appetizer : buñuelo – Xmas ornament
apéritif : Homemade ginger ale or Homemade clear cola
金沢・片町のA_RESTAURANTでは、コースの料理のそれぞれに、ノンアルコールドリンクのペアリングをご提供しております。
バーマンによる独創的な発想から生み出されるA_RESTAURANTのノンアルコールペアリング。
本記事では、固定概念にとらわれず、他では類をみないドリンクたちのペアリング要素やレシピ、発想や思考の一部を解説いたします。
今回は、2021年のA_RESTAURANTクリスマスディナーコースメニューと、ペアリングドリンクのレシピをご紹介します。
Intro : フォアグラ 丸
Pairing Drink : CUE
焦点 : 始まり
クリスマスの長靴とプレゼントが入っていそうな缶。キャンディーのように包装されたものを解いて食べていただく最初のプレゼント。中身は当然キャンディーではなくフォアグラと丸。
アメちゃんみたいなフォアグラもびっくりだけど丸ってなに(笑)
シェフに聞いてみると丸とは…まさかのスッポン!クリスマスにスッポンて(笑)
意味深すぎてなぜスッポンを使ったのかはあえて聞かない。クリスマスだし、カップル多いし。と勝手に解釈。
ドリンクは味や風味のペアリングと言うよりは、特別ディナーのスタートにふさわしい華やかなものをご用意。お花とフルーツの果肉から水出しフレーバーティを抽出し、僕が培養している乳酸菌を加え発酵させたKOMBUCHA。これをソーダサイフォンに入れCO2を充填。お客様の目の前でシャンパングラスに噴射する。
お花の華やかな香りとフルーティーな香り。発酵による厚みとグラスに昇る泡。
特別な夜の始まりの合図 = CUE をだす。
CUE
- グレープフルーツ(果肉)× 1
- オレンジ(果肉)× 2
- ドライラベンダー × 3g
- レモングラス × 5g
- バイマックル × 0.5g
- 水 × 1600ml
- グラニュー糖 × 120g
- 1883 orchid syrup × 40ml
- 自家製コンブチャベース+スコビー × 液量の10%
保存瓶に果肉、ハーブ類を入れ2日間ほど冷蔵で水出しハーブティーを抽出。
濾して鍋で軽く沸騰。加熱殺菌しグラニュー糖を溶かし入れ急冷。保存瓶に移しコンブチャスコビーを加え2-3日室温で発酵。
ソーダサイフォンに必要量入れCO2充填。
Interlude : 鮭児 真珠貝
Pairing Drink : SAKE ZERO
焦点 : 本醸造
幻の鮭といわれる鮭児と真珠貝のお造り。お造りはやはり日本酒ですよね。
ここ最近僕が一番力を入れて研究しているノンアルコール日本酒造り。現段階での研究結果をここにぶつける。
とある麹発酵の専門家にレクチャーを受ける機会があり、最近は自分で麹を育てている。
培養しやすい麦麹用の種麹を蒸したお米に付着させ米麹を作るので、どこか麦っぽい香ばしさを持った米麹ができる。この米麹でライスミルクを作り発酵させると市販のライスミルクや甘酒とは全く違う物ができるので非常に興味深い。
SAKE ZERO
- 花梨 flavor non_alcoholic GIN × 20・・・※
- 発酵ウォッシュライスミルク × 10・・・※
アイス、リキッドをシェーカーに入れ優しくシェイク。ダブルストレーナーでグラスに注ぐ。
※ 花梨 flavor non_alcoholic GIN
- 花梨の実 ×100g
- 花梨の皮 × 40g
- ジュニパーベリー × 5g
- エルダーフラワー(ドライ) × 0.5g
- フレンチタラゴン × 2g
- バイマックル × 1g
- 水 × 600ml
花梨を実と皮に分け冷凍粉砕。材料をフラスコに入れロータリーエバポレーターで蒸留。
真空度 40hPa / 回転数 180rpm / hot bath 35℃ / condenser -17℃
※発酵ウォッシュライスミルク
自家製米麹と65℃に沸かしたお湯を 1:1 でブレンダーにかけ攪拌。保存瓶に移し発酵器で8hほど発酵。(自家製米麹に関しては別の機会に詳細明記します)
ビーカーで湯煎しながらクエン酸を加えバースプーンでゆっくり攪拌。
急冷しコーヒードリップで濾過。
花梨の実と皮では香りが違う気がする。実は梨のような甘い香り。皮は花っぽい華やかな香り。違う香りなので別々に冷凍粉砕し分量を調節してバランスを取っている
麦麹用の種麹から作った米麹を使用しているので純粋な米麹よりどこか香ばしい薄茶色な香りがする(僕がよく味や香りを表現する時に使うカラーチャートです。色彩でなくイメージの話)
この香ばしさが純米酒でなく本醸造酒っぽいイメージになります。
そこに花梨の甘さと花のような香りを加え、インパクトを和らげ華やかな印象を与えます。
