2026.06.09

今井真実「フライパン ファンタジア」【私の食のオススメ本】

  • 書名:「フライパン ファンタジア」
  • 著者:今井真実
  • 発行所:家の光協会
  • 発行年:2023年

このレシピ本は独居老人にはもってこいなのである。
独居老人とは、一般的に単独世帯の高齢者で主に65歳以上で一人暮らしをしている人を指す、らしい。

ここのところ料理家、エッセイストの今井真実氏の関連本を2冊ほど紹介している。『Amy’s Kitchen 山田詠美文学のレシピ』と「梁宝 璋『味坊の味』」である。

これらの本では再現ということがテーマになっているが、本書はまったくの今井真実氏オリジナルレシピ本だ。時々見かけるワンパン(フライパンひとつで完結する)というものだが、そのなかでもこれは別格のように思う。なにせ、旨そうなのである。

「旨い」、これは独居老人には大切なことである。つくってはみたものの、切ない感じの味になってしまうと、自炊生活もすこしずつ面倒に感じていくものだ。

自分は「#老人は料理をしなさい」とハッシュタグをつけた自炊ごはんのInstagramをときおりあげている。自炊をしようとすると、まず買い出しに行かなければならない。買いだめは推奨しない。なんせ、何が残ってる忘れてしまうからね。毎日家から出るのがよい。何を食べたいか考える時間がよい。お店の人と挨拶をする。レシピ本を本屋で探す。外食で気に入った料理を店の人に聞いて再現する。知らない世界の料理に挑戦する。脳が活動する。これである。

独居老人生活になると、人との交流が減ることで認知症やフレイル(虚弱)が進行しやすく、孤独感を抱えやすくなると云われる。

食品メーカーは連携して、自炊老人のためのポイント制度事業をやればよいのに。老人と言ったて、2025年から2030年にかけて60歳の定年を迎える、あるいは迎えた年齢層。バブル全盛期にジュリアナで踊ってたりソフトスーツを着ていたような人がもうすぐなるんだからね。

さて、「#老人は料理をしなさい」と言っても、いくつもの皿を出すのは少々億劫だ。そこでご老人は、本書「フライパン ファンタジア」を利用してもらいたい(著者には勝手に老人向けにしてしまって申し訳ない)。フライパン一個で食卓の未来が約束されるのだから。

今井真実氏は「包丁とフライパンと熱源があれば、どこでも料理ができる」という。そして究極はハサミでも食材は切れるので<フライパン>さえあればいいと。
献立が思い浮かばない時は、フライパンでお湯を沸かし、冷蔵庫の余りものを片っ端から茹でる。鍋ではない理由は、沸騰まで時間がかかるから。

そう、これこそがフライパンが独居老人向きである理由の一つ。老人は概して<短気>になるのである。先に書いたように、面倒と思い始める要因は、自炊生活の大敵なのだ。

ここで紹介される料理名の前には、「切る→ゆでる」「切る→焼く」「切る→焼く→煮詰める」などと表記されている。なんか、カンタンじゃん、なのだ。

最初のレシピ『ゆで豚と温野菜、スープ』こそが、何にも献立が浮かばない時の料理。野菜と肉を順番にゆでて、ゆで汁をスープにするというものである。キャベツは大きめに<ちぎる>とある。ニラはハサミでいいよね。豚コマなのでこれも切らない。なんとカンタン。

簡単なのだが、シンプルなだけに今井真実氏の味付けが生きてくる。ここがレシピ本を頼りに調理した方がよいところだ。本人も「難しいことはちょっと忘れて、レシピに身を任せましょう」と言っている

今井真実氏のレシピはこんな内容だ。
「アボカドソーセージのオムレツ」「豚肉とブルーベリーのワイン煮」。RIFFでも紹介した作家・角田光代の『彼女のこんだて帖』にインスパイアされた「豚こまとごぼうの柳川」。

「スペアリブと大根、すだちのスープ」。この料理とスープの間の読点にスープもできちゃった感があっていい。ワインが欲しくなる「豚肉とりんごのブルーチーズソテー」は生姜焼き用の豚肉でおしゃれな一皿になる。

「手羽元の昆布蒸し」「感動柿レバー」「鶏むねブロッコリー マスタードしょうゆ」「ナスと大きな肉団子のトマト煮」「みんなの麻婆豆腐」「サバとピーマンのこってり味噌煮」「ブリのアクアパッツア風スープ」

「鶏肉とスナップエンドウの香草フリット」「肉厚サバフライ」が少ない油でできるというのもうれしい。

こんなふうに60のレシピが載っていて、読んでいるだけで楽しく食欲が出てくる。ちょっと食材を買い出しに行ってこようか、と思わせる。これも老人には大事だ。

そして、「1分レタスのオイスターソース」「香ばしきゅうりのじっくり焼き」「トロなすジューシー」「アスパラさっとゆでオリーブじょうゆ」「ズッキーニのお茶フリット」などなど、晩酌が楽しみになる酒の肴的<副菜>も用意されている。

この一冊の中の料理をつくっていれば、じゅうぶん独居老人生活の食卓をおいしく楽しくおくれるはずだ。

「老人は料理をしなさい」。この本は独居老人のファンタジアである。

WRITER Joji Itaya

出版にたずさわることから社会に出て、映像も含めた電子メディア、ネットメディア、そして人が集まる店舗もそのひとつとして、さまざまなメディアに関わって来ました。しかしメディアというものは良いものも悪いものも伝達していきます。 そして「食」は最終系で人の原点のメディアだと思います。人と人の間に歴史を伝え、国境や民族を超えた部分を違いも含めて理解することができるのが「食」というメディアです。それは伝達手段であり、情報そのものです。誰かだけの利益のためにあってはいけない、誰もが正しく受け取り理解できなければならないものです。この壮大で終わることのない「食」という情報を実体験を通してどうやって伝えて行くか。新しい視点を持ったクリエーターたちを中心に丁寧にカタチにして行きたいと思います。