
- 書名:「アンと愛情」
- 著者:坂木 司
- 発行所:光文社
- 発行年:2023年 文庫版
「日本三大菓子処」は京都府(京都)、島根県(松江)、石川県(金沢)だ。
京都は、日本の和菓子の中心地であり、宮廷文化や茶道とともに発展した。生菓子、干菓子など、季節感あふれる繊細な和菓子が数多く作られている。
松江は、松江藩主・松平不昧(ふまい)公が愛好した茶の湯文化が根付いていて、お茶に合わせるための上品で美しい和菓子が今に受け継がれている。
そして金沢は、加賀藩の歴代藩主が茶の湯を奨励したことで、和菓子文化が大きく花開した。現在でも人口あたりの和菓子消費量や店舗数がトップクラスを誇る。
個人的に、金沢は「和菓子のまち」としてもっと広めていくべきだと思うのだが・・・。この街に住んでいる人たちと話しても、「日本三大菓子処」の一つであるという話を積極的にする人は少ないのだが、たしかに大きな有名店もあるが、町のあちらこちらに個人店もあり、和菓子店の存在があたりまえになっているのかもしれない。
しかし、そんな個人店もこのまま続いていくとは限らない。この文化が消えるかもしれないという危機感をもって積極的な対策を金沢は考えていくべきだろう。
さて、本書『アンと愛情』は、将来の夢は「自分のお金でお腹いっぱいお菓子を食べること」と語る高校を卒業したての梅本杏子(通称アン)を主人公として始まった累計100万部超えの人気シリーズ「和菓子のアン」一作だ。
デパ地下の和菓子店(みつ屋)のアルバイトとして働き始めたアンが、ユニークな仲間たちと、仕事の厳しさを体験しながら奥深い和菓子の世界で成長していくのであるが、和菓子と日本文化のことを学べる、幅広い知識を使った<謎解き>仕立てになっていて、ミステリーとして楽しめる青春小説と言っていい。
第1作『和菓子のアン』では働き始めた「みつ屋」で和菓子の魅力に目覚めていく主人公アンが描かれる。第2作『アンと青春』は働き始めて八ヶ月のアンの成長の日々を謎解きとともに綴っている。とばして第4作目は『アンと幸福』で、私はどうなりたいんだろう、というさらなる悩みと成長の日々がやってくる。
そして本書、3作目である『アンと愛情』では、成人式をを迎えたアンのアルバイトと同年代の正社員(デキるスーパー販売員)との比較など、社会人としての葛藤が)映し出されているのだが、アンは旅行で冬の金沢を訪れることになる。
旅行の目的地に選んだ理由の一番は「和菓子が有名」だということ。そこでの<学び>の顛末は本書の中の「あまいうまい」という章で描かれる。
特にこの章は金沢と和菓子店を巡る観光案内としても楽しめる。面白いのはアンという一旅行者の気持ちが、あー自分もこんな感じで(店が立派すぎて)お店に入るのを躊躇したり、思い切って入ってよかったとかあるよなあ、と感じられるところ。
アンは金沢で素晴らしいお菓子に出会ったり、店の接客に学ぶのだが、逆に金沢で迎える側として外からの目でどう見られているかということを学ぶ参考書のようでもある。
なぜ、和菓子と女の子と青春とこのシリーズがこんなにも人気なのか?
本書「あまいうまい」の章に「甘さって、人間にとって絶対的に正しい味覚」という言葉が出てくる。
この青春小説を読んで、和菓子のもつ奥深さと背景というものを再認識してはどうか。
出版にたずさわることから社会に出て、映像も含めた電子メディア、ネットメディア、そして人が集まる店舗もそのひとつとして、さまざまなメディアに関わって来ました。しかしメディアというものは良いものも悪いものも伝達していきます。 そして「食」は最終系で人の原点のメディアだと思います。人と人の間に歴史を伝え、国境や民族を超えた部分を違いも含めて理解することができるのが「食」というメディアです。それは伝達手段であり、情報そのものです。誰かだけの利益のためにあってはいけない、誰もが正しく受け取り理解できなければならないものです。この壮大で終わることのない「食」という情報を実体験を通してどうやって伝えて行くか。新しい視点を持ったクリエーターたちを中心に丁寧にカタチにして行きたいと思います。