュアル通りというか、マニュアル通りに行かないので、農業は。

そうすると、マニュアルにどっぷり漬かってる人は合わないでしょうね。思考プロセスが似てしまうので。

– 年齢ではないんでしょうけど、会社を辞めて農業を始めるならいくつまでのほうがいいとかあるんですか。

いや、別にそれは無いですね。

年齢はいくつからでもやれるので、チャレンジの門戸は開いてます。

ただ、面接は厳しいですね(笑)

僕とか役員面接より、一番最初の、うちで働いてるスタッフ面接が一番厳しいですね。

終わってから内容聞くと、それ、自分たちが受けたら絶対受からないだろうっていう面接をやっちゃってる(笑)。愛はあるのか、とか言っちゃうんです。

うちの会社に愛はあるんですか、とか入る前から。そりゃないだろう、入ったこともないのに(笑)

農業法人KNOWCHの女性ぶどうチーム

– 今いるスタッフの方々がそういう情熱があるっていうことですね。

そうですよね。

女性でやっているレディースぶどうチームなんかは、ぶどう栽培を初めてまだ、長くても半年くらいですからね。それで普通に市場に出荷してるので。

しかも評判いいんです、そのぶどうが。すごくキレイに作れてると。

なので…入社するとなると、もしかしたらまぁまぁ厳しいかもしれないですね、うちの会社(笑)

役員より厳しいし、求めてることが厳しいかもしれないですね。

けっこう、弱音吐かれるんですけど、そのへんは…無視していくんで。大した問題じゃない、て言って。

– 雰囲気的には運動部っぽいですもんね。

元気ですね、メンタルも強いし。

根性論ではないけれど、たとえば、自分に置き換えて考えると、農業始めて、精神的には強くなったというか余裕が出てくるようになりましたね。たいていのことでは怒らなくなりました。

やっぱり農業やってると、収穫までが100%だとすると、90%まで数ヶ月かけてやって、いきなりお天気とか台風とかでダメになっちゃうこともあるんで、そういうのを経験すると、たいていのことはやれやれという感じで、諦めるしか無い部分も出てくるので。

そうすると人間関係においても、以前はイラッとしたようなことでもなんとも思わなくなってくるんですね(笑)

– イライラする人は農業やったほうがいいかもしれないですね。

そうですね、たぶんイライラしなくなると思いますね。

やっぱり、他の仕事はあまりそういうことが無いんですけど、マニュアル通りにやっても結果が出ないことがあると、一回一回、一喜一憂してても仕方ないのである程度のことは淡々とこなせるようになると思います。

– ITだと前段で準備をして、準備が整ったところで導入して、という感じですけど、トラブルがあるっていうことは、どこに問題があったかすぐにわかる。

そうです、責任の所在がくっきりするじゃないですか。 一週間雨だったっていうのは責任の所在が無いですもんね。

だから、ほぼ自分の中では完璧にやったと思ってても、その前提条件が崩れちゃうので。

– それに対応して次に行かなきゃいけないんですよね。

そうです、そうです。しょうがないじゃん、てなる。だから、農業でないお仕事もしますけど、そういう時に誰かが失敗しても、まぁ失敗したのはしょうがないよね、って思っちゃうんですよね。

じゃあ、ここからどうしようかっていう感じに切り替えるクセがついてるので、農業以外にも活きてくることはあると思います。

– 日本人はもともとそういう民族なんですかね。

農耕民族なんで。効率化なのか、大量生産する時代に分業化が進んでガチガチに管理するっていうクセがついちゃったんでしょうね。

日本の農業とKNOWCHのこれから

農業法人KNOWCHの村田代表と佐藤役員

– 実際に家庭菜園の再現みたいなところからスタートして、この短い期間で実際に、これまで農地を持って拡大してきた視点で見て、日本の農業って大きくこういう方向に行かなきゃいけないのでは、ということはありますか?

