2020.12.15

ノンアルコールという選択

巨峰の実とドラゴンフルーツのノンアルコールモクテル

ペアリングドリンクとは

レストランでの楽しみ方としてペアリングというものがあります。 一般的にはワインを中心に、日本酒なども取り入れながら、お料理に合わせソムリエが厳選し、ドリンクによって料理・食材の持っている力をより引き出したり、余韻を広げより深く味わったり、時にはリフレッシュさせたり。

ドリンクと合わせることで1+1を5にも10にもしてしまう魔法のような組み合わせもあります。まぁ、ペアリングについてはソムリエチームがいずれ詳細な記事を書いてくれると思うのでこの辺にしておきます。

コース料理に合わせるペアリングドリンクを組む際、シェフとソムリエが ”この料理はこうだから~” “ワインのこの部分が~” と議論するさまはプロ同士のぶつかり合いでもあり、お互いを高め合い、切磋琢磨し、より良いコースへと昇華します。

そんな、料理を最大限楽しむことができるペアリングですが、全員がアルコールを召し上がれるかといえばそうでもありません。元々アルコールが得意でない方、車の運転を控えている方、たまたま体調が優れないなどなど…

さらに昨今、健康思考など様々な思いからアルコールを一切取らないという生活スタイルも定着し始め、レストラン業界も何かしらの変化を求められています。

そこで今注目されているのがノンアルコールドリンクというジャンル。

いやいやちょっと待って。普段の生活を思い返してみてください。

寿司食べる時はお茶、ピザの時はコーラ、デザートはコーヒー。我々は普段から当たり前にノンアルコールドリンクを食べ物と合わせています。
ただ、これをペアリングかと言われると違う気もします。

料理やドリンクの知見を深めたプロ達が、料理・食材の力を引き出すようなノンアルコールドリンクを合わせることが出来れば、アルコールペアリングと同様に料理を最大限楽しむことが出来るはずです。

料理は音楽に似ている

まず初めに、私はソムリエではありません。むしろワインは苦手な方です。なので “この料理のこの部分にこのワインのこのニュアンスが~”的な小難しいことは正直わかりません。

料理に対し、そこに欲しいニュアンスを持っている1本を世界中のワインの中から、引っ張ってくる知識量には正直引いちゃうくらい尊敬します。あの人たちは世界中のワイン飲んだことあって、全て舌に記憶させてるんでしょうか?

では、ソムリエでもない私がどのようにドリンクを作っているかというと…
“イメージ・雰囲気・ノリ・浮かぶ画”といったものすごく漠然としたものから作ることが多いです。

私は料理は音楽に似ているなと思っています。
料理人はミュージシャンで一皿が1曲。コースはアルバム1枚でレストランはコンサート会場だと捉えています。

個性豊かなバンドメンバーをまとめる料理長がバンドマスターで、ソムリエを筆頭にフロアスタッフは照明などの演出。マネージャーはプロデューサーといったところでしょうか?

全体のテーマがある中で起承転結があり、聴かせたいところ、盛り上げたいとこがあり、それを伝えるためにどの曲順でどう演出するか。

コースにも口直しやメイン、箸休めがあり、色味や温度なども踏まえて順番を考えています。

そう言われると音楽っぽく見えてきませんか?その中で私の役割といえば…アレンジャーでしょうか?

ミュージシャンが書き上げた曲にイントロを付け、ストリングスなど別の音を重ね、リズムを変えアクセントを加えることもあります。アレンジによって伝えたい部分を明確にしたり逆に隠したり。曲の持つ世界観をさらに広げることがアレンジャーの仕事です。

私は一皿に対しその”アレンジ”をノンアルコールドリンクで加えます。ただ、先ほど述べた通り小難しいことは全くわかりません。

考えることは単純です。この料理は哀愁漂うジャズっぽいな。とか、この土っぽい香りには照明を黄色でとか。なんとなく思い浮かぶ音楽のジャンルや照明の色を様々な材料を使いドリンクで表現するだけです。

A_RESTAURANTにおけるノンアルコールペアリング

あ、言い忘れてましたが、私は自分のことをバーテンダーだと思っていません。以前は小さなバーを営んでいましたが、どこかのバーで修行したわけでもありませんし、ましてやカクテルの大会に出場したこともありません。

バーでドリンクを作っているのでバーマンには間違いありませんが、バーテンダーを名乗るには世の中のバーテンダーに失礼にあたると思っています。

そのため、ある意味なんの固定概念もありません。通常バーで使うことはないであろう材料もなんの躊躇もなく使います。なんとなく思い浮かんだ音楽ジャンルや、見た目ではなく味を色で表した時の”色”を連想させる材料を使い、漬け込んだり燃やしたり搾ったり漉したり…様々な方法でドリンクに仕上げ表現します。

