2021.06.04

初夏、犀川と鮎の香り

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石川県金沢の鮎

石川県金沢の夏の犀川

金沢市内を流れる犀川に架かる犀川大橋を渡っていると、ついつい足元の川面に目が惹かれます。歩みを止めて眺める、たっぷりとした水がゆったりと流れる景色は、いつも気持ちを穏やかにしてくれます。

この場所に初めて橋が架けられたのは前田利家公の頃と言われておりますが、その橋の上で松尾芭蕉も一句詠んだとの説もあるとか。その頃は犀川に架かる唯一の橋だったそうです。

最初は木造であったこの橋は何度も修繕を施され、現在の姿は、大正時代に英国から取り寄せた鋼材で作られたものが基本となっています。

石川県金沢の犀川大橋

また、昭和の中頃までは、橋付近の川べりに屋形船が常時接岸していたそうで、そこでは牡蠣鍋を提供して、随分と賑わっていたとか。牡蠣鍋を楽しんだ後は、きっと片町や西のお茶屋あたりで二次会を楽しんでいたのでしょうね。

 この犀川大橋の上からは、時折ウグイや鯉の姿をしばしば見つけることができますが、秋には遡上している鮭も。もちろん獲ってはいけない魚ですので、眺めるだけですが、遠くの海からはるばる金沢まで無事に戻ってきてくれたと思うと感慨深いものがあります。

さて今の時期はというと、私はやはり鮎を探してしまいます。ただ水深のある犀川大橋付近よりも、浅瀬の方がその姿に遭遇しやすいので、時間があるときはわざわざ浅瀬の川べりを歩きます。

石川県金沢の犀川の釣り人

もちろん天気次第ではありますが、天気の良い日などはこの時期特有の川水の香りを感じます。鮎の香りと言っても過言ではないこの香りこそが、鮎釣り解禁待ち焦がれている太公望達を興奮させるのです。

春から夏にかけての水温の上昇とともに、その香りが広がっていくのですが、それは同時に川底にある石の表面にヌルヌルとした水苔が繁殖していく時期でもあります。それが鮎の好物なのです。鮭は海から川に入り遡上を始めると一切捕食しなくなりますが、鮎は貪欲に食べますので、自分のナワバリを作って、食料を確保します。

 鮎釣りといえば、そのナワバリを持つ習性を利用した友釣りが有名ですが、金沢では毛針を使った鮎釣りも盛んです。加賀藩士の鍛錬として川釣り、特に鮎釣りが奨励されていたことから、古くからこの時期の犀川では釣竿がまるで竹林のごとく、賑やかに列挙していたのでしょうね。

そして、鮎釣りに使う毛針作りも加賀毛針として、独特の文化として継承されてきました。どうも、武士の内職の一つとしても定着していたようです。

鮎の泳ぐ姿を料理に写し取る

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初夏の日本料理に欠かせない食材の一つである鮎を使うのは、1年で僅か2ヶ月程ですが、だからこそ焼き場の腕を計るには絶好の食材です。鮎がまるで泳いでるような姿に焼き上げるための踊り串を打ち、塩を振ります。

そして頭はサクッと、皮はパリッと身はふわっと、そしてヒレは化粧塩せずに一枚も欠かさず、3通りの火の通し方をして焼き上げる技術は、日本料理の焼き物では最も技術的に難しいものだと思います。

もちろん炭火焼きが一番美味しいのですが、同じ熱源から同じ距離で焼いて、前述のように3通りの火の通し方をしなければならないのは、常識的に考えても相当困難です。

我々金沢の料理人が仕上げる鮎の塩焼きの技術の伝承には、実は武士も寄与していたのではないかと考えると、犀川を眺める気分もまた一入です。

石川県犀川の夏

石川県金沢市「日本料理 銭屋」の二代目主人。
株式会社OPENSAUCE取締役

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