2024.01.16

新版 ジョエル・ロブションのすべて

  • 書名:新版 ジョエル・ロブションのすべて
  • 著者:ジョエル・ロブション
  • 訳者:勅使河原加奈子
  • 発行所:誠文堂新光社
  • 発行年:2023年

<新版>とあるのは、2009年(フランスでは2007年)にレシピ集「ジョエル・ロブションのすべて」(武田ランダムハウスジャパン)として刊行され、日本のフランス料理人の必読書となっていたが絶版となっていた。ロブション氏は2018年に亡くなったが、本書は2023年に待望の復刻となったからだ。

800ページを超えるどうやってもキッチンでは傍に置いて使えない分厚いこの本の、本体と別冊が入ったBOXにはこう書いてある。

「ゆで卵の茹で方から、極上フレンチメニューまで、世界最高峰のシェフが、そのノウハウのすべてを公開、調理のイロハや調理道具、調理用語をイラストとともにまとめた別冊付き。<古典から名作まで700レシピを収録>」

ちなみにこれはプロの料理人用ではなく、フランスでは<家庭料理の本>である。

自分で早々に購入しているのだが「この本はどういう人が買うのだろう」と思う。シェフの卵?いや卵だけではないだろう。個人的には、少なくても食べることも含めてフランス料理に関わろうとする人は持っていて損はないように思う。また絶版になるというこもあるので。

まず、伝えたいのは完成した料理写真が1枚もないということだ。撮影や印刷代をケチったわけではない。ロブション氏によれば「料理写真は時代感が出てしまうから、写真があることで時代の流れと共にその料理が古く感じられてしまう恐れがある(料理王国より)」ということらしい。

たしかに古いレシピ本を買うと、その当時は最高におしゃれで高級感が漂っていたであろう料理写真が、食欲も料理欲も湧かせてくれないものになっていることが多い。ロブション氏の料理がこの先どうなっていけば良いかという思いが感じられる。

まあ、この写真のない本は想像力も食い意地もない人向けではない。構成や料理名を見て涎が出たりお腹が鳴る人には、料理を作らなくてもとてつもなく楽しい本であることは確かだ。

もちろん、実践派には最高の虎の巻である。なにせ、ソースやヴィネグレット、フォンやブイヨン、そしてデザートやパティスリーを網羅しているのだから。

構成(目次)としては、フォンとソース、スープ、オードヴル、魚、肉、野菜、パスタや米、そしてデザートとコース料理の流れに従ったカテゴリー別になっている。

料理内容は、ビストロメニューにもよくあり、M.O.F.(フランス国家最優秀職人章)のファイナルでも課題となっていたウフ=ゆで卵、目玉焼きなどの卵料理から、あらゆる生地(粉もの)のレシピ。地方料理、フランスでは誰もが知っている定番で王道のクラシックな料理。

そして、「家庭料理の本」とはいえ、11カ国13都市の同氏の名前を冠した『ジョエル・ロブション』のレストランで提供されている料理、ソース、付け合わせ(ガルニチュール)までが掲載されている。

本書はロブション氏のオリジナルやフランス王道料理の独自のアレンジレシピが多く掲載されているように思うかもしれないが、この本では、定番のフランス料理の起源から作り方の基本のそのまた基本を知ることができる。ネットでどんなレシピ情報でも探せる時代だが、アレンジがされていたりしてレシピのオリジンには意外とたどり着かないのだ。

また、ロブション氏の「料理の良し悪しは、食材の旬、その選び方、扱い方で大きく変わる」という言葉通り、書くカテゴリーにおいて食材の歴史的背景や、文化的なエピソードがていねいにわかりやすく綴られている。

そういう意味では、本のタイトル「ジョエル・ロブションのすべて」とは「20世紀のフランス料理のすべて」だと言ってもいいかもしれない。フランス料理の全部が綺麗に詰め込まれている。

カテゴリー別に構成され、まずは俯瞰で食材を捉える
フランスと日本の食材のサイズ感の違いを丁寧に記載

ちょっと面白いのは全体の中でページの割き方からロブション氏のジャガイモへの偏愛⁉︎が見受けられることだ。ジャガイモ好きとしてはうれしい限りだ。ジャガイモの使い分け方も詳細に説明されている。カナッペ、ポタージュ、サラダ、ア・ラ・ヴァプール、グラタン、オーブン、フリット、リソレ、ラグー、ピュレに分けられ、ジャガイモの種類は13種もある。ただ、日本では入手できないジャガイモが多いので「悔しい」のだが。

ジャガイモの細かな使い分けこそロブション料理の繊細さに繋がるのだろう
簡潔ではあるが調理法がわかりやすい文章。レシピ文の手本と言える。
別冊の冒頭では食生活のバランスの重要性を説く

余談だが、2000年から2009年までフランスで放送された、ロブション氏のMCで著名な料理人を含むゲストが登場し様々な料理を紹介する人気料理番組『Bon appétit bien sûr』の日本での放送を時おり観ていた。

ジョルジュ・ブラン、 エリック・フレション、 ジル・グジョン、 ギイ・サヴォア、 エレーヌ・ダローズ、 マーク・ヴェラといった三つ星シェフも多く登場したが、これも一般家庭向けだった。

この番組を観ていて、いつも画面越しに突っ込んんでいたのが、ここで半ポンドとか言ってバターを投入するので、「なんだそのバターの量は!」「おいおい、追いバターかよ」だったが、本書では極端な量のバターを使った料理がないのだ。たしかにあれはゲストシェフたちのレシピではあったのだが。

ジョエルロブションは一日に250gバターを食べてたって自伝に書いてあったと記憶しているので、思い込みか、はたまた2000年代に入って考えを改めてレシピを作り直したのか。

古典的なフランス料理は大量に使っていたはずだが。フランスのバター不足のせいか?そのうち調べてみようと思う。

ロブション氏の人気料理番組『Bon appétit bien sûr』2000年〜2009年
WRITER Joji Itaya

出版にたずさわることから社会に出て、映像も含めた電子メディア、ネットメディア、そして人が集まる店舗もそのひとつとして、さまざまなメディアに関わって来ました。しかしメディアというものは良いものも悪いものも伝達していきます。 そして「食」は最終系で人の原点のメディアだと思います。人と人の間に歴史を伝え、国境や民族を超えた部分を違いも含めて理解することができるのが「食」というメディアです。それは伝達手段であり、情報そのものです。誰かだけの利益のためにあってはいけない、誰もが正しく受け取り理解できなければならないものです。この壮大で終わることのない「食」という情報を実体験を通してどうやって伝えて行くか。新しい視点を持ったクリエーターたちを中心に丁寧にカタチにして行きたいと思います。