2020.08.31

農業法人KNOWCH 村田智社長インタビュー 農業ベンチャー設立とこれから 前編

農業法人KNOWCHの村田代表

食農を追求するOPENSAUCEの農業部門を担うのが、農地所有適格法人(株)KNOWCHです。

FM石川のラジオ出演を終え畑に向かう村田智(むらたさとし)社長に、農業法人化までの経緯と求める人材、そしてKNOWCHと日本の農業のこれからについて語ってもらいました。

農業という未知の分野に取り組むきっかけ

-あらためて、農業に取り組んだ最初のきっかけについて教えてください。

村田:僕がまだ、OPENSAUCEにジョインしていなかった頃、小規模の会社さんの経理部門をアウトソースしてもらう会社をやっていたんです。今もやってるんですけど。

ある時、僕はもともと金融機関の営業マンだったんですが、お客様の農家さんから<農家が直接、直販する営業のやり方を教えてほしい>と言われまして、その農家が50人くらい集まる勉強会で、講演という形で勉強会をしたんです。

そんな活動を知ったOPENSAUCEを作られたばかりの宮田さんに、食に関することは全部やりたいから、農業、もしあれだったら一緒にやる?と軽く言って頂いて。

最初はそういう、軽いノリでした。

声をかけてもらったというよりは、一緒にやったら面白いんじゃない?といった感じでしたね。

宮田さんとはその時、つきあいが三、四年くらいあって、面白い人だというのはわかってたので、じゃあ一緒にやろうとなり、当時、武蔵ヶ辻にあった自分のオフィスをOP0ENSAUCEのある昭和町に移したんです、速攻で。

最初はただ、宮田さんも、ところで誰に農業やらせようか、村田、探せよって感じだったんですけど、五ヶ月くらいたっても見つからなくて。やってくれる人が。

さすがに、僕もOP0ENSAUCEとしてお給料みたいに頂いていたので、何にもしないのはまずいと(笑)。

それである日、僕が農業やります、と話したのがきっかけですね。

その時はまだ、OPENSAUCEの一事業部門として始めたという感じでした。

– その時はまだ、ビジネスもなにも、とりあえずやってみようという感じだったんですね。

農業の、産業としての課題は以前からわかってたんですけど、それをどうやって解決するかっていうのは全然わかってなかったんですよね。

宮田さんと話して、自分がやってみればいろいろわかってくるじゃないか、じゃあやりましょう、という話になりました。

「やさしい家庭菜園」からの農業ベンチャースタート

農業法人KNOWCH
農業法人KNOWCHの開墾式

それで、とりあえず「やさしい家庭菜園」みたいな本を三冊くらい買ってきて読んで、そのままやってみたんですけど、全然うまくいきませんでした。

これはもう誰かの指示を仰がないとダメだなと。

さきほど言った農家さん向けの勉強会の主催をしていたのが、今の手伝ってくれているたけもと農場の竹本さんという方だったんですが、そのご縁で竹本農場さんの一角をお借りして、ご指導を頂きながら野菜を作ってみることになりました。

最初の家庭菜園も、竹本さんの倉庫の裏手に使ってない田んぼがあったので、そこを使わせて頂きました。

完全に初めて。小学生の朝顔以来です、土をいじるのも(笑)。

まず僕一人だったっていうのと、朝顔も小学生のときまともに育てられなかったので、どうやったらこう、種を撒いて実がなるのかっていうのすら知らなかったんです。

なので、やりながら毎日3時間くらい勉強して、試行錯誤していました。

僕が始めたのが2018年のたぶん5月くらいかな。

 -じゃあ竹本さんがコーチだったんですね。

ところが、全部教えてもらえると思ってたんですが、僕もちょっと勘違いしてたのが、竹本農場さんは米農家だったんです(笑)。

自分がやろうとしていたのは野菜農家で。

これ、農家あるあるなんですけど、米農家って野菜のこと全然わかんないんです。逆に、野菜農家は米のこと全然わからない。

だから、野菜の作り方や栽培方法を教えてくれるというよりは、トラクターの使い方を教えてくれるとか、どうやったら芽が出る、くらいのところまでですね。

-人に指示で覚えるというより「自分でやるのが農業」なんですね。

そうですねぇ、情報ベースでは、世の中に書籍もそうですし、農業系のYoutuberみたいな人もいますし、情報はあるんですけど。

知識と実際にやってみるとでは違うので、その人たちの言っている通りにやってみても、実際にやってみたらうまくいかないことはたくさんありました。

例えば、教科書に「こういう土の状態にして、肥料これだけ入れて、種を蒔いて水を撒いてください」と説明があっても、そのとおりやって、水も規定の量撒いてるのに芽が出ないとか。

