2022.04.27

A_RESTAURANT Imaginative liquid ( Mocktails / Low_ABV cocktails )

はじめに

これまで”Non_Alcoholic Pairing”とう名でレシピやドリンク開発の発想を書いていましたが、実は、ずいぶん前からこの名前に違和感を感じていました。僕自身、一般的な”ペアリングドリンク”という意識をあまり持っていないからです。
※そもそもソムリエさんでもないので、ペアリングとはこうだ!みたいなものもすらわかっていませんが・・・

もちろん、コースの主役はお料理なので、より美味しく召し上がってもらうために何かしらの要素を重ねたり引き算したり引き伸ばしたり、と考えてはいますが、いつからか”ペアリングドリンク”を作っているというよりも、料理や使われている素材、料理人の表現したい思いなどからインスピレーションを受け、産地や風土、音楽やファッションなど連想されるものを、香りや味、色や見た目で表現する 1杯の” 作品 “をゼロから作っているイメージの方が近くなったからです。

優先順位として”料理に合う”よりも、料理とドリンクが置かれたテーブルの上で”世界観を演出する為のドリンクを提供する”が意識としてかなり上にいるため、自分の中で、もぉこれはペアリングではないよね。というのが本音です。

さらに言うと、アルコールとかノンアルコールとかあまり意識していないというか。アルコールが入っているからこそ得られる香りの立ち上がりや余韻の広がりが必要であればカクテルにするし、フレッシュなフレーバーや繊細な味わいを表現したければモクテルに仕上げる。ワインや日本酒、紅茶やハーブティーとは違う、ある種料理人が作る一皿に近い、グラスの中で表現した新たな食中ドリンクを確立したいという思いがあります。

これまでは”Non_Alcoholic Pairing”として、ノンアルコールの食中ドリンクのみ提供していましたが、今後はノンアルコールのモクテルと、必要に応じてローアルコールカクテルを織り交ぜたドリンクコースも選択肢の一つとして展開していきたいと思います。

そこでバチっ!とあてはまる別の言葉があればいいのですが、いまいちしっくりくる言葉が思い浮かばず…

音楽や映画、カルチャーやアートなど様々なものからインスピレーションを受け、通常ドリンクでは使われないであろう”食材”からエキスやフレーバーを抽出し、表現方法の一つとしての”液体”を生成する。

ミュージシャンが曲や詩を書くように。アーティストがキャンバスに描くように。僕はグラスに向かい合います。そんな想いを込めてアルコール/ノンアルコールと単純に分けるわけでなく、僕の表現としてのドリンクをまとめて「 Imaginative liquid 」としておきます。他にもっと適当な言葉が思いついたらまた名前を変えるかもしれません(笑)

とはいえ、まだまだ研究中のため、今回はNon_Alcoholic Pairing としてご注文いただいたお客様にお出ししたドリンクたちをご紹介させていただきます。

Intro : 白魚 クレソン

Drink : CUE - お花と果実の発酵

焦点 : 始まりの合図 

一皿目は鰹出汁のうま味が詰まったフラン。しっかりとした味わいとクレソンの香り、西洋ワサビが鼻を抜ける。

最初のドリンクは以前も登場した” CUE “

まずはお花の華やかな香りとハーブの緑の香り、フランとは異なるうま味=乳酸菌発酵からくる凝縮したうま味、酸味を味わっていただく。

そのあとにドリンクとは異なる、動物性のうま味の料理へ促す、いまから美味しい食事の時間ですよ!の合図=CUEを出します。

※influenced by music : 始まりはQ(9)CUE / SPECIAL OTHERS & RIP SLYME

CUE

グラスにクラッシュアイスを適量詰め、発酵させたコンブチャを40ml注ぎ、エディブルフラワーを飾る

※詳細は1月の記事を参照 

Interlude : Taco de Puerco 炭 サボイキャベツ

Drink : 日食 - 太陽と影

焦点:燃焼 

なんといっても炭のソースが印象的な、サボイキャベツ(ちりめんキャベツ)を使った一皿。

少し恐怖感すら与えるような独創的な見た目からインスピレーションを受け、日食をイメージした真っ黒なドリンクをつくりました。

ここ数年、得体の知れないウイルスが変異していき世界中に猛威を振るい出口の見えない暗い日々を過ごしてきたところに、全く理解のできない侵略戦争が始まり、居た堪れない気持ちになる暗いニュースが毎日報道されています。何もできない、世界の何も変えられない自分の無力さに打ちのめされます。そんな暗い感情を竹炭を溶かし込んだ真っ黒な液体で表現し、スモークの煙で光を遮りどこへ向かえばいいのかわからない様を表現しました。

そんな真っ暗で何も見えない状況でも陽の光・希望の光を見失わないで欲しいという想いで、太陽をイメージする味としてオレンジを使いました。そこにコンブチャ菌を加え、繁殖・発酵という形で生命の強さを表現。
陽の光が見えない日食でも、隠れているだけで太陽自体は存在している。光が消えたわけではないという想いを込めたドリンクが”日食”です。

日食

  • フレッシュオレンジジュース 適量
  • グラニュー糖 オレンジジュースの10~15%(素材の味をみて調節)
  • 自家製コンブチャスコビー オレンジジュースの約10%
  • 竹炭パウダー 適量
  • ウイスキーオークチップ 適量
  • オレンジピール
  • ロックアイス

フレッシュオレンジを、スロージューサーを使い絞る。

鍋にジュースを移し一度沸騰させすぐに火を止め、グラニュー糖を溶かし入れる。

容器に移し氷水に浸けて急冷。

竹炭パウダーを加えしっかり溶かし混ぜる。

保存容器に移し自家製コンブチャスコビーを加え室温で発酵させる(約1日半)

味を確認して消毒したボトルにボトリング。

ロックグラスに氷を入れ発酵させたオレンジジュースを40ml注ぐ。

オレンジピールを氷の上に置きカクテルスモーカーでグラスの中を燻煙で満たす 。  

Verse : アオリイカ / Interlude : メジマグロ

Drink : ノンシュガースポーツドリンク - 新入部員最初の仕事

焦点 : 経口補水  

ひとつ前のドリンクが社会的メッセージ性の強いものだったので、ここではすこしライトに。季節感、4月という季節をイメージしたドリンクを用意。

といっても4月だから桜を使って~みたいなものではなく。思いついたのは入学や新入生。

運動部に入部した新入部員の最初に覚える仕事として先輩から代々伝わるスポーツドリンクをイメージしてサラリと染み入るドリンクにしました。

ノンシュガースポーツドリンク

  • 自家蒸留ノンアルコールGIN – Dry juniper 30ml※
  • ゆず香味蒸留水 10ml
  • カラーリングマルガリータソルト 適量※

※自家蒸留ノンアルコールGIN – Dry juniper

ジュニパーベリー5gを乳鉢で軽く潰し、浄水2000mlに1日漬け込む

ロータリーエバポレーターで蒸留する(真空度 35hPa / 回転数 210rpm / hot bath 35℃ / condenser -10℃ )

※カラーリングマルガリータソルト

マルガリータソルトを鍋にいれ弱火で加熱。

濃く抽出したバタフライピーティーを数滴加え鍋を火から離し水分を飛ばす。

これを塩全体に色がつくまで何度も繰り返す。

グラスのフチ1/3にライムをつけカラーリングしたマルガリータソルトをリムする。

リキッドを注ぎ軽くステア。

Bridge : 鯛 花山椒

Drink : 白檀トニック - 金沢の茶屋街

焦点 : 香

魚料理は鯛。八角やコリアンダーなど複雑な香りを纏った料理には白檀(香木)で日本の香りを重ねます。

先日行われた ” EAT KANAZAWA 2022 前夜祭 ”で浅野川を表現したカクテルで使用した、金沢の茶屋街をイメージした白檀リキッドを使って、手作りトニックウォーターに仕上げる。

※白檀リキッド詳細はEAT KANAZAWA 前夜祭 Drink collaboration記事を参照 

白檀トニック

  • 自家製白檀リキッド 10ml
  • 山崎の水(発泡) 適量
  • 適度に砕いた氷 適量
  • エディブルフラワー

アイスピックで適度に砕いた氷をカクテルグラスに入れる。

白檀リキッドを注ぎ炭酸で満たす。

エディブルフラワーを飾る。

Chorus : SUKIYAKI

Drink : NEGIWI - おつまみつき

焦点 : 緑

すき焼きをプレートで表現したメイン料理。すき焼きで連想されるのは割り下や溶いた卵。この二つは間違いなくソースで使われるだろうから…くたくたに煮て甘くなったネギだ!ということでネギをドリンクにしてみました。とろとろになるまで焼いたネギをドリンクに出来れば絶対相性がいい(心の声:絶対オモシロイ!)

ネギから引き出した甘味にキウイフルーツの甘酸っぱさと黄緑の香りを重ね、より複雑で様々な食材のうま味が溶け出したエキスを吸った、すき焼き鍋でくたくたに煮たネギを表現しました。 

NEGIWI

  • ネギリキッド 40ml  ( 湯煎で60℃に加熱 )※
  • 自家製キウイシロップ 1tsp ※
  • 自家製オニオンポテトフレーバーウォーター 1tsp

2022年1月の記事内 オニポテセット 参照

  • フレッシュレモンジュース 1/3tsp
  • ネギチップガーニッシュ

※ネギリキッド

  • 長ネギ 2本
  • アボカドオイル 適量
  • 水 1000ml
  • グリーンカルダモン 1g
  • フライドオニオンチップ 5g
  • ローリエ 1枚
  • モルトビネガー 20ml
  • 塩 ひとつまみ

長ネギを適当にカットしてトロトロになるまでアボカドオイルをひいたフライパンで焼く。

ネギが焼けたらモルトビネガーを10ml加え加熱し酸を飛ばしネギに香りを移す。

水を加え塩を加え、沸騰後弱火にする。

潰したカルダモン、オニオンチップ、ローリエを加え蓋をして15min煮詰める。

ブレンダーにネギを移し、少量の煮汁と一緒に攪拌する。

残りの煮汁を越して撹拌したネギと合わせ、残りのモルトビネガー10ml加え急冷。

遠心分離機で分離(温度 15℃ / 回転数 3800rpm / 時間 15min )

分離したエキスを濾してボトリング。

分離した繊維質を集めクッキングシートに薄く伸ばし、ディハイドレーターで乾燥させチップスにする。

グラスに全てのリキッドを注ぎ軽くステア。

グラスのフチに適当なサイズに割ったネギチップスを飾る。  

Interlude : 口直し

Drink : なし

Solo : 龍の瞳 季節のもの

Drink : ニホンノコメ ビヨンドコメ - 日本の米は世界一

焦点 : 米の可能性

粒の大きい龍の瞳を釜炊きで、山菜や様々な副菜と一緒に味わうお食事。ドリンクではお米の可能性を示すものを用意。

麹から手作りして日本酒をイメージしたお米のドリンクに仕上げ、ビヨンドコメ = コメのその先 を表現しました。

※influenced by music : 打首獄門同好会 / 日本の米は世界一 

ニホンノコメ ビヨンドコメ

  • 自家製麹発酵ライスウォーター 10ml ※
  • 花梨 flavor non_alcoholic GIN 10ml ※

材料をシェーカーに入れ軽くドライシェーク。

グラスに注ぐ。

麹独特の香りは苦手な方もいるのでドライシェイクで空気を含ませ泡立てて軽い印象を持たせる。

※自家製麹発酵ライスウォーター

蒸したお米に種麹をふりかけ全体に種麹を付着させ 2日間発酵機で発酵させる(温度 40℃ /湿度 80 %)

お米全体に白カビ(麹菌)が繁殖すれば米麹の完成。

自家製米麹と水を 1:1で混ぜ合わせ、ブレンダーで撹拌する。

撹拌したライスミルクをヨーグルトメーカーで  6 ~ 8 時間発酵させる。

味を確認(特に甘み)をし湯煎しながらクエン酸全量の0.2%を加えバースプーンでゆっくり撹拌。

急冷して冷蔵庫で半日落ち着かせる。

コーヒードリッパーで濾してボトリング。

※花梨 flavor non_alcoholic GIN

  • 花梨の実 ×100g
  • 花梨の皮 × 40g
  • ジュニパーベリー × 5g
  • エルダーフラワー(ドライ) × 0.5g
  • フレンチタラゴン × 2g
  • バイマックル × 1g
  • 水 × 600ml

花梨を実と皮に分け冷凍粉砕。材料をフラスコに入れロータリーエバポレーターで蒸留。

(真空度 40hPa / 回転数 180rpm / hot bath 35℃ / condenser -17℃)

Outro : チョコレート バナナ / Dulce de leche 苺 葛 チュイル

Drink : のむヨーグルト - 花びら舞い散る 記憶舞い戻る

焦点 : 春の風

最後の一杯は見た目も華やかで甘くて美味しい馴染みのある味、飲むヨーグルトを用意。

満開に咲き誇る桜の花びらが春の強い風に吹かれ舞い散る。その光景は、若かりし頃の、デートとも言えないただの散歩も嬉しそうに桜を眺める恋人のキラキラした笑顔を思い出させる。

マスカルポーネのライトな乳臭さ=若さ。レモンシロップの甘酸っぱさ=初恋。恋人の香りを思い起こすバラの香り。これらの要素でそんな淡い思い出をモクテルで表現。

※influenced by music : ケツメイシ / さくら 

のむヨーグルト

  • マスカルポーネチーズ 1sp
  • いちご 1ケ
  • 無調整ミルク 60ml
  • 自家製レモネードシロップ 10ml
  • 1883 ローズシロップ 1tsp
  • クラッシュアイス 40g

〈glass decoration〉

  • 自家製ストロベリーシロップ 適量
  • ローズレッドペタル 適量

カクテルグラスにハケを使ってシロップを塗り、乾く前にローズペタルをふるいかける。

ブレンダーに全ての材料をいれ攪拌しデコレーションしたグラスに注ぐ。

元音響エンジニアのバーマン。
外食はコンサートと同じ。料理やドリンク、空間やサービスで楽しいショーを体験する時間。ステージを彩るドリンクで、ショーの一翼を担う。