- 書名:ごはん ぐるり
- 著者:西加奈子
- 発行所:文藝春秋
- 発行年:2016年
本書巻末に、自分の古い友人で元コピーライターで作詞家であり、2011年に閉じた東京料理タケハーナの店主であった料理家・竹花いち子氏との対談がある。竹花氏はこの本を読んで「東京チャーハン」をつくり著者・西加奈子に供している。
お粥みたいにぷよぷよしたものが好きだということから、パラパラにしたチャーハンにジャッと出汁を入れるこの東京チャーハン。子供のころにラーメン屋さんのチャーハンにひと匙ずつスープをかけて食べた記憶からのメニュー。
つまり、この本はこんな感じの本である。ゆるい感じで、食べ物の「ぐるり」への想いと思い出がいくつもあって、時にはそうだそうだと言葉が出てしまう。本書には次のような話が綴られている。
アルバイト先の賄いで作った「肉じゃがバター」。子供の頃、生では食べられないものばかりのカイロで食べた「卵かけごはん」。『いししんじのごはん日記』で読んだ「ほうれんそうのおしたし」。おいしいとは思わないのに大好きな「機内食」。
お洒落という言葉がないフィンランドのシンプルで「おしゃれな」食卓。朝まで仕込みをした大人のBBQ。特別な魔法をもつ文字で表す料理「壇流クッキング」。NYブルックリンの南アフリカ料理とマンハッタン外れのプエルトリコ料理で味わう人種の坩堝の楽しみ。カイロ時代に出汁を知らずに作った「味噌汁の味」
著者・西加奈子は料理は好きだが「普通」であり、おしゃれとは程遠いものをよく作る。人に供して喜んでもらえると俄然やる気が出て、(色は茶色だが)おいしいものを作りたくなる。向き合い方の話だ。自分でもおいしいものをおいしい!と即座に声に出す。
こんなフワーっとした話の著者から2021年、小説「夜が明ける」が生まれるとは!と思った。
出版にたずさわることから社会に出て、映像も含めた電子メディア、ネットメディア、そして人が集まる店舗もそのひとつとして、さまざまなメディアに関わって来ました。しかしメディアというものは良いものも悪いものも伝達していきます。 そして「食」は最終系で人の原点のメディアだと思います。人と人の間に歴史を伝え、国境や民族を超えた部分を違いも含めて理解することができるのが「食」というメディアです。それは伝達手段であり、情報そのものです。誰かだけの利益のためにあってはいけない、誰もが正しく受け取り理解できなければならないものです。この壮大で終わることのない「食」という情報を実体験を通してどうやって伝えて行くか。新しい視点を持ったクリエーターたちを中心に丁寧にカタチにして行きたいと思います。