2022.06.13

イタリア人マッシがぶっとんだ
日本の神グルメ
【私の食のオススメ本】

イタリア人マッシがぶっとんだ神グルメ 表紙

  • 書名:イタリア人マッシがぶっとんだ  日本の神グルメ
  • 著者:マッシミリアーノ・スガイ
  • 発行所:マガジンハウス
  • 発行年:2022年

マッシさんはマッシミリアーノ・スガイという日本在住15年(2022年現在)、現在は金沢に暮らすイタリアはピエモンテ出身の人である。

トリノ大学大学院で日本語を学んだ、日本と日本食への愛に溢れている人である。noteの「サイゼリヤの完全攻略マニュアル」は95万PVを超えている。

マッシさんは見た目はイタリア人だが心は日本人と前文で語る。その変化の理由は神様から戴いた白米のおかげという。

確かに日本は「白米文化」である。日本を一気に変えたのは中国から伝わった稲と鉄と漢字だ(このことは松岡正剛の「日本文化の核心」に詳しい)。

白米について少し説明したい。

いろんな堅果類、つまりドングリを主食にしていた日本人が弥生時代以降に食べ始めた「米」とは玄米をお粥にしたようなもの。そして蒸して食べるようになり、奈良時代になって、やっと精米した米が主食になるのである。

もちろんまだまだ庶民のものではなかった。庶民は玄米ではなく黒米という精米度の低いうるち米をアワやヒエを混ぜて食べていたのである。

平安時代になり、鉄や焼いた厚い陶器などの釜ができ、米は炊くものとなる。これが江戸中期になって、分厚い蓋つきの釜が出現して「初めチョロチョロ、中パッパ〜」のおいしい白米食が定着したのである。

この大きな変遷の末に、イタメシだ、家系だ、ビリヤニだ、高級食パンだと騒いではみても「やっぱ、日本人は白飯だな」の『挽肉と米』の大ヒットになるのである(知らんけど)。この、日本人で良かった的回帰(怪奇ではない)した視点は日本の食の見直しにも大きく影響するだろう。

マッシさんの話に戻すと、つまり、この<白米、白ご飯からの視点>をマッシさんはその食への情熱から体得してしまったのである。その視点があったからこそ、ただの外国人ビックリ本でなく、本書は生まれたのだと言える。体得したもの、それは「美味しい日本食をより美味しく楽しむための『日本人』の視点」だ。

で、考えるべき点は「日本食」というワードだ。和食でもなく日本料理でもない。著者マッシさんがいうところの日本食とは、当たり前のようだけれどそれは「日本で食べられる日本人が作った料理すべて」ということなんだと思う。つまり、それが「神グルメ」。

最初の神グルメとの出会いは「」である。定食の副菜であるひじきと大豆の煮物、そして炊き込みご飯。さらには大福のあんこの甘塩っぱい豆である。ここで日本の「豆」の奥深さと美味しさにカルチャーショックの洗礼を受ける。

そして、著者はローマ名物のマリトッツォに一番近いものにコンビニで出会う。それは日本人向けに作られたコンビニ・マリトッツォではなくローソンで売られていたコッペパンにふわふわクリームが挟まっている『おやつコッペ リッチミルク』だった。

また、和食の知識がまだなかった頃、著者は料理でありながら単体の商品ではない「おでん」という概念に遭遇。おでんという料理をカウンターで楽しむ外国人として、初めての味と食感であるコンニャクを味わいながら「日本人への道」を歩み出す。さらに「コメダ」では、モーニングセットのトーストにジャムやおぐら餡を挟みテーブルソルトを振るというカスタマイズに目ざめる。日本人化を超え名古屋人化である。

イタリアの米はボイルしたりスープを吸わせてリゾットとして食べるが、日本ではふっくら柔らかく「炊く」。日本にやってきて炊飯器を手にしたもののその使い方、正しい「ご飯」がわからず苦戦した著者も、今では新米のうまさを追い求め、おかずと白米を交互に噛み締め「口中調味」という日本人特有の味覚世界を楽しみながら身につける。ご飯によって著者は「日本のシンプルな味の奥深さ」を知るのであった。

著者はこの白米のための舌を得て、日本の神グルメに出会っていく。たぶん最大の出会いはサイゼリヤだったと思われる。サイゼへ行くことを「イタリアへ行ってくる」というほどになる。最高のコスパでレストランという観念を打ちこわしてくれる。オイルや他の調味料、チーズを自由に使ったり、トリフ入りアイスクリームにエスプレッソを軽くかけて「アッフォガート」にしたりと、自分好みにカスタマイズできる場所であることを知ったからだ。

その日の「口」に合わせてアレンジするサイゼの食べ方でイタリア料理の再発見をし、日本にある(超カジュアルな)イタリア料理店を通して日本人の「受け入れて楽しむ心」を再認識することになる。そして、パスタの日本的アレンジは日本を学ぶイタリアの教科書に入れるべきと主張する。

海のないピエモンテ出身で、さんまの塩焼きとサバの味噌煮が好きなマッシさんは現在、金沢に住んでいる。金沢港と中央卸売市場と近江町市場にいかない日がないという。そんな著者の眼と舌で綴られる話だが、実は一見普通のことのようにも思えるのだけれど、われわれ日本人に食を再確認させてくれる良きテキストであることは確かだ。

和菓子について。五郎島金時への愛。おかわり自由に泣く。かわいい冷凍食品回転寿司という場所の不思議。日本人の食の魔改造。ミスドのこと。フュージョン和食。ワサビのこと。日本のコーヒー文化、神聖でカジュアルな抹茶・・再認識と同時に楽しませてくれるマッシさんの視点があふれる一冊。

WRITER Joji Itaya

出版にたずさわることから社会に出て、映像も含めた電子メディア、ネットメディア、そして人が集まる店舗もそのひとつとして、さまざまなメディアに関わって来ました。しかしメディアというものは良いものも悪いものも伝達していきます。 そして「食」は最終系で人の原点のメディアだと思います。人と人の間に歴史を伝え、国境や民族を超えた部分を違いも含めて理解することができるのが「食」というメディアです。それは伝達手段であり、情報そのものです。誰かだけの利益のためにあってはいけない、誰もが正しく受け取り理解できなければならないものです。この壮大で終わることのない「食」という情報を実体験を通してどうやって伝えて行くか。新しい視点を持ったクリエーターたちを中心に丁寧にカタチにして行きたいと思います。