農業以外だと、ちゃんと会社で教えられた通りやったらできることが多いじゃないですか。それが農業は違うんだなっていうのがわかりました。

やっぱりそこの土の質とか、その季節の気温とか湿度とか、いろんなものが関係するので、教科書通りにやっても芽が出ないというのがあるんだなと思いました。

ありとあらゆる教科書っぽいノウハウ本には、ちゃんと最後に※印とかカッコ書きで「土の状態によって違います」とか書いてあるんですよ。

だから文句も言えないんですよね。書いてあるとおりやったけどできない、とかは言えない(笑)

– そういう土の状態とか湿気とか水分って、何かで計測できるものなんですか?それとも感覚なんですか?

例えば、土の温度とか気温などは、地温計に温度計とかがありますし、湿度もわかりますね。

あとは、地域によって、この種だと北陸地方だとこの時期に蒔いてくださいとか、種メーカーさんが情報を出してくださってます。

種を注文すると、種の袋にけっこう細かく書いてあるので、適してる季節に蒔いてくださいっていうのは守るようにしてますね。

– 種メーカーさんなどともお付き合いは生まれましたか?

そうですね、OPENSAUCEがメディアの記事に出た時に、何か協力できないかと言ってくださる種メーカーさんもいらっしゃいました。

ただ、先程の話じゃないですけど、作物に適した地域があって、その種屋さんが得意とする品目がなかなか北陸で作りにくい品目だったりして、協業とかには至ってないですね。

もし、作れたとしても、あまり利益を産みにくい品目だと、なかなか厳しいということもあります。

半年で農地所有適格法人を取得も、IoT化は…

– まず事業部をKNOWCHという会社にした理由は?

OPENSAUCEグループの一事業部門だったのを法人にした理由は、農業用用地、いわゆる農地ということにあります。

田や畑っていう品目になるんですけど、そういうところを買ったりするには<農地所有適格法人>でなければならないという法律がありまして。

そうなるには、農作物の売上とかで年商の51%以上を占めてないといけない、という法律があるんですよ。

そうすると、OPENSAUCEの一事業部門としてだと、レストラン事業や他の売上が入ってきちゃうので、過半数占めれないねということで、まずは分社化しようか、となりました。

– 農地所有適格法人はスピード取得しましたよね。

そうですね。

まずは株式会社をつくり、だいたい半年で、ちゃんと法律に則った農業法人の資格=農地所有適格法人を取りました。

(早いといえば早かったのですが)逆にいうと一般的には、例えば、父ちゃん母ちゃんでやってるような農家さんだと、会社にすると決算とか記帳しなきゃいけないので、面倒がってやらないというケースもありますね。

– ということは、どこかから移住してきて農業を始めようとしても、すぐにはうまくいかない?

そうですね、個人でも法人でもうまくいかないと思います。つまり、農業用地を取得なり借りるというのが、けっこうハードル高いんですね。

– 実際、ビジネスにしていこうと思ったのはどのあたりからなんですか。

起業に関しては、OPENSAUCEにジョインする前から何度か経験してたので、(割と早い時期に考え)そのへんはけっこう軽い気持ちで始めちゃいましたね。

もちろん、農業やってみたら楽しかったというのもあるんですけど。

– 会社を最初に作って、具体的に目指したことは?

最初は、正直、ITとかIoT、テクノロジーとか駆使すれば簡単にできるだろうと思ってました(笑)

ところが全く、IT、IoTを導入するスタート地点にまでなかなか立てないという感じですね。

やっぱり、理論上は1+1が2なんですけど、こと農業においでは、1+1 がゼロだったりとか、規則通りやってもうまくいかないことが多すぎるんです。

ITとかIoTとかテクノロジーって前提条件が揃ってて機能するものなので、前提条件を揃えるってことができなかったんですよね。農業の腕がなさすぎて。

つまり、IoTというと、芽が出たあとにセンサーとかつけるとかいう話なんですけど、腕がなさすぎて、そもそも芽が出せないとか。なので、センサーつけたくても付けられないっていう感じですよね。

芽が出ない問題についても、今では作物が変わっても、芽は出せるようになりました。

ただ、そのノウハウをテキストベースに起こして、新しく入った人にマニュアル渡してやってみてって言っても、たぶん成功しないかなと思います(笑)

 – そういう意味で、やりたいと思った人が参画できる場所を目指していると?

