未経験の農業人生スタートから半年
KNOWCHのスタートから5年目の今年、2022年2月。一人の新人が途中入社しました。1993年生まれの清水大樹さん。異業種からの転職です。それまでと作業も時間の使い方も違う、農業という仕事を始めるということ。それはいったいどんな<感じ>なのか?入社から半年になる清水さんに転職から現在までのお話を聞いてみました。
(前編はこちらから)
──途中入社、農業未経験、新規就農なわけですが、当初はどんな感じで始まったんですか?
代表の村田さんとは最初の頃に「どういう感じでノウチに関わりたいか」というお話をしていて、「ノウチ全体をやりたい(関わりたい)です」と伝えていました。
なので、現在の仕事の軸は「ネギ」で、7歳下の先輩の鵜沢さんと一緒に担当しているんですが、「ぶどう」担当の城(たち)さんたちのところへ行ったり、新卒入社の広末さんがぶどう以外で担当して育てている「いちじく」にも関われるように活動しています。ですから、他のスタッフのみなさんとはけっこう話しながらやれています。
土づくりを知るところから始まる
──担当されているネギの圃場はどのくらいあるのですか?
今回、1ha(ヘクタール=1万m2)くらい作付けする予定だったんですが、人員と天候と時期の兼ね合いもあって、現在植え付けができているのは約80a(アール)くらいで、その中でやっているという感じです。実際、ネギ用の土地はかなりあるんです。ただ、もともと田んぼだった耕作放棄地や遊休地なので、それをネギ用というか、野菜を育てられる圃場に変えるのが大変で、それがネギ部門の一番の課題かもしれません。
──それは露地栽培での土壌というか「土づくり」のことですか?
はい。村田さんにもしっかり勉強した方がいいと言われています。いわゆる「土づくり」には(1つ欠けても健康な土壌がつくれない、互いに影響を与え合う)物理性・化学性・生物性の改善という3つの要素があるんですが、水田だった土は排水性がとにかく悪いんです。土がごろごろしていて粘り気があります。ネギを作るのには真逆なんです。
どの本にも「とにかくネギは排水性が命」みたいなことが書かれているんですね。なので、どうやってネギを作りやすい土に変えるか。コストのことも、使える機械のこともありますから、頭をつかってやらなければなりません。
──いまはどのような方法をとっているんですか?
今考えているのは、「緑肥」という植物の種を使ってない田んぼに蒔いて、それが生えることで下にも根が広がり固まっている土に細かく入り込んで、それを刈り取って土に漉き込んでいくと、有機物が入り、よりフカフカした土になるという方法です。2〜3ヶ月でやれると思うのですが、実際にフカフカになるにはもっとかかるかもしれません。
──村田代表も以前「(場所により土壌にの違いがあるので)そこの土でやってみなければわからない。教科書通りにはいかない」と話されていましたね。
──担当されているネギはいつ収穫できるのですか?
ノウチで生産している品種は、(栽培時期の幅が広く)時期をずらしながら植えているので、早いものは夏から収穫でき、冬まで採ることができます。越冬(作業)がうまくいけば冬を越して収穫できます。
──安定して周年に近く作ることができる、生産性が高いものをベースにしているんですね。
──石川は大きな台風は少ないと思いますが、天候の影響はありますか?
うちの畑はそんなに被害とかはないんですけど、ネギは風が強いと折れてしまったりすることがありますね。また、水捌けが(改良したとはいえ)まだ十分でない場所もあるので、大雨が降るとあんまりよくないですね。病気にかかったりとか。でも、いまのところ、ウチのどのネギにも異常は出ていません。
ただ逆に、今年は空梅雨(からつゆ)と言われましたが、うちの圃場は土の保水性があるので、雨が降っていない期間を凌いでくれて枯れずにすみました。ノウチが所属している「白ネギ部会」というのがあるんですが、加入している生産者の方々と各畑をまわってみたところ、他のところは排水性が良すぎて水が足らず、葉先が枯れているものがあったのですが、その中でみなさんに「ノウチのネギがいちばんきれいにできている」と言われました。
土質として、デメリットとメリットがあって、排水性が悪いというのはあるんですが、そのぶん(土の)栄養も流れ出ないというメリットもあります。なので、良い土でもあるんです。
──農業は天候との戦いと言われますが、いかにその場所の環境を生かして「共存」するかということもありますね。
対策として、農薬を撒いたり除草をしたりするんですが、基本、就農3年目で21歳の先輩、鵜沢さんが計画を立てています。自分はまだ初心者なんで、それに従って作業をする部分が多いです。鵜沢さんは、定植してから30日以内には使えますとか、1回作り上げるのに2回しか使用できませんとか、厳しい決まりのある様々な農薬を状況に合わせて細かく組み合わせていく「農薬設計」ができるのでスゴイと思います。
──ネギ農業の作業というのは決まっているんですか?
