2021.04.24

世界の台所探検【私の食のオススメ本】

  • 書名:世界の台所探検
  • 著者:岡根谷実里
  • 発行所:青幻舎
  • 発行年:初版2020年 2021年第3刷

世界中の家で勝手にご飯を食べさせてもらう旅をしたのはキッチハイクの山本雅也さんだったが、著者、岡根谷実里氏は世界16カ国の台所で一緒に料理することでサブタイトルの「料理と暮らしと社会がみえる」を実行した人だ。

「ただ居させてもらえる台所の片隅が恋しくて、居場所を求めて行っているのかもしれません」という筆者の言葉によしもとばななの「キッチン」を思い出す。

著者にとって世界の台所は「土地と暮らしと空気は詰まっていて、生きるすべてがつまっている」場所である。小説「キッチン」の主人公も、同じ他人の台所でも世界へ出て一緒に料理をしていたらまた違う人生をスタートしていたのだろうが、居心地という点では同じかもしれない。

著者はインドネシアの台所ではココナツの実の使い倒し方に驚き、台北部のユースック村ではカゴを作り、立木を焼いてその甘い身を食べ、野草を使い美味しい料理を作るクリエイター老夫婦に出会う。旧ソ連モルドバでミルクを買いにお使いに行った先でワインの歓待にあい、キューバではフリーホレスという黒インゲン豆のスープを作って食べ、1日5回のコロンビアの食事を体験する。

中東ではパクチーたっぷりモロカンフィッシュを作り、パレスチナでは真っ暗な台所でチキングリルを味わう。さらにヨルダンでは気遣いなしの超大皿料理とよーふるとを使ったマンサフを知る。

すべての食卓で笑顔にあった台所探検家の著者は台所から生まれる小さな幸せの大切さに気づいた。

WRITER Joji Itaya

出版にたずさわることから社会に出て、映像も含めた電子メディア、ネットメディア、そして人が集まる店舗もそのひとつとして、さまざまなメディアに関わって来ました。しかしメディアというものは良いものも悪いものも伝達していきます。 そして「食」は最終系で人の原点のメディアだと思います。人と人の間に歴史を伝え、国境や民族を超えた部分を違いも含めて理解することができるのが「食」というメディアです。それは伝達手段であり、情報そのものです。誰かだけの利益のためにあってはいけない、誰もが正しく受け取り理解できなければならないものです。この壮大で終わることのない「食」という情報を実体験を通してどうやって伝えて行くか。新しい視点を持ったクリエーターたちを中心に丁寧にカタチにして行きたいと思います。