2023.02.07

ふーみんさんの台湾50年レシピ【私の食のオススメ本】

  • 書名:ふーみんさんの台湾50年レシピ
  • 著者:斉風瑞(さいふうみ)
  • 発行所:小学館
  • 発行年:2022年

ふーみんさんは台湾人の両親をもつ東京生まれの東京育ちである。料理修業をしたことのない彼女が渋谷区神宮前のビルの地下に小さな「中華風家庭料理 ふーみん」を開いたのは1971年25歳の時。その後渋谷区桜ヶ丘に移り、1986年南青山の小原会館の地下に大きな店を構え大人気店となった。そして2021年75歳、厨房から勇退し、多くのリクエストによって川崎市の溝の口に「斉」をオープンした(「斉」はマンションの1室、コースのみ1日1組。行ってみたい!)。

この神宮前時代の後期から小原会館の店まで時々伺ってきた。初期「ふーみん」の料理に近所に住んでいた和田誠・平野レミ夫妻の助言があったことは随分後で知った。そのためか多くのイラストレーターなどのクリエーターが訪れていたことでも有名だ。桜ヶ丘には、学生時代にアルバイトをしていたという知人の女性に連れて行ってもらったのだが、行く時は「ねぎワンタン」が食べたいねというのが決まりだった。このメニューも和田さんのアドバイスから生まれたものだ。

「わたしのレシピは、だれがつくっても同じようにできると褒められる。特にこ(この本の)斉のレシピは『斉』の台所の一般家庭の火力で調理したので特に説得力があるでしょう」という。

(得意不得意は関係なく)少しも料理をしない人、料理をしようと思わない人間がレシピブックを作ろうとしても無理というか無駄であろう。「料理をする意味」がわかっていないからだ。料理のプロがただレシピを公開するだけでも無駄である。レシピブックはデータ集ではない。どうやったら知らない人が美味しくそのメニューを作って笑顔になってもらえるか、という気持ちがないと伝わらない。

レシピブックは「教えてやるよ」でも「使ってもいいよ」でもなく、「教えてあげたい」「残したい」が大事だ。これまでに出版されたいくつかのふーみんさんのレシピブックは、彼女が素人のころから、いろんな人の声によってできた料理の世界だからこそ生まれた「伝わるレシピ」だと思う。

読んでいるだけでお腹が鳴り出すレシピの一部は以下の内容。
ふーみん餃子 ガーリックチャーハン ゆでレバー アサリのにんにく醤油づけ すだちラーメン レモンラーメン スイカのガスパチョのつけ麺仕立て 鶏ねぎそば マルちゃん焼きそばの食べ方 スペアリブと冬瓜のスープ 干し大根の卵焼き 油飯(台湾風おこわ)斉のねぎワンタン ピーマンたらこ カリフラワーご飯 ザーサイとしょうがのおにぎり ・・・

 本書を読んでレシピ集は「伝えようとする」人にしか作れないのだとつくづく思う。レシピ集に欲しいのはその背景やメニューを作った時の気持ちや試行錯誤の様子なのかもしれない。

WRITER Joji Itaya

出版にたずさわることから社会に出て、映像も含めた電子メディア、ネットメディア、そして人が集まる店舗もそのひとつとして、さまざまなメディアに関わって来ました。しかしメディアというものは良いものも悪いものも伝達していきます。 そして「食」は最終系で人の原点のメディアだと思います。人と人の間に歴史を伝え、国境や民族を超えた部分を違いも含めて理解することができるのが「食」というメディアです。それは伝達手段であり、情報そのものです。誰かだけの利益のためにあってはいけない、誰もが正しく受け取り理解できなければならないものです。この壮大で終わることのない「食」という情報を実体験を通してどうやって伝えて行くか。新しい視点を持ったクリエーターたちを中心に丁寧にカタチにして行きたいと思います。