そうですねえ、作型(※)っていうんですけれど、定植から収穫までのスケジュールと天気によってすごく変わるので、決まった流れはないんです。今でいうと、夏で雑草が多くなるので草取りのような単純な仕事が多いですね。
※(さくがた)=周年で作物の栽培を行う場合、生態的特性が季節に適した品種を植え付け、その作物及び環境条件に合った栽培管理をし、経済的生産を行う一連の技術体系のこと。
出勤時間でいえば、夏(7月下旬)なので、通常8時から17時だったものを7時から16時にずらしています。これからもっと暑くなっていったら6時スタートに。ぶどう部門はすでに6時からですね。基本的には任されているので、村田さんには朝の連絡や報告をして、指示やアドバイスをもらうといった流れです。
──村田代表の経験から、指示をもらって動くだけでは農業はできない、<任せて成長してもらう>という方針があると思うのですが。
任せてもらっているということでは、ネギ担当の鵜沢さんは農業高校を出て大きな種苗会社の学校にも1年行っているのでとても詳しいのですが、それでも全部一人でやれているのはスゴイと思います。さらに自分が加わったことで、自分以外の人をどう動かすか、指示も出さなければならないので大変だと思います。
転職の前までは、農業はおじいちゃん、おばあちゃんがやっているイメージが(勝手に)あって、まさか農業の会社で7つ下の人に教えてもらうという想像はしていませんでした。新卒で入った広末さんも大学時代に農業コースを1年くらい取っていたらしく、北海道での農業体験などもあるようです。自分はまったく農業の知識を持たず「連作障害」も知らずに入社しましたが社会人の経験もありますし、(この仕事に年齢は関係ないので)それぞれの知識や経験を生かせるように、会社のなかでうまく役割分担できるように広く動ければいいなと思っています。
ネギ農業(栽培)に見つけた
ゼロから作るクリエイティブな面白さ
──入社・就農からまだ半年ですが、ネギを担当していて感じた面白さを教えてください。
そうですね、まず農業という点でノウチは一般企業と違って、上の指示で動くというより「自分で考えてやる」という意識が強いと思うのですが、ある意味RPGじゃないですけど、自分で開拓して広げていくみたいな、いい意味でゲーム性がありますね。自分一人でやる上で、考えることでもっと効率をよくし、天気とどう対処するか、といったことが学べるのは面白いですね。
ネギ栽培の面白さとしては、自分はぶどう栽培としか比較できないのですが、ぶどうの場合は(定植から行うこともありますが)植えてある樹に対して、剪定など自分考えで進めていくのですが、ネギはまっさらな土地から作っていこうとなるんで、そこは面白いですね。自分でこの圃場に対しては植える溝をこうやって作ろうとか、フィールド作りではないですが、自分の考えで作れるんです。
──自分の考えで、というのは具体的にどのようなことですか?
ある程度、植える幅とか決まってはいるんですが、倍の幅をとることで(密集をさけ)病気になりにくくしたり、そのことで土をもっとネギの方に寄せられるとか(土が寄せられた首の部分が軟白部になる)、種から作る作品というか、自分次第でなんとでもなる、ゼロから作れるというようなところでしょうか。
──なるほど、作物に連作障害があるということを知らなかった新人だったのに(笑)、就農半年で農業の面白さを見つけられたんですね。
ハハハ。実際、自分たちの世代で農業について知っている人は少ないとは思います。ただ、農業に興味を持っている人もけっこういて、前職で同期だった女性から「農業って実際どうなの」とか「どうやって調べたの?」とか質問がくるんです。でも、そもそも「一人でやってるんでしょ」みたいに、農業の会社があることすら知らないんです。
──半年やってみた感想として、農業に興味を持っている人に伝えたいことはありますか?
自分が感じたのは、世間的に農業を(新たに)やるというのは「スローライフ」的な、自分にもそういう意識があったと思うんですけど、「のんびり自分が好きなようにできるでしょ」みたいな考えの人もいるんではないかということです。そうではない実際とのギャップの部分も知っておいてほしいと思います。
就農に興味をもったら、まずはいろいろ調べることで、大変なところもいいところも知って欲しいです。調べ方がわからないという人も多いかもしれませんが、SNSやTwiter、Instagramで農家さんを調べるといっぱい出てくるので、見てみたり、実際に会ったりするのがいいと思います。
──たしかに農業で生活していくというのは簡単ではないということではあるのですが、それを新しいカタチにして、様々なスタイルでの就農を可能にしようとしているのが『KNOWCH』という会社ですね。これからいろいろな課題が出てくると思いますが、グループみんなで盛り上げていきたいですね。本日はありがとうございました。
interview(2022/7/19)/text : Joji Itaya