2019.06.26

夏の和食の旬対談 アワビ 後編

アワビ

夏の和食の旬を探る対談。今回は、OPENSAUCEの運営する金沢・片町にある、令和になっても昭和なスナックパンチで繰り広げられています。

トマト編アワビ編鮎編を経て、今回はアワビについて短めの後編です。前編から 引き続き、両者アワビの美味しさの秘密を掘り下げます。

OPENSAUCEのメンバー、料理人・髙木慎一朗と歴史学者・三石晃生による季節の先取り 「旬」対談。今回は、会議室から金沢・片町に…


宮田:アワビって日本料理では昔から使ってたんですか。

髙木:使ってましたね。日常的に。季節的に使うというよりも、特別な場面で出してくる感じです。

三石:平安時代くらいでもアワビ出てくるんですけど、あの当時は乾燥です。ぜんぶ干物なんですよね。

髙木:あれ、熨斗 (※11)って干物でやるんですか、それとも剥いてからやるんですか。

三石:剥いてからやりますね。国崎(くざき)には伊勢神宮御料鰒調製所(ごりょうあわびちょうせいじょ)という所があって、6月から8月に生から作ってます。

髙木:あんなぬるぬるなやつよくできますね。一回やったんだけど、あれはなかなか綺麗にできないんですよね(笑)。

宮田:よくアワビって、波々に切るじゃないじゃないですか、あれどういう意味なんですか?

髙木:まぁ二つ想定できます。まず箸でとりやすいように。もう一つは、例えばお醤油をつけたりする時に、表面積を大きくする。

宮田:絡めやすいってことですね。

髙木:そうです。あれ普通に切ってあると、なかなかですよ。箸で掴むの。

宮田:アワビって本来、めちゃめちゃ硬いんでしょう。

髙木:厳密にいうと、一番硬いのはエンペラといって外側のシマシマになってるところ、あそこが硬いです。

宮田:変な寿司屋行くと、ゴリッゴリに硬いのは…どういうつもりなんでしょう。

髙木:たぶん、アワビっていうのは硬いもんだっていう。

宮田:昔のアワビってすごく硬かったイメージあるんです。

髙木:それはアワビの種類ですね。エゾアワビなんてのは小さいけどすごく硬い。

宮田:じゃあ柔らかく炊く手法っていうのは昔からあるんですか。

髙木:あります。ただ、どの温度帯でやると収縮率が小さいか、要するにこのくらいのアワビでも煮込んだらこんなに小さくなって、料理人からしたらすごいガッカリなわけですよ。
でっかいの買ってきたのにこんな縮みやがってと。
それはアワビじたいのコンディションにもよるんですけど、概ね、火を入れる時の温度と時間ですよね。それで、劇的に変わりますよ。

あともう一つは産地によっても収縮率が違うので、例えばうちでアワビを50キロやる時はだいたい産地を統一しないと、収縮率がものすごくムラになりますね。

これ教えてくれたのは、その志摩観光ホテルの高橋さん。
高橋料理長が、アワビに火を入れる時は産地を揃えなきゃダメなんだと。
なんでですかって言ったら、育ちが違うんだと。その時は「育ちはどこでも一緒じゃないか」と思いましたけど。

三石:食ってる海藻が…アイツ昆布食いますからね。出汁食ってるんだから、そりゃもう活きてる出汁、歩く旨味みたいなもんですよね。

髙木:アワビ炊いてる時のヨード香みたいのは全部、海藻の匂いですからね。
だから6月くらいから夏場に美味しくなるっていうのは、年明けから春先にかけてやわらかい海藻の新芽が出てくるわけですよね。
それを食べて、身をぐっと大きくして美味しくなるっていう。

三石:アワビ、面白いことにあいつって結構、動くの早いんですよね。
で、しかも帰巣本能があるんです。だから、ムシャムシャムシャって海藻食べたら、また自分の元いたところに帰ってくっていう能力を持ってるんです。
最近、アワビに目があることがわかったらしい。
カタツムリみたいに目を出す。

髙木:えー、あれ目なの??

三石:目なんです。貝のくせに。でもそれは、目としての機能はほぼ無いですけど、つくにはついてるんです、アワビちゃん。


アワビの歴史から、美味しい食べ方、意外な生態に至るまで、アワビ尽くしのアワビ編となりました。
次回は、アワビの帰巣本能の話から、天敵のタコの話に移ります。


※11 熨斗(のし)あわび アワビの肉を薄くはいで伸ばし、乾かしたもの。儀式や神事用に用いられる。室町後期頃から、延長・伸展の「のす」と「(敵を)のす」という言葉に通じることから祝意を表すためにも用いられるようになった。