2022.04.06

BRUTUS 2022.4/15
日本で味わう、48の国と地域の食文化 「世界が恋しくなる料理。」 【私の食のオススメ本】

  • 書名:BRUTUS no.959 2022.4.15
       48の国と地域の食文化
       世界が恋しくなる料理。
  • 発行所:マガジンハウス
  • 発行年:2022年 

まず、こういう内容が特集されコンビニで売られる国は他にないのだと思う。8万部弱の雑誌(食の専門誌dancyuは発行部数10万部程)だと思うが、コンビニの書籍流通は特殊でその配布量はよくわからないが、都市部に多いだろうということは地方の街から離れたコンビニを回ってみれば、その棚の冊数で容易に想像できる(ただ、雑誌もネットで買えるので購入者は意外といるのかもしれない)。

雑誌の新しい特集号を紹介することはなかったが、これからは時代の転換期の匂いが漂うものは取り上げてみようと思う。時代の転換期というのは大袈裟なようだが、この本を見れば、わかってもらえそうな気がする。というか、わかってもらいたい。漂う匂いを。

ただし、出版社の企画意図とは視点が違うのだろうと思いながらここにとりあげているということは先に述べておきたい。特集冒頭で「(コロナ禍で)海外との往来が叶いづらい昨今、思考のガラパゴス化が進んでしまう、と危惧する日々・・」とあり、日本にいても世界の料理店でさまざまな文化の接点を持つことができるというのが編集のテーマとなっている。(コロナで打撃を受けた店の救済としては賛成だが)切り口としてはこじ付けっぽくてつまらない。しかし、集まった情報は興味深いのだ。

抽象的だがまずは本全体を俯瞰で見てほしい。それから各テーマや取材された店の人たちの「食」を仕事にする意図を読み取ってほしい。

世界からやってきた人たち、世界の料理を提供する人たちの、自分たちの食べてきたもの、伝えたい自分達の料理があるという無垢の信念だ。商売の自信はなかったかもしれないがこれ以外頼るものはないのである。

はたして、日本人はどうだろう。

80年代前半あたりまでは、バックパッカーとして世界を歩くような若者たちが多くいた。彼らが帰国してはあまり日本人が知らない海外の地方の料理を料理情報を伝えたりしていた。(その時代、インターネット以前、海外出国者は増え始め400万人に急増。実は帰国した人たちをつかまえて、外国の小さな町の情報をQ&A記事にしてディスカウントエアーチケット販売会社の会員向けという形で新聞を作っていた。地球の歩き方の前身である。)

今はその知らない地域の人たちが日本にやってきて自身が食べてきた料理で店を開いている。そして雑誌で特集されるほどになっている。この号を読みながらその現象について考えてもらいたい。

梁宝璋氏の取材記事

本号では、2019年にRIFF編集部が「母の味と伝えられたレシピ」というテーマで取材した梁宝璋氏による中国東北地方料理を伝える”味坊集団”の各店が取り上げられている。1995年に日本にやってきた梁氏は「自分が食べてきたおいしいものを知ってもらいたい」「日本で知られていない中国のおいしい料理をきちんと伝えたい」と取材に答える。われわれの取材からその姿勢は変わらない。

同じ中国料理だがエッセイストの平松洋子は池袋西口のフードコートを推している。1箇所で福建・四川・湖南・西安の中国各省の料理が食べられる。日本のように、外国の料理を食べ比べをしたいという人々が日常的に集まる国も少ないのではないだろうか?先に述べた、俯瞰というのはこういう見方のことでもある。

この本では、メジャーな国の他に、日本人にはイメージできない地方や民族の料理店が取り上げられている。ラオスに隣接するタイ東北部イサーン料理、インド東部コルカタに「移住した広東系客家人の料理・マンチュリアン(=満州風)料理、中国・吉林省の延辺料理、マレーシアの古都・マラッカで中華系移民と結婚したマレー女性=ニョニャの料理を提供するレストランなどだ。

さらに、外国人としてどのように日本で店を開いたかの経緯を取材したコラムもある。和食修業もしたことのあるミャンマー人のシャン州料理を提供する店。近年、世界的なブームになっているペルー料理の店をを2002年につくった人。大使館員から転身したケニアのカンバ族の料理を提供する店。布教に来て料理未経験ながらチベット料理の店を出した人。クルドのことをもっと知ってほしいと作ったクルド人の店(ちなみに日本のトルコ料理店のオーナーはクルド人が多いとのこと)。

この号は、われわれが、企画の意図である他国の文化を食から得るということではなく、自分たちの食について、他国の人たちに伝えたいものを持っているかということを考えることが重要だと思わせてくれる情報で溢れている(見方次第ではあるけれど)。

マーケティング・リサーチや刺さるものという視点ばかりで食事業をやる時代も終わりかけている。コンビニの商品もそこからは生まれない。マーケティングが活かせるのは商品になってからだ。とは個人的に思ってはいるのだが。

WRITER Joji Itaya

出版にたずさわることから社会に出て、映像も含めた電子メディア、ネットメディア、そして人が集まる店舗もそのひとつとして、さまざまなメディアに関わって来ました。しかしメディアというものは良いものも悪いものも伝達していきます。 そして「食」は最終系で人の原点のメディアだと思います。人と人の間に歴史を伝え、国境や民族を超えた部分を違いも含めて理解することができるのが「食」というメディアです。それは伝達手段であり、情報そのものです。誰かだけの利益のためにあってはいけない、誰もが正しく受け取り理解できなければならないものです。この壮大で終わることのない「食」という情報を実体験を通してどうやって伝えて行くか。新しい視点を持ったクリエーターたちを中心に丁寧にカタチにして行きたいと思います。