2024.10.14

村井裕一郎「ビジネスエリートが知っている
教養としての発酵」

  • 書名:ビジネスエリートが知っている教養としての発酵
  • 著者:村井裕一郎
  • 発行所:あさ出版
  • 発行年:2024年

発酵のことは発酵を仕事にしている人に訊け!ということで、室町時代から600年続く種麹メーカー「株式会社糀屋三左衛門」29代当主・村井裕一郎氏が書いた本。

なぜ書いたかというと、発酵ビジネスは近年恐ろしく成長している分野で、日本を代表する技術で今のビジネスパーソンが身につけるべ教養ということなのである。

世界では発酵というものを学ぶ人が増えている。発酵は未来へのテクノロジーであり、伝統的な食品加工方法。そして日本の発酵技術には多くのビジネスチャンスがあると著者は言う。

イケてるビジネスマン(言い方が古いか)は発酵に商機を見いだせ!ということか。難しいところから突っ込んでいくより、まずは本書から発酵の世界に入るのが挫折なく進めるのではないだろうか。

なにせ、味噌・醤油・清酒・焼酎・みりん・酢など麹を用いる醸造メーカーの9割以上が種麹メーカーから麹菌を購入して商品を製造していて、著者の会社は3000社以上の企業に麹菌を販売しているのだ。

著者は大学で微生物のコンピュータシミュレーションを学び、米国でMBAを取得、大学院で「環境情報学」「経済学」「芸術学」から発酵と麹というものの無限の可能性に気づいた。

だから、本書は種麹屋さんの職人さんにちょっと訊いてみようという定ではないない。この本を読めば大学教授が教える市民講座に8回通ったくらいにはなるのである。しかしながら著者の解説は明快で読みやすい。本書の推薦者としてお笑いグループ、ロバートの馬場裕之氏(料理家・芸人)が「発酵の知識と魅力が詰まった素晴らしい1冊!知れば知るほど奥深さを増す<発酵の世界へようこそ!>」と書いているが、その通りである。

ただし、発酵をある程度かじった人にはサンダー・キャッツ氏の「発酵の技法」を読むことをお勧めする。発酵における変態的な研究者の著書である。

日本の発酵食品マップ
世界の発酵食品マップ

面白いトピックとしては

  • 「<麹>の世界カンファレンスの参加者の約88%海外参加者」
  • 「世界を席巻する発酵ガストロノミー(ここではnomaを取り上げている)」
  • 「発酵することで得られる様々なメリット(栄養・嗜好・生体調節各機能と保存性)」
  • 「日本人が発見した<うま味>」「グローバルな発酵食品とローカルな発酵食品(小倉ヒラク氏の『発酵文化人類学』から取り上げている日本の特色<並行複発酵>のこと)」

などを上げておきたい。

付録として「麹の作り方」が丁寧にまとめられている。なかなか麹をつくる機会はないかも知れないが、見ていくと「いつかはやってみたい」という気になってくる。そして、菌から始まった地球の生命体が菌をビジネスにするというのも壮大で面白いと思ってしまう。

巻末付録、10ページにわたる麹の作り方
WRITER Joji Itaya

出版にたずさわることから社会に出て、映像も含めた電子メディア、ネットメディア、そして人が集まる店舗もそのひとつとして、さまざまなメディアに関わって来ました。しかしメディアというものは良いものも悪いものも伝達していきます。 そして「食」は最終系で人の原点のメディアだと思います。人と人の間に歴史を伝え、国境や民族を超えた部分を違いも含めて理解することができるのが「食」というメディアです。それは伝達手段であり、情報そのものです。誰かだけの利益のためにあってはいけない、誰もが正しく受け取り理解できなければならないものです。この壮大で終わることのない「食」という情報を実体験を通してどうやって伝えて行くか。新しい視点を持ったクリエーターたちを中心に丁寧にカタチにして行きたいと思います。