そうですね。たとえば、ラジオ番組でも話したんですけど、食料自給率とかも、いま4割弱ですけど、大きく押し下げてる分野があって、何かというと畜産なんですよ。

ちゃんと和牛とか豚とか鶏さんとか作ってるんですけど、動物さんに与える飼料がだいたい外国産なんですよ。

そうすると、農林水産省の数字上ですけど、そのエサを輸入しないと、そもそも豚とか牛さんとか鶏さんとか作れないじゃないかっていうことで、それは食料自給率に反映されてないんですよ。

じゃあもし、畜産業で食べさせている飼料を100%国産でまかなえてたら、日本の食料自給率って実は9割以上あるんですよ。

最近、お米農家さんでも、飼料用米っていうのを作ってるんですよ。つまり、畜産の動物たちに食べさせるお米を作っている農家さん。

日本国もちゃんと考えてて、そういう飼料用米を作る農家っていうのは推奨して、助成金や補助金出したりして増やしていってますね。

僕らも、そんな流れにはきちっと乗っていこうと思っていて、思っていた矢先に、こういう新型コロナ禍の状況になって、ベトナムが穀物類を輸出規制とかし始めたんですね。

それでやっぱり、そういう食料自給率を押し下げてる分野に対しては、僕らも一農家として、押し下げてる分野をきちっとカバーして押し上げる分野にしていかないとなあとは思っています。

– あと大型の機械農業ができる土地ではないですよね。

そうですね、やっぱり機械はどうしても大型になっていってるんですけど、地形が山が七割くらいの国だったと思うので。

そうすると段々畑とか棚田にならざるを得ないですからね。

– 輪島には千枚田なんていうのもありますね。

しかも、世界の人口増え続けてますんで、今の総人口がずっと伸び続けると、だいたい2040年くらいに、地球の人口一人に対する畑の面積って、だいたい2400平米なんですよ。だから、800坪くらい。

農作物に関しては、800坪くらいの畑で、一年そこで作らないといけない計算になってくるんですね。

800坪の面積ってけっこう小さいんです。それで一人が食べ続けるとなると、今の人口が増え続けると、一人あたりにあてがわれる農地の面積が減っていくので、そういうところで狭い土地で高品質なものをつくる日本の技術が必要になるかもしれませんね。

– いま石川県内ですが、全国にこのスタイルを展開していくのでしょうか。

そうですね、はい。

最近なんですけど、メインで耕作しているところと、ご年配の農家さんとか、その地域のJAさんとかから、もっと畑なり田んぼを増やさないかというお話は結構頂くんです。

効率でいうと固まっていたほうが移動時間とかコストが少なくなるので、ある程度、これ以上広がらないなというようなこと、暖かい地域でしか作れないものをやらない限りは、もしかしたらまだ増やさないかもしれませんね。バランスを見て、まずはここのエリアでモデルを作ります。

やっぱり、冒頭でも言っていたとおり、最初は全部効率化して全国にさっさと広げるんだという考えでしたけど、まずは通常の農家っていうものをきちっと通過しないと。足場ガタガタのところに上に物を乗っけるみたいな感じになっちゃうんで、そこが大事かなと思います。

よくメディアに出てくるいろいろな農業、あるじゃないですか。無農薬栽培とか。そういうものに興味がないわけじゃなくて、スタンダードな農家になったあとに、その上に乗っけてくということはやって行こうと思っています。

まずは、農をなりわいとして、きっちり維持できる体制にならないと。

interview : Joji Itaya


編集部:今回、太古から続く農業というなりわいの、文字通り足元の泥臭い部分と、世界全体が抱える課題、その狭間にある現在について、語ってもらいました。

村田社長の軽妙な言葉の背景に、農業に向き合う人がもつ土の重みを感じます。大きく変化する食糧事情の中で、一人ひとりが自分ごとを見つけられる場所が少しずつできてゆく様が伝わります。

農業法人KNOWCHのこれからの展開にご注目ください。