そうですね。いま取材を受けている瞬間も、うちの若い子たちは畑にいるんですけど、やったことない作業はOJTでやって見せて、一緒にやって、そのあと一人でやってもらうっていう形をとってます。

今日の作業は新しいところはないので、僕が現地に行かなくていいという感じですね。

– じゃあ会社としてやっていくという時に、どういう会社を目指したんでしょう。

最初はバリバリにIoTなどテクノロジーを入れて、ほぼ働きに出ないでいいようにしよう、みたいな夢を描いてましたね(笑)

ほぼ畑に行かなくていいなら、北海道とか沖縄にも畑作って、無人で管理すればいいんじゃね?みたいな考えを持ってました。

僕はオフィスでパソコンいじってるだけ、みたいな。

それが、今朝もそうですけど、朝三時半に起きて、四時半とか五時くらいに畑行って、ぜんぶ見回りして、気になったところメモして、現地にいるスタッフに、今日これやってくれと(笑)

これも、農業のやり方次第で、これがビニールハウスとかだと、もしかしたら行かなくていい日も出てくると思います。
ただ、うちはまだ今のところ露地といって、ふつうに雨とか天候の影響を受ける栽培の仕方をしてるので、日々、刻々と畑が変化しちゃうんですね。

– 現状で、露地をやってビニールハウスをやってないのはどういう理由なんでしょうか。

すごくいい質問ですね!

KNOWCHがオープンソースの農業事業部門でやっていたときに、日本の農業に2つ大きな課題があるという話をしてました。

1つ目は「耕作放棄地」といって、耕作を辞めてしまった土地がどんどん空いてきてると。

それに関連して2つ目は、農業従事者がどんどん減って行っていて、若い人があまり入っていかないと。

もともと、ビニールハウスとかの施設園芸というものは、例えば天候の影響を受けずとか、狭い面積でもたくさん作るとかそういう目的で作られたものなので、初期コストがある程度かかるんですよ。

加温っていって、ボイラーを焚いたりしてエネルギーを使うので。

一方、狭い土地でたくさんの量を作るのに考えられた物なんですけど、現状、日本はどんどん農地が空いていくので、わざわざ狭い所でたくさん作るということに、エネルギーとかコストをかけなくてもいいんじゃないかとなりました。

もしかしたらやるかもしれませんが、今のところは露地で自然のエネルギーを使った栽培で充分じゃないかと思っています。

今日の夜、雨が降るなら水を撒かないでいい

キャベツの収穫

– 会社に参画、農業やりたいっていう人たちにも、まず土から。

そうですね。もしかしたら施設を使ったものとか、水耕栽培とか、土を使わない栽培とか。

後々、参入するかもしれないですけど、基本的なものを学ぶのってやっぱり土を使ってやったほうが勉強になるので。

– 具体的に言うとどんな感じでしょうか。

自然のエネルギーを使って作物を作るプロセスが、まず学べますね。

具体的に言うと、作物の種を蒔いて芽を出すときに、ずっと晴れてる日に種を蒔いちゃうと、水をかけなきゃいけないですよね。

でも、今日の夜、雨が降るなっていうのがわかってて日中に種を蒔くと、水撒かなくていいじゃないですか。

すごい当たり前の話なんですけど、そういった知識というより知恵レベル。自分で考えてやってみて、検証するっていうことを、コントロールできない環境下で試してみると、能動的に学ぶクセがつくので。

– なるほど。KNOWCH=ノウチの由来って、農地という場所と、知識と、価値ですもんね。

そうですね。

– 農業の団体などともつながっていく中で、日本の農業はこうじゃないと進まないといったような課題意識はありますか。

まぁ、僕らもまだまだですけど、やっぱり現状では就業環境は良いとは言えないですね、農業は。

季節に偏りがありますけど、長時間労働が多いですし、あと、悲しいかな業界的には、他産業よりお給料が少ないです。

– 新しい農業ということで、収入と労働環境を改善してゆく目的もある?

はい、たとえば就業環境だと、週休二日制であるとか、今のところ地方公務員レベルのお給料を出してるんですね。

じゃあ、その環境を実現するためにはどうするかというと、うちは、農業法人の中では一人あたりの栽培面積が広いんです。

あとは、農業って、実はいろんな産業がある中で、労働基準法の適用外になってるんですよ。

ですから、労働基準法を守らなくていいんです、本当は。

– それは、個人事業主ということになっているから?

いや、違います。労働基準法にきちっと明記されていて、天候もしくは自然環境に左右される農業は除外、と書いてあるんですよ。

なので、極端に言うと、ずっと雨が降り続いてて一日晴れたら、貴重な晴れだから24時間でも働かせていい、みたいな解釈になってるんですよ。こと農業はけっこう、長時間労働させちゃう傾向にはありますね。

うちは少なくとも他産業並に、労基法に則って雇用しようと最初に決めました。

– それは農業従事者が少なくなる要因だから、ということですか。

おっしゃる通りですね。

やっぱり働く方々も、もちろんやりがいとかも大事ですけど、同じお給料であまりにも劣悪な労働っていうのはなかなか人気が出ないですよね。

– すでにやっている農家さんとか農業界からの反応ってどうだったんですか?

