2018.12.14

クリスマスを待つ「パネトーネ」観食日記ゆるゆる序章。

クリスマスのパネトーネ

「おせち」にあり着くまでの12月。日本人は何を食べていたただろう?

イタリアではクリスマスの4週間くらい前になると家々でこのパネトーネなるものを焼いて贈り合っていた。だから家の中にはいくつものパネトーネがあって、クリスマスまで口寂しさを癒す存在だったらしい。

15世紀頃(一説には3世紀)ミラノ発祥のパネトーネ、今ではパン屋などで買うのが普通になり、老舗の名店も多く存在する。人々の口寂しさをいまでも癒しているパネトーネにはさらに少しづつ熟成していく感じをクリスマスまでの4週間をかけて味わえるという楽しさもある。翌年の3月くらいまで保存(当然保存料なしなので熟成ですね)できて、実はその頃がマックスに美味しいと、あるイタリア・ワイン専門のお店に教えてもらった。

まあ、そこまでは食い意地が黙ってはいないと思いつつ、イタリア・ヴェネト州、ヴィチェンツァの15世紀クラシックスタイルの手作り職人系パネトーネを手に入れ、熟成観察ならぬ観食日記をやってみることにした(経過は次回へ)。

ところで日本で言うとどんなポジションなんだろう、パネトーネ。おせちまでの日々、こたつの上にあるミカンという感じだろうか。うーん、なんか違う感じ。この期間、日本人は何を食べていたのだろう。煎餅とかおかきは年中あるしね。。

パネトーネ、パネットーネお前はパンなのお菓子なの?

Panettoneをイタリア人の発音で聴いたことがないのでパネットーネなのかパネトーネが近いかわからない(聴いてもわからなかもしれないけど)。

今や日本でもパネトーネは国産やスーパーやコストコでも買える大量生産の輸入品、そして前述のイタリアの名店によるパーネ・エ・オリオという伝統的な手法でつくられたものまでも手に入るようになったがいずれも「パネトーネ」という表記が多いように思う。

で、パネトーネの定義はなにかというと

①生地をパネトーネ種(※1)で発酵させていること

②刻んだレーズン、プラム、オレンジの皮などのドライフルーツを①のブリオッシュ(※2)生地に混ぜ込んであること。

これを守ってドーム型に焼いた柔らかく甘いパンということになる。このドライフルーツが入らないとパネトーネとは違うものになり、pandoro(パンドーロ)と呼ばれる。このパンドーロは丸いパウンドケーキのようだがパネトーネ種のブリオッシュ生地なので当たり前だけどパウンドケーキとは全くの異種なのである。

パン→ブリオッシュ→パネトーネ→パンドーロ→パウンドケーキという感じで、調べてみるとブリオッシュはすでに菓子の色を帯びている。なぜならマリー・アントワネットが言ったか言わなかったか「パンがなければお菓子をたべたらいいのに」で訳された<お菓子>はこのbriocheなのだ。パンから早くも菓子に足を突っ込んだブリオッシュを使って出来上がっているのがパネトーネ。

ということで日本では語呂よく菓子パンと言われているようだが、このパネトーネを私はあえてパンに近い菓子「パン菓子」と呼びたい、と思う。

シュトレンはパネトーネの兄弟かいとこか

初めに<クリスマスの4週間前くらい>と書いたけれど正確にはクリスマスの4つ前の日曜日からというのがたぶん正解である。キリスト教でいう「待降節(Advent)」の始まりだからだ。つまりクリスマスの準備の期間である。この準備をしながら食べるのがパネトーネなのだ。

背景が違うので、こたつの上にあるミカンとはどうも違うと思うわけだ。実は「待降節」のお菓子では、日本において真っ白に粉砂糖がふられたドイツの「シュトレン」が大先輩になる。自分が知るだけでも何十年も前から神戸の中山手1丁目にあった(現在は旧ユニオン教会に移転)『フロインドリーブ』には並んでいた。たぶん1924年の開店以来あるのだろう。

いまでは多くのパン屋さんやケーキ屋さんが扱う。発酵パンにドライフルーツを混ぜ込んで焼くというのも、熟成を味わうのも全く同じだ(みんなそんな食べ方はしていないけどね)。パネトーネ種でないところと形だけが違う。

調べてみるとその発祥は14世紀になる。パネトーネ発祥より1世紀も早いではないか。いとこどころか親か爺さんの可能性もでてきたぞ、シュトレン。でも、今回はやっと最近シュトレンに肩を並べてきた「パネトーネ」でいってみることにする。

さてさて、パン菓子入刀、第一食目。

包みを開け、1kgサイズのパネトーネを取り出す。ずっしり重い(でも2.5kサイズもあるのね)。たぶんリキュールのようなもので漬け込んだドライフルーツたちの香りや旨みがパンの方にジワリジワリと移り始めているのだろう。フワーッとドライフルーツと熟成途中の甘い香りが…。

というところを半分にバッサリいき、素早くラップに包む。これは長めの保存用に。本来は薄くスライスしたものにザバイオーネ(※3)というカスタードクリームか生クリームやアイスクリームを合わせるらしいのだが今回は熟成を観察、いや観食するために何もなしである。熟成を止めないためにも常温で保存しながら、また2、3日経ったら食べてみることにし、まずは一切れ目。過去に食べた普及品はドライフルーツ入りパウンドケーキの域だったが、おっ、ちょっと違うか!ドライフルーツのクオリティの所為か…(続く。食べ切ってしまわない限り、たぶん。)

※1 小麦・ライ麦と水と乳酸菌・酵母をメインに単体でない微生物で培養させたサワードウ、サワー種と呼ばれる伝統のあるパン種の一種で、(誰が発見したのか謎だが)特に生まれてすぐに初乳を飲んだ子牛の腸内から採った物質と小麦粉を混合した発酵種のこと。

※2 小麦粉に、水ではなく牛乳を加え、バターと卵とイーストでつくった発酵パンのこと。フランス語もイタリア語も同様だが、フランスでは瓢箪のような形に頭がついたブリオッシュ・ア・テートが一般的イメージ。

※3 卵黄と砂糖を温めながら泡だて甘いマルサラワイン(または白ワイン・シェリーなど)を加え煮詰めた大人のカスタード。 

後編はこちら パネトーネと宇能鴻一郎のミックス編>

WRITER Joji Itaya

出版にたずさわることから社会に出て、映像も含めた電子メディア、ネットメディア、そして人が集まる店舗もそのひとつとして、さまざまなメディアに関わって来ました。しかしメディアというものは良いものも悪いものも伝達していきます。 そして「食」は最終系で人の原点のメディアだと思います。人と人の間に歴史を伝え、国境や民族を超えた部分を違いも含めて理解することができるのが「食」というメディアです。それは伝達手段であり、情報そのものです。誰かだけの利益のためにあってはいけない、誰もが正しく受け取り理解できなければならないものです。この壮大で終わることのない「食」という情報を実体験を通してどうやって伝えて行くか。新しい視点を持ったクリエーターたちを中心に丁寧にカタチにして行きたいと思います。