2023.04.12

金沢 古民家カフェ日和
【私の食のオススメ本】

  • 書名:金沢 古民家カフェ日和
  • 著者:川口葉子
  • 発行所:世界文化者
  • 発行年:2022年

この本は、全国2000軒以上のカフェや喫茶店を訪れているライターで喫茶写真家の川口葉子が、39ヶ所の金沢の古民家カフェを巡った記録だ。足を延ばして加賀、小松、白山、七尾、羽咋の名店も紹介されている。

川口葉子は古民家カフェを「築五十年以上の建物を転用再生したカフェ」と定義づける。

そして「古民家カフェは、土地の気候風土から生まれた伝統的な家屋の形式と、それを現在にいかそうとする人々の知恵の結晶」だという。

長く続けている店もあるが、新しい店も多い。新しい店が増えるのは金沢市が「町屋再生事業」に積極的であることも要因だ。

まだ訪ねたことのない店が多くある。著者の視点をたどって訪ねてみたい。取材によって、それぞれ店主が大切にするカフェへの想いや歴史が綴られており、訪ねる際のいい予習となる。

事前情報を入れずに訪れたいという人もいるだろうが、金沢の古民家カフェについては、最初は本書を読んでから行くべきだろう。建物自体が長い時間と物語を持っているのだから、それを確かめられる素敵な時間もお茶代のうちだ。

2021年にオープンした小さなコーヒー店『POP BY COFFEE』について著者はこう教えてくれる。「ここにはささやかな流儀があるようだ。扉を開けて店内に足を踏み入れたら、まずはカウンターに立つバリスタにと目を合わせること」「飲んだ感想を言伝えれば次回はきっと好みに合わせてさりげなくカスタマイズしてくれると思う」と。

そして開業20年、築100年の古書店カフェについて「浅野川から歩いて数分の住宅街。目指す『あうん堂』は猫のように電柱に隠れていた」と書く。そして「泉鏡花が通った小学校がすぐ近くにあり、幼い鏡花は下駄を履いて橋を渡り、このあたりを歩いたのだろう」という著者の想像を知れば、店につくまでの楽しみになるだろう。

大正時代の鉄工所の跡を改修した『ひらみぱん』は、入り口で何種もの焼き立てのパン類を買うことができる。地元の人間もパン屋さんだと思っているかも知れないが、著者も説明するように店名の<ぱん>はフライパンのパンだ。観光客もここでの朝食を楽しみにして訪れるビストロカフェだ。

古雑貨と花と本が溢れる『ひらみぱん』の空間について著者は、<お店は生きているものと死んでいるものを置きなさい、と修行先のお店で教わった。陰陽のバランスが取れるから。>という過去にパトリス・ジュリアンの取材で得た暮らしの芸術(アールド・ヴィーヴル)の話を思い出したと添えている。

こういうお店紹介なら、知ってから行きたいと思うのではないだろうか?

川口葉子が訪れた古民家カフェは次の通り。そこには本書の「伝統と文化の邂逅。1820年に創設された茶屋街が育てた”粋”。工芸やお菓子などに表される職人の技術と美しいものとの出会い。」がある。

四知堂kanazawa/ひらみぱん/TEA SALON KISSA&Co./Curio Espresso/MORON CAFE/MONET/Angolo CAFE/POP BY COFFEE/カフェ&ブラッスリー ポール・ボキューズ/zuiun/一笑/桃組+晴組/森八茶寮/茶房 やなぎ庵/ゴーシュ/波結/白磁/くわじま/and KANAZAWA/観音坂いちえ/土家/豆月/あうん堂/ギャラリー&カフェ椋/collabon/ホホホ座金沢/蔵カフェ町の踊り場/安江町ジャルダン/咲蔵/こつこつおやつ凪/FUZON KAGA Cafe and Studio/東山ボヌール/TAKIGAHARA CAFE/Leben/古鶴堂/里山カフェ文福茶釜/神音/水上診療所(コラム)

WRITER Joji Itaya

出版にたずさわることから社会に出て、映像も含めた電子メディア、ネットメディア、そして人が集まる店舗もそのひとつとして、さまざまなメディアに関わって来ました。しかしメディアというものは良いものも悪いものも伝達していきます。 そして「食」は最終系で人の原点のメディアだと思います。人と人の間に歴史を伝え、国境や民族を超えた部分を違いも含めて理解することができるのが「食」というメディアです。それは伝達手段であり、情報そのものです。誰かだけの利益のためにあってはいけない、誰もが正しく受け取り理解できなければならないものです。この壮大で終わることのない「食」という情報を実体験を通してどうやって伝えて行くか。新しい視点を持ったクリエーターたちを中心に丁寧にカタチにして行きたいと思います。