2022.10.31

作りたい女と食べたい女【私の食のオススメ本】

  • 書名:作りたい女と食べたい女
  • 著者:ゆざきさかおみ
  • 発行所:it COMICS( KADOKAWA)
  • 発行年:2021年

RIFFの本の紹介に『ファーストペンギン』というテレビドラマ化された自伝のことを書いた。この漫画『作りたい女と食べたい女(通称:つくたべ)』も実写化され2022年11月29日~12月14日のNHKの夜ドラで放映される。両者に共通するのは自分が住む「社会」でありそこにある人間の問題である。そして課題でもありそれを解決するきっかけも「食」だということだ。

本書の作者のゆざきさかおみはBL漫画で人気の作家である。いわゆる腐女子が好むとされるイケメン男子の典型的なBLシリーズを発表してきた。

ジェンダーのことを調べる中で「つくたべ」をSNSでフォローしていたが、あっという間に漫画のランキングで上位になったので驚いた。フォロワーは女性が多いと思われるが理由は「女性あるある」と「一人料理あるある」への共感だ。

しかしながら、この共感は現代社会の「ジェンダー観」と「食」による人のつながりに対してだとも言える。主人公は大食漢(大食いは漢=男と決まっていたんだね)である大柄な女性=春日十々子と、料理好きなのに少食の女性=野本ユキがアパートのひとつ隣同士になり、その交友から何かが始まるといった話だ。

〜料理をたくさん作りたい野本ユキは、職場のストレス(決めつけられるフツーの女性観)から食べきれないほどのご飯を作ってしまい、ひとつ隣の春日十々子に勇気を出して食事に誘い、受け入れられる。そして春日十々子のその食べっぷり(実は旧い男性優位の家庭環境への反発)に高揚し幸福感を感じる〜
友情と恋心の生まれる。

©Sakaomi Yuzaki

これが男女なら普通の恋愛漫画のすれちがい、モヤモヤ展開になりそうなのだが、ストーリーの中で彼女たちのそれぞれの背景が見えてくると「女性性」という概念、「食」について「食すること」を考えさせられてコメディ的要素の多い進行なのにその悩みは深く重く感じる。

プロの料理人であれ素人であれ、現代において本当の意味で「食べる喜び」と「食べてもらう喜び」を真の意味で考える機会がどれほどあるだろうか。また、考えようとしているのだろうか?

物語の救いは登場する料理がフツーで美味しそうなことだ。これがドラマ化され放映される夜10時に観るのはお腹がすいて危険な感じがする。料理好きは録画かNHKプラスで食後に観るのがいいかもしれない。しかし、どちらかというと原作の漫画を読んでほしいと思う。

ちなみに出てくるのは・・唐揚げ定食、オムライス、味噌焼きおにぎり、餃子、煮卵、バケツプリン、おでんの巾着たまご、エビチャーハン、キャラ弁、はらこ飯、ハムカツ定食、シュトーレン風パウンドケーキ、コンビニ食材のフルーツサンド、鍋焼きうどん、ローストビーフ、手巻き寿司、味噌汁、コロッケ。
夜に食べたくなるものが多い。

©Sakaomi Yuzaki

余談だがドラマの春日十々子役「西野恵未」は大塚愛とのセッションで連弾して歌っているのを観て、誰っ?て検索したことがあった。ボイトレの先生が小学生に教えている映像に見えたが違った。西野は小学生に見えた大塚愛より20センチほど背が高く、年齢は5歳下だった。小学生から国立音大付属に入り大学まで行き、キーボーディストやコーラスアレンジを手がけている音楽家だ。

西野は175センチという長身とノーメイクだと漫画とそっくりというだけで今回のキャスティングされたのではないと思う。アイドルや人気のイケメンボーカルを無理やり登用するのではなく、アーティストにマルチなセンスを見出す人間が制作側にいるだけでも日本のメディアにもちょっとだけ光があるような気がする。

さらに余談だが、最近では『ゲスの極み乙女』の天才ドラマー”ほないこか(女優さとうほなみ)”が活躍している(そういえば映画「彼女」では体当たりで水原希子とレズビアン役を演じていたし、「六本木クラス」ではトランスジェンダーのシェフ役だった)。

特に、オリジナル脚本を含め、センシティブな小説や漫画を題材にしたドラマを作る最近のNHKにまだ光を感じる。

WRITER Joji Itaya

出版にたずさわることから社会に出て、映像も含めた電子メディア、ネットメディア、そして人が集まる店舗もそのひとつとして、さまざまなメディアに関わって来ました。しかしメディアというものは良いものも悪いものも伝達していきます。 そして「食」は最終系で人の原点のメディアだと思います。人と人の間に歴史を伝え、国境や民族を超えた部分を違いも含めて理解することができるのが「食」というメディアです。それは伝達手段であり、情報そのものです。誰かだけの利益のためにあってはいけない、誰もが正しく受け取り理解できなければならないものです。この壮大で終わることのない「食」という情報を実体験を通してどうやって伝えて行くか。新しい視点を持ったクリエーターたちを中心に丁寧にカタチにして行きたいと思います。