- 書名:おにぎり読本
〜なぜ、「ふんわり」、「やわらかい」が流行るのか?〜 - 編:ごはん文化研究会
- 発行所:講談社
- 発行年:2023年
おにぎりは「いのち玉」と自身の絵本作品の裏表紙に書いたのは、料理家でいまや絵本作家の高山なおみだ。子どもたちが、自分ひとりでもできるようにと思って『おにぎりをつくる』という絵本を作った。
そして、阿古真理は本書『おにぎり読本』のなかで「(粟や稗などの雑穀を食べていた日本人にとって)白米で作ったおにぎりは近代までは憧れ」であったが「最近では出来立てのおにぎりを食べられる専門店が続々と誕生」し「洋風の具材が入ったものなど、食の多様化の波を潜り抜けて進化」しているとし、それは「おにぎりがある意味で、日本の食文化を象徴しているから」だと言う。
海外でのブームもあり、食に関わる仕事をする日本人として、おにぎりを知ることは重要なことではないかと思い始めていて、手始めに入手した数冊の本のうちの一冊が本書だ。
なにせ、移住してきた石川県には能登半島があり、中能登町に日本最古のおにぎりが出土された「杉谷チャノバタケ遺跡」があるのだ。弥生時代中期のものと思われる、炭化したちまき型のおにぎりのようなものが発見されたのは1987年。学習には歴史的ロマンも後押ししてくれる。
最初に入手したのは増淵敏之著『おにぎりと日本人』という本だ。おにぎりはいつ生まれたのか?という話からおにぎりの歴史と変遷といったものがまとめられている。対して本書はおにぎり大好き!人に向けておにぎりの分類、作り方、具材のこと、塩のこと、専門店や商品も調査されていて、おにぎりブームの到来によって生まれた「おにぎり推し」本と言える。
おにぎりを学び、もっとおいしいおにぎりを探求したい!これがこの本の趣旨なのだ。
本文中にはおにぎり名鑑として全国30の評判・人気の専門店のおにぎりが賞味、検証されている。『大塚 ぼんご』『千駄木 おにぎりカフェ利さく』『広島市 ごちそうおむすび善七』『高崎市 えんむすび』『札幌市 名代にぎりめし』『藤沢市 KUGENUMA RICE』『大阪 おにぎり竜』など、新旧の店がならぶ。
先だって何十年ぶりかに訪れた東京でいちばん古い『おにぎり浅草 宿六』も本書に掲載されている(以前はまだ2代目おかみさんの時代。建て替え前の一軒家。現在は3代目、息子の三浦洋介さんが継がれている)。
口中調味で食べるのはアジアのなかでも日本人だけだと思っていたが、ここには世界中からやってくる。その典型のようなおにぎりを食べに。
並ぶと聞いて、昼時早めに行ったのだが自分の前には英語で会話する中国系の若い女性4人組がすでに並んでいた。とにかく外国人が多い。しかし、順番でオーダーを聞き、握って提供したら次の組というスタイルだ。外国人たちはその情報を事前に得ているのか、笑顔でじっと待つ。3代目は愛想もよく英語メニューと簡単な英語でコミュニケーションもとる。
花街や遊郭の入り口あたりにはよくおにぎり屋さんがあると聞いた。ここも千束の吉原(新吉原)だ。そのことについては別でふれようと思う。
おにぎり名鑑で特筆すべき検証内容は、おにぎりDATAだ。おにぎり専門店や提供している店の紹介のほかに、データとして具材・ご飯・のり・形・握りが具体的に写真で解説されている。中にはカレー専門店のおにぎりやウエスティンホテル東京の朝食ビュッフェのおにぎりも紹介されている。
ウエスティンホテルの料理長によると、一番人気は「明太子×辛子高菜」の掛け合わせで2番は「マグロの佃煮」3番は「鮭」だという。
甘辛い佃煮は理解されないかと思っていたが、先入観というものはいかに意味がないことか。そういう意味でもおにぎりでも食べながら本書を読んでおくのが良いかもしれない。
「ONIGIRI」は、RAMENのように(カップヌードルやインスタントラーメンは別として』世界を席巻するだろうか。海外のラーメンの高価格感から考えると、専門店はもちろん、外国の食卓までしれっと入り込んでしまうのはむしろ「おにぎり」のほうなのではないか。スープや専門の調味料がなくても、誰もが米と塩だけでつくれるのだから。そのうち、おにぎりが日本生まれだと思われなくなる日が来るかもしれない、と想像している。
そうなる前に、おにぎりにおける「日本人のソウルフード」感を検証しておきたい。つまり、おにぎりってなんだ?という答えを見つけたいのだ。
これがソウルフード!ということにこだわっているわけではないが、このままではきっと、コンビニに並んでいる日本独自のものがソウルフードという定義になってしまう気もする。その定義でおにぎりの位置付けするのはかわいそうな気もするから。
出版にたずさわることから社会に出て、映像も含めた電子メディア、ネットメディア、そして人が集まる店舗もそのひとつとして、さまざまなメディアに関わって来ました。しかしメディアというものは良いものも悪いものも伝達していきます。 そして「食」は最終系で人の原点のメディアだと思います。人と人の間に歴史を伝え、国境や民族を超えた部分を違いも含めて理解することができるのが「食」というメディアです。それは伝達手段であり、情報そのものです。誰かだけの利益のためにあってはいけない、誰もが正しく受け取り理解できなければならないものです。この壮大で終わることのない「食」という情報を実体験を通してどうやって伝えて行くか。新しