- 書名:台湾を日常に「神農生活のある暮らし」
- 著者:神農生活CEO 范姜群季
- 発行所:グラフィック社
- 発行年:2021年
台湾というところが何か発想の原点になりそうな気がして、主に食関係になってしまうのだが、できるだけ関係本に目を通すことにしている。台湾はITの面で一気に世界を席巻した。中国と同様にコピーマシンと言われた時代があったが、基盤の生産力や元々あったその技術力は急激に伸びた。オードリー・タンのような人物も生み出した。
しかし、台湾郊外には日本ではほぼ失われた一時流行り言葉のようになった「原風景」がいまでも残り、都市部では古くからの日常がそのまま続いている面と最新のモダンデザインが混在している。これらを新しい視点と哲学でつないで日常の生活に残していくデザインの世界が面白い。
台湾全土から厳選した良品をリデザインするのが『神農生活』。この本ではその目利きとものづくりの物語が語られる。宣伝としてもうまい構成でできている。
『神農生活』は2013年に創業された台湾のライフスタイルショップだ。2021年に近鉄がフランチャイズとして大阪近鉄・あべのハルカスに出店した。本書は日本1号店出店記念の公式本、ブランドブックだ。
そして、規模は別として『無印良品』『D&DEPARTMENT』『ダイソー』らとは何が違うのか。さらに、日本人はいま、なぜ台湾にある古くからある調味料やインスタント食品を好むのか。これを念頭に読み進むと、自分達は日常的に利用するものに何を求めるのかも見えてくる。
神農生活が提唱する「L.E.S.S is More」。LはLocal=地域色、EはEssential=必要性、S=Seasonal=季節感、S=Suitable=ふさわしさ。
文頭に「わたしたちが扱うのは、台湾という小さな島で生まれ育った良品です。食材も雑貨も、どれも長い時間を経て、次の世代へと受け継がれながら、息づいています。わたしたちの役目は、それら品々を掘り起こして届けること」とある。
これは『D&DEPARTMENT』や『中川政七商店』と同じだろうか?
本書では日常の生活に関わる食や雑貨がもつ歴史や文化、物語が重要であることが読み取れる。個人的には「そして、台湾の感性を普段の暮らしへ」と言い切るところに日本人として嫉妬するのである。
出版にたずさわることから社会に出て、映像も含めた電子メディア、ネットメディア、そして人が集まる店舗もそのひとつとして、さまざまなメディアに関わって来ました。しかしメディアというものは良いものも悪いものも伝達していきます。 そして「食」は最終系で人の原点のメディアだと思います。人と人の間に歴史を伝え、国境や民族を超えた部分を違いも含めて理解することができるのが「食」というメディアです。それは伝達手段であり、情報そのものです。誰かだけの利益のためにあってはいけない、誰もが正しく受け取り理解できなければならないものです。この壮大で終わることのない「食」という情報を実体験を通してどうやって伝えて行くか。新しい視点を持ったクリエーターたちを中心に丁寧にカタチにして行きたいと思います。