2023.01.30

ポルトガルの
ごはんとおつまみ
【私の食のオススメ本】

  • 書名:ポルトガルのごはんとおつまみ
  • 著者:馬田草織 バダサオリ
  • 発行所:大和書房
  • 発行年:2014年(2020年第2刷発行)

ポルトガル料理といえばバダサオリ(馬田草織)だと思っている。というのもここまでポルトガル料理が好きなライターであり研究家でもある人を知らないからである。

21世紀に入った頃に青山のエイベックスの横道を入ったところで知人がポルトガル料理を出す店をやっていたのだが、ソーセージと干鱈(バカリャウ)のかわりの生タラのコロッケしか記憶がない。ポルトガル料理ってどんなの?と聞かれても説明できなかったが、この本でその世界がつかめた気がする。味付けは違えど魚介類とお米を使う日本の家庭料理と食材も含めて同じに見えてきた。

なにせ、「イワシの塩焼き」はポルトガルのソウルフードなのだ。

著者が執筆する『dancyu』のプロフィールには「文筆家。おもに食と旅(ポルトガル多め)を書いてます。ほやと納豆とアルコール好き」とある。また、WEBの『料理通信』にもレシピ記事を公開しているので、ポルトガルといえば両メディアが依頼するこの人なのだろう。さらに、主宰するサロン、ポルトガル料理とワインを気軽に楽しむ会「ポルトガル食堂」はすぐに定員になり常にキャンセル待ちらしい。

馬田草織は「戦国武将が飲んだ珍蛇酒は、ポートワインかマデイラワインかはたまたシェリーなのか、そのあたりがずっと気になっている」とも書いている(偶然、元A_RESTAURANTソムリエ高鍬未翔もRIFFで触れている)。本書のタイトルは「ポルトガルのごはんとおつまみ」であるが読み進むと「ポルトガルのごはんはおつまみだ!」でもよさそうだと思ってしまう。

各レシピの最後には<一緒に飲むならこのワイン>とおすすめのポルトガルワインが「ポルトガルで、一体何本飲んだことか」などというコメントとともに記載されている。タイトルに<ワインのための>とつけてもいいくらいだ。

レシピは手順にそった欲しい写真と気遣いのあるコメントで構成されていて、料理をする者にやさしい。

本書は、今夜はポルトガル料理を作ろうかなとなるだけでなく、こんな「ポルトガルの食堂」風居酒屋があったらなあ、いや、やってみようかしらんと思わせてくれる本でもある。一緒に料理をつまみながらポルトガルの出来事を聞いているような現地の空気が伝わってくる親しみのある文章がそう感じさせるのだ。

そしてレシピ本ではあるけれど、この本には歴史やポルトガルと日本の関係を読み取れる内容が何気なく挟み込まれている(ポルトガルによる日本人奴隷貿易までは書いてないが)。誰もが知るように、カステラや天ぷらなどポルトガル語由来の日本語も多い。

この本で紹介されているのは主に次のような料理たちだ。

カルディラーダ(ポルトガル式魚介鍋)/タコとゲンコツじゃがいものオリーブオイル焼き/さんまの南蛮漬け/干だらのコロッケ/タコのさらだ/チキンピリピリ/カフェステーキ/ポルトガルチキンカレー/牛肉の小さなコロッケ/ポルトガル式ポークソテー&ポテト/豚肉のピリ辛サンド/ソーセージと菜の花の炊き込みごはん/たこごはん/鶏ごはん/きのこごはん/あさりと豚バラごはん/甘塩たらとえびごはん/そら豆とベーコンのワイン蒸し/焼きパプリカマリネ/いんげんのポルトガル天ぷら/アレンテージョ風ガスパチョ・・

料理名だけ読めば必ずしも誰もが興味をそそるというものではないかもしれない。しかし、レシピと1ページで書かれたテキストを読んでいくと、不思議とポルトガルの港の食堂にでも入ったような気がして食欲が出てくるのだ。

<チキンピリピリ>
著者によると日本語のピリっと辛いの「ピリッ」はポルトガル語のpiripiri(オイルも粉末もまとめて唐辛子を使った香辛料のこと)から来ているらしい。

<ソーセージと菜の花の炊き込みごはん>
北の町のレストランのまかない料理。店主からは日本に帰ってこれをポルトガル料理だと紹介しないでねと言われたが、著者はこういうものこそがポルトガルらしさだという。必ずパンが添えられるというのは、日本食に似ているとはいえ米が主食ではないということ。

<たこごはん>
ポルトガル人は日本と同じくらいたこを食べるとあったが、たこが高価になった今の日本でも果たしてそうだろうか。ポルトガルでクリスマス・イヴの料理といえば干だらを煮たものだが、ポルトガルのある地域では「たこ」らしい。なんの伝統もなくひたすらチキンを食べるのが当然という日本とは違う(ちなみにチェコではクリスマスには鯉を食べる)。

WRITER Joji Itaya

出版にたずさわることから社会に出て、映像も含めた電子メディア、ネットメディア、そして人が集まる店舗もそのひとつとして、さまざまなメディアに関わって来ました。しかしメディアというものは良いものも悪いものも伝達していきます。 そして「食」は最終系で人の原点のメディアだと思います。人と人の間に歴史を伝え、国境や民族を超えた部分を違いも含めて理解することができるのが「食」というメディアです。それは伝達手段であり、情報そのものです。誰かだけの利益のためにあってはいけない、誰もが正しく受け取り理解できなければならないものです。この壮大で終わることのない「食」という情報を実体験を通してどうやって伝えて行くか。新しい視点を持ったクリエーターたちを中心に丁寧にカタチにして行きたいと思います。