やっぱり最初は、何を夢みたいなこと言ってんだ、みたいな反応でしたよね(笑)

週休二日なんてあり得ないでしょ、みたいな感じです。給与の面も含めて。

– 農家の方が、それほど給料が少なく、大変な生活をしてるようには見えない気もするんですが。

実際に、例えばインターネットで「農家 年収」とかって調べると、たぶん100万円台とか200万円台で出てくるんですよ。

なんでかっていうと、日本の農家の9割って兼業農家なんです。

なので、もともとご実家が農家だったんだけど、息子さん世代とかは、平日は会社に行って、休日だけお米の田んぼをやってるとか。

そういう方の年収もぜんぶごちゃまぜになって平均年収と言ってしまっているので、大半の兼業農家さんが平均の数字を下げてしまっているということですね。

あと、二つ目の理由が、お父さんお母さんと息子夫婦とか、ご家族でやられてるから、というのもあると思います。

そうすると、例えば車を事業車として農業法人の経費で買ったりします。

そうするとやっぱり落ちますよね、利益率が。所得も下がるので。

お給料、役員報酬では取らないけど、農業法人の経費として計上するとかいうのは、あり得ると思いますね。

– 先ほどの外からの反応についてなんですけど、一緒にやってくれるところなどは途中から出てきましたか?

そうですね。同業者というか、知人の農家さんからもお声がけ頂くこともありますし、流通業の方とか、自分たちの仕事が農家とか、農業と関わりの深い方はけっこうお声がけ頂きますね。

– それは広がっていってますか?

そうですね。やっぱり、農業の業界全体が高齢化していて、じゃあ若い農家ってただぼーっとしてるかっていうとそうではなくて。

今から7、8割の農家が引退していくっていう現実があるので、今の若手が引退していく農家の分まで頑張らないといけないですよね。

なので、会社とか、働いてる場所が違っても、作物や収穫時期が違ってくるので、ワークシェアリングしたりとか、試行錯誤してますね。

これからもどんどんそういうつながりが出てきそうです。

今は、うちの畑がある地域でしか試してないですけど、もっと地域が離れてるところ、例えば北陸と東海地方だったり、関西だったりと行き来するようなことも出てくるかもしれないですね。

– バスケットボールのBリーグともコラボしているとか?

今年、愛知とか静岡の畑とか田んぼをうちが視察する予定だったんですけど、今、新型コロナウイルスの関係で先延ばしになってますね。収束してくれば進んでいくと思います。

地域のプロスポーツチーム、Bリーグといってバスケのプロリーグとか、サッカーだったらJリーグとか色々あるんですけど。JリーグにJ1、J2ってあるように、BリーグにもB1、B2、B3ってあるんですね。

で、B1リーグを維持する規定があって、それは売上高の規定もあるんですよ。

基本的に、地域のプロスポーツチームというのは、例えばバスケットボールならバスケットボールだけで稼いでくださいっていう決まりは別に無いんですよ。簡単に言うと何やってもいいんです。

ただし、売上基準とか、利益基準とか、資本金の基準とかっていうのはあるんですよ。これがまたうまいことになっていて、年々上がっていくんですよ。

そうすると、たとえばスタジアムが無尽蔵に観客席があればチケットって売れるんですけど、だいたい観客数って箱物なので限界があるじゃないですか。

仮に1枚1万円とか2万円とか高いチケットだとしても、年間の観客からの売上って決まってますよね。

そうすると、チームという形態を使って、どうやって売上を上げていくかっていうのも彼らの課題なんですね。

そこで、うちのKNOWCHが、たとえばコラボすると、農作物売上とかも、チームとして作れるんじゃいかって、それがBリーグと組もうかとなったきっかけですね。

そもそもは、業種問わず、プロスポーツチームとコラボするビジネスのプレゼンコンテストがあったんですが、「農業やりませんか」というプランに対して気に入ってくれたチームがあったんです。

チームの状況によってスポンサーさんも違いますし、地域というものがあるので、東京のど真ん中の都心のチームで農業といっても難しいですよね。

なので、郊外で農業との親和性が高いチームさんにたまたまお声がけいただきました。

うまくいけば、地域のプロスポーツチームって星の数ほどあるので、僕らは石川県以外の情報も入ってくるので、メリットはじゅうぶんあると思ってます。

<後編に続く>

interview : Joji Itaya