- 書名:ノスタルジア食堂〜東欧旧社会主義国のレシピ63〜
- 著者:イスクラ(写真と文)
- 発行所:株式会社グラフィック社
- 発行年:2020年初版 2021年第3刷
この本を開く前に若干質素で貧しさが漂うレシピ集を想像していたが、意外やおしゃれなカフェ飯に見えるのである。原宿にある朝食カフェレストラン『ワールド・ブレックファースト・オールデイ』のメニューを見ているようだ。
カフェ飯と書いたが、ディナー感はない。そこが旧社会主義国な感じなのだろう。人々はみな労働者なのだ。昼食が一番豊かな食事だ。父は事業所の食堂で、母も仕事先で、子供は学校が面倒をみてくれる。
つまり、食堂の多くは社会主義の福利厚生施設であり、食べ物は労働のためにあったのだ。よって、疲れて帰る夕食は簡単なものになる。著者が尋ねた食堂の多くはその福利厚生施設的なものの名残でもある。
著者イスクラはペンネームだ。日本人である。旅行会社を経て、2005年にヨーロッパ旧社会主義国の雑貨販売のWEBショップ『イスクラ』をスタートさせ、2011年に東ドイツの居住空間を再現した『デーデーエルプラネット』東ドイツ民生品展示室『コメット』を運営していた。
この本に出てくる国はエストニア、ラトビア、アルメニア、旧ソ連中央アジア、旧東ドイツ、旧ソビエト連邦、ハンガリー、チェコ、グルジア(ジョージア)、リトアニア、ハンガリー、ポーランド、ベラルーシ、ウズベキスタン、ブルガリア、スロバキア、マケドニア、バルカン諸国、タジキスタン、ルーマニア。
近隣の国や地域でも同じ料理名が変わる。特にソ連時代にロシア語を公用語にせず、レーニンもスターリンも民族語奨励政策を採用していたの影響していることもあるだろう。どちらにせよ、カタカナにするには編集者泣かせの世界ではある。
日本人でもわかりやすいボルシチとかもあるが、にんじんとポテトサラダの二層タルトはスクランドラウスイス。ビーツの冷製スープはリトアニアではシャルティバルチェイ、ラトビアではアウクスタ・ズパ、ポーランドではフウォドゥニクといった具合だ。
料理はサワークリーム煮、ガーリック煮、ストロガノフ、コロッケ、クレープ、ペリメニ、パンケーキ、炊き込みごはんなど。食材はビーツ、にんじん、じゃがいも、赤えんどう豆、ささみ肉、牛肉、豚肉、パプリカ、サワーチェリー、ザワークラウト、ゆで玉子、トマト・・と、この広大な地域にしては特殊なものは見当たらない。
これも社会主義農業の名残なのだろう。しかし、色鮮やかだったりもして、食べてみたい、作ってみたいという気になることは確かだ。
出版にたずさわることから社会に出て、映像も含めた電子メディア、ネットメディア、そして人が集まる店舗もそのひとつとして、さまざまなメディアに関わって来ました。しかしメディアというものは良いものも悪いものも伝達していきます。 そして「食」は最終系で人の原点のメディアだと思います。人と人の間に歴史を伝え、国境や民族を超えた部分を違いも含めて理解することができるのが「食」というメディアです。それは伝達手段であり、情報そのものです。誰かだけの利益のためにあってはいけない、誰もが正しく受け取り理解できなければならないものです。この壮大で終わることのない「食」という情報を実体験を通してどうやって伝えて行くか。新しい視点を持ったクリエーターたちを中心に丁寧にカタチにして行きたいと思います。