2024.05.19

増淵敏之『おにぎりと日本人』
【私の食のオススメ本】

  • 書名:おにぎりと日本人
  • 著者:増淵敏之
  • 発行所:洋泉社
  • 発行年:2017年

ここ数年、おにぎりを知ることは重要なことだと思い始めていた。遠い昔から始まり続いてきた日本食の原点があるように思えたからだ。まあ、米文化と言ってしまえばそうなんだけど、はて?それだけか?

おにぎり本が数多く出されているが、いくつか入手した中の一冊が本書だ。関係者が喜びそうな<おにぎり礼賛>本が多いなかで、おにぎりを地方性を代表するコンテンツとして仮定し、分析しているところに惹かれた。

著者、増淵敏之は法政大学大学院教授であり、コンテンツツーリズムの専門家で同学会の会長でもある。コンテンツツーリズムとは、コンテンツ(作品)を通して醸成された地域の物語性を、観光資源として活用すること。

著者は、2016年に『きょうのごはんは“マンガ飯”』という、不朽の名作から最新の話題作まで、漫画の中にある料理の再現レシピの本を出版している。そこでコンテンツ作品と食の関係に関心を持ったという。そのなかで「おにぎり」に最も注目していると前文で語っている。

「おにぎりには、日本の歴史と風土が凝縮されている!」そして「日本人のソウルフード、おにぎりの謎に迫る!」というのが本書だ。「おにぎりには、形、具材など地方性が豊かで日本特有の食文化の発露だ」と著者はいう。

本書を読む前の、個人的な興味の一つとして、おにぎりはいつから携行食から生活食に変わっていったかということがあった。つまり、いつ、なぜ、お金を出して買うようになったかである。おにぎり専門店が急激に増えている昨今、その行き先を知りたいということでもある。

そして寿司でさえ箸で食べることが多くなった日本で、唯一に近い「手食い」ものとして堂々と残っているのはなぜか?どこに刷り込まれてきたのだろう?というところだ。

答えはもちろん、載っている。

本書の紹介から外れるが、ごはん文化研究会編『おにぎり読本』という本のなかで、ウエスティンホテル東京の料理長が、朝食ビュッフェで外国人に人気のおにぎりの具材は<明太子×辛子高菜の掛け合わせ>だと取材に答えている。これは海外展開を積極的にしたラーメン店『一風堂』のせいではないかと想像する。

炊いたご飯は和食であるが、おにぎりの具材は梅干し、鮭、佃煮などの定番からカレー味、タルタル、スパムなど和から遠慮なく離れ拡大中である。2013年、いちはやく海外展開したのはアメリカ、ニュージャージーに店舗を出した『おむすび 権兵衛』だと思う。その後、ニューヨーク、パリにも出店している。

つまり、炊いたご飯と塩というベース、それに海苔、これらの味覚に対し、外国人の舌が適応してきたということではないだろうか?

さて、本書の目次には興味惹かれるものが多い。本書の紹介として個人的に最初に目についた項目を紹介がわりに列挙しておく。

・聖なるおにぎり
・おにぎりの栄養学的合理性
・海苔巻きおにぎりの登場
・庶民にとってのおにぎり
・陸軍型おにぎりと海軍型おにぎり
・レーションとしてのおにぎりの変化
・おにぎりと宗教性
・おにぎりは携帯に向かない
・おにぎりは買って食べるものになった
・人と人を結ぶ「おにぎり」
・形状と地域性
・「おむすびと」いう呼称
・なぜツナマヨおにぎりは成功したか
・コンビニがおにぎりの食感を変えた
・ふんわり仕上げる

これは項目の3分の1程度だが、コンテンツツーリズムの専門家らしい視点での掘り下げ部分が多く、役に立ち、楽しめる一冊だ。

三角形以外は太鼓型、俵形、球形と地域性の出るおにぎりの形
現地では貧しい食べ物いうイメージが強い韓国のチュモクパプが日本のおにぎりの原型か
WRITER Joji Itaya

出版にたずさわることから社会に出て、映像も含めた電子メディア、ネットメディア、そして人が集まる店舗もそのひとつとして、さまざまなメディアに関わって来ました。しかしメディアというものは良いものも悪いものも伝達していきます。 そして「食」は最終系で人の原点のメディアだと思います。人と人の間に歴史を伝え、国境や民族を超えた部分を違いも含めて理解することができるのが「食」というメディアです。それは伝達手段であり、情報そのものです。誰かだけの利益のためにあってはいけない、誰もが正しく受け取り理解できなければならないものです。この壮大で終わることのない「食」という情報を実体験を通してどうやって伝えて行くか。新しい視点を持ったクリエーターたちを中心に丁寧にカタチにして行きたいと思います。