それに加え、料理から妄想が膨らみ、勝手に思いついたフィクションのストーリーやシーンをイメージし、その物語に出てきそうな飲み物を作ったりもします。

ハードボイルドな主人公だったり、か弱いヒロインだったり。この妄想を表現するため見た目もこだわります。カクテルで言うガーニッシュ、要は”飾り”も重要です。
カクテルのような見た目のノンアルコールドリンク、いわゆるモクテル ( mocktail ) として1曲や1シーンに見立てます。

いよいよ何言ってるかわからなくなってきたと思いますので実例を少し上げたいと思います。

ハイビスカスとベリーのノンアルコールドリンク

A_RESTAURANTとして初めてのコース料理のメインに合わせた一杯。

脂の乗ったサーロインに爽やかな酸味のある赤いドリンクを合わせたい考え、ハイビスカスをメインに使い、ベリーとザクロで甘すぎない手作りのシロップを加え、お肉に負けない厚みを持たせました。

ハイビスカスからイメージが膨らみ、南国の女性の髪飾りを表現したガーニッシュを添えました。ウクレレの音やサーフミュージックが聞こえてきませんか?

初めてのコースということもありちょっと張り切りすぎな感じもしますが、この張り切りが今思えばモクテルを使った一風変わったノンアルコールペアリングのスタートだった気がします。

こちらも別のコースのメインに合わせた一杯。

炭焼きのお肉に土っぽい味と香ばしさを持たせたいと考え、巨峰の実とドラゴンフルーツをブレンダーにかけ巨峰の皮とカルダモンを漬け込み香りを移したものと、ゴボウから抽出したお茶に炒ったクルミを漬け込んだものをmixしました。

巨峰の甘みとドラゴンフルーツの酸が肉の脂をリフレッシュさせ、肉の旨みにはカルダモンとゴボウの香り、炭焼きの香ばしさには炒ったクルミを合わせています。

ガーニッシュは大地から芽生えたドラゴンフルーツが天に昇る龍になるイメージで飾りました。大地を揺るがし天に昇る龍の音が聞こえてきます。
…これもちょっとやり過ぎです(笑)

味のないノンアルコールモクテル

こちらは最近のもの。
繊細なフグの料理に合わせ、ドリンクも徹底的に繊細にこだわった一杯。

グラスに入っているものは純水。無味無臭です。私が作ったドリンクはその上に乗っている透明なゼリーのような部分。

柚子をベースに様々なシトラスのピールとミョウガなど、日本らしい野菜やスパイスを自家蒸留したノンアルコールスピリッツ(ノンアルコールジン)。この蒸留して作った液体をさらに、アガーという海藻を原料としたゲル化剤を加え、果実をくり抜いた国産レモンの皮に流し、ギリギリ固体として形状を保てる固さに固める。

グラスに乗せた後、この蒸留水の輪郭をシャープにするため、一欠片だけクリスタルソルトという塩を上に乗せる。

香りを味わうというかなり繊細なドリンクなので、まずはグラスの中の純水を飲んでいただき舌をクリアにしてもらう。その後ゲル化した蒸留水を一口で啜ってもらえば、クリスタルソルトの塩味の後に柚子やミョウガのフレーバーがグッと押し寄せます。

飲み方はテキーラのショットのようだが、中身は超繊細というギャップが面白い。

これはもはや液体ですらないという一杯。

ちなみに、A_RESTAURANTでノンアルコールペアリングをご注文いただくと、このようなカードをお渡ししています。
CDでいう歌詞カードだと思っていただきたい。

歌詞を見ながら曲を聴き、より曲を理解し、ミュージシャンの想いriffを読み解くように、このカードを見ながらコースのペアリングを楽しんでいただけると幸いです。

このようなモクテルを、料理に合わせイチから作っているノンアルコールペアリングは他ではあまり味わえないと思います。

アルコールが飲めず、お茶やソフトドリンクで損した気分で食事をしていた方に、ノンアルコールでよかったと思っていただきたい。

アルコールでも問題ない方にも、ディナーの楽しみ方の一つとしてノンアルコールという選択肢を増やしたい。

もしかしたら、訳わからない人が訳わからない飲み物作っていると受け入れられないかもしれない。ただ、残念ながら今現在私の周りにはこれを面白がってくれる人達が後押ししてくれています。

しばらくは私の妄想と暴走に付き合っていただくことになりそうです。

元音響エンジニアのバーマン。
外食はコンサートと同じ。料理やドリンク、空間やサービスで楽しいショーを体験する時間。ステージを彩るドリンクで、ショーの一翼を担う。