ベースはしっかりしているけどアフターに上がってくる香りは甘く華やか。そもそもノンアルコールなのにアフターでフレーバーが上がってくることはかなり難しく、今回のこのドリンクは僕自身のレベルが数段ジャンプアップした結果になりました。
Verse : のどぐろ フラン
Pairing Drink : なし
ペアリングドリンクなし
Interlude : オマール海老
Pairing Drink : 隣の芝生は青い
焦点 : 羨望
オマール海老の美味しさをシンプルに味わって欲しいという一皿。
ここには、2021年の終盤大好評の”芝生”を合わせた。
風味の構成としては甲殻類と相性の良いものなのでペアリングの精度として文句ないしだけど、それよりも、クリスマスでアルコールペアリングが多いだろうと予想したうえで、”どやっ!ノンアルもおもしろそうやろ!”と指加えさせたい想いから、このネーミングのモクテルはマストです。
(蓋を開けると意外にもノンアルペアリングが多く、手の込んだガーニッシュに泣く羽目になりましたが 笑)
※隣の芝生は青い の詳細は以前の記事を参照
Bridge : コチニージョ
Pairing Drink : 欺罔の蝶 (surface mojito)
焦点 : 困惑
スペインはセゴビアの名物料理であるコチニージョ。要は仔豚の丸焼きです。
いや、クリスマスといえば七面鳥じゃないの?ほんとこの店の人たちは他と同じことしたくない天邪鬼というかひねくれているというか(僕含め 笑)
厨房で目を開けたままのピンクの綺麗な肌をした子豚を笑いながら見せてきたN君を、僕はクリスマスがくるたびに思い出すことになるだろう…。
パリパリの皮とやわらかい身。しっかりと味付けされパンチのある料理にはすっきりとした爽やかなドリンクを合わせたいと思い、季節真逆だけどモヒートをイメージしてペアリングを組んだ。
今年の夏にVIVITA KANAZAWA とのコラボで創ったあの Art Mocktail。
※詳しくは VIVITA × Art Mocktail の記事を参照
焼く前の仔豚を見て “ぎゃー!”と騒いでたくせに、いざ調理され皿に盛り付けされれば”美味しい美味しい”とバクバク食べてしまう自分への戒めとして、カワイイ見た目に騙されてグビグビ飲むと、ショウガの辛さにびっくりする、”綺麗なとこだけ見てると痛い目に合うよ”のアレです。
欺罔の蝶
- 自家製ライムコーディアル × 10ml
- FEVER TREE Ginger beer × 適量
- バタフライピーティー × 10ml
- スペアミント × 適量
- クラッシュアイス × 適量
グラスにライムコーディアルを注ぎミントを加えペストルで軽く数回押さえミントの香りをコーディアルに移す。クラッシュアイスを詰めてジンジャービアを6分目くらいまでアップしステア。
バタフライピーティーをバースプーンを使いゆっくりフロートし、ミントを飾る。
Chorus : 口直し
Pairing Drink : なし
ペアリングドリンクなし
Interlude: 牛タン
Pairing Drink : Mr. Californian Boy
焦点 : 酸と渋み
分厚い牛タンを柔らかく煮込み、味付けは照り焼きソースのような甘辛いタレと卵黄をつける。
みんな大好き焼鳥屋のあの感じ(これ言うとシェフが怒る 笑)
焼鳥屋感に引っ張られたせいか、牛タン=焼肉屋の牛タンスライスとレモンしか思いつかなくなってしまったのでレモンのドリンクをペアリングする。
焼肉屋であればレモンサワーで流したいとこだが、ここはレストラン。ほろほろ崩れる分厚いタンと濃厚なソースなので、渋みや樽香も軽く感じるような赤ワイン的要素も加える。
Mr. Californian Boy
- 自家製レモネードシロップ × 10ml
- FEVER TREE Premium soda × 30ml
- スパイス インフューズド グレープジュース ×10ml・・・※
- カットアイス × 1
- レモネード漬け込みレモンスライス × 1
- ローズマリー × 1
- エディブルフラワー
※スパイス インフューズド グレープジュース
- joker raisin × 300ml
- ブラウンカルダモン × 1かけ(潰す)
- クローブ × 1
- スターアニス × 1(砕く)
グレープジュースにスパイスを加え一晩かけて香りをインフューズする。
ロックグラスにカットアイス、レモネードシロップを入れソーダを注ぎゆっくりステア。
スパイスをインフューズしたグレープジュースをバースプーンを使い静かに流す。
アイスの上にスライスレモンを敷いて、リースのように丸く結んだローズマリー、エディブルフラワーを飾る。
レモネードに赤ワインをフロートするカクテル”アメリカンレモネード”のイメージで、グレープジュースにスパイスをインフューズしソノマのピノ・ノワールのような果実味とすっきり感を再現。(ごめんなさい。ワイン全然詳しくないのに言ってみたかっただけです)
レモネード=アメリカの子供が作って売ってるイメージ + カリフォルニアワインという意味を込めて、”Mr.” と “Boy” を入れたネーミングに。
Solo : クエ
Pairing Drink : 花ちらし
焦点 : 色彩
ちらし寿司を思わせる色彩豊かなライスサラダには様々な色の花びらを散らしたモクテルでペアリングする。
ライスの味を壊さず、アボカドやオリーブにも合わせ、自家蒸留したノンアルコールGINとトマトの旨みを重ねる。
花ちらし
- Home distilled Non_alcoholic GIN – Japanese citrus flavor × 100ml
- Clarified tomato liquid – ESPUMA
- カチワリ氷 × 1
- エディブルフラワー
※自家蒸留ノンアルGINとトマトリキッドは過去の記事を参照
グラスにカチワリ氷を入れノンアルコールGINを注ぐ。
透明なトマトリキッドをエスプーマで泡にしてGINの上に乗せる。
トマトの泡に細かくした花びらを散らす。
ミョウガや実山椒などをボタニカルに使った自家蒸留のノンアルコールGINはお米との相性がよく、クリアなトマトの酸や旨みがアボカドやオリーブと重なり、和のちらし寿司でなく洋のライスサラダという印象をより強調させる。
Outro : チョコレート バナナ / ブッシュドノエル
Pairing Drink : Milky way
焦点 : 黒と白
長時間調理したバナナのソースとホワイトチョコの泡を液体窒素で凍らせた1皿目
ピスタチオの生地にベリーのジャム、ホワイトチョコのクリームでコーティングしたクリスマスの定番デザート”ブッシュドノエル”
12月上旬。パティシエと雑談レベルでブッシュドノエルの味に関して話した時に、
「せっかくのクリスマスディナーだし、自分がお客さんだったらぶっちゃけコースの流れとかより、最後は単純に美味しくてカワイイケーキ出てくるのが一番嬉しくない?」なんて会話をした。
なんやかんや言うて、一緒に食事してる女子が喜んでくれるのが男子としては一番価値のあることであって、お客さんが喜んでくれるのが僕らの喜びだし。(女性パティシエに対し男子主観で力説。笑)
ということでドリンクも単純に。デザートに合わせて飲みたくなるものといえば…コーヒーは食後にでるし…やっぱミルクですかね。
ミルク使ったもの…ミルキーなもの…と考えていると頭の中で Towa Tei の Milky way という曲が流れ、ずっとリピートし始めた。
日本語の天の川だと織姫と彦星 = 夏のイメージなってしまうけど、英語の Milky way = 宇宙/天の川銀河 から、『冬の真っ暗な夜空の下。そこには愛し合う男女と2人が歩んだ白く光る雪道だけ』という謎の妄想ストーリーが浮かんだので、この物語をグラスの中で表現する。
ベースであるミルクをバニラシロップで味付けし、ウォッシングで一旦透明にしてから炭を溶かし真っ暗な空間を表現。
雪道は温めたマシュマロを引き延ばしマティーニグラスをデコレーションして表現。
マシュマロの、熱を帯び一気に膨らむ様と、細く何本も交わり合う白く細い糸が、愛し合う2人のイメージにピッタリだった。
Milky way
- ウォッシュド ミルク × 80ml・・・※
- 竹炭パウダー × 1g
- 1883 ヘーゼルナッツ シロップ × 1/2tsp
- マシュマロ × 1ヶ
※ウォッシュド ミルク
無調整ミルク500mlに1883バニラシロップ10mlを溶かしクエン酸ウォッシュ。
マシュマロを半分にちぎり両方耐熱皿に乗せ軽く水で濡らし電子レンジで加熱(500w /30sec)。
レンジの中でマシュマロがモコモコと膨らんだら取り出しすぐさまフォークで皿の中の水と混ぜ合わせ水分を含ませ伸ばす。(高出力または時間が長いとマシュマロが焦げる)
水で伸びたマシュマロを2本のフォークを使いマティーニグラスの上で糸のように伸ばし交わらせる。
ビーカーに竹炭パウダー、ウォッシュドミルク、ナッツシロップを加え小さいホイッパーでしっかりパウダーを溶かす。(激しく混ぜるとウォッシュミルクは泡立つので注意)
マシュマロでデコレーションしたマティーニグラスに真っ黒なミルクを注ぐ。
ホワイトチョコレートを使った “ 白 “ のデザート2皿に “ 黒 “ のペアリング。
嬉しいことにノンアルコールペアリングのゲストも多く、このだいぶ気持ち悪い(笑)妄想ストーリーをひとりひとりに説明出来なかったことが悔やまれたが、この記事で昇華できて幸いです。
※語源となったギリシャ神話は僕の妄想の世界観とズレがあるので割愛します。
元音響エンジニアのバーマン。
外食はコンサートと同じ。料理やドリンク、空間やサービスで楽しいショーを体験する時間。ステージを彩るドリンクで、ショーの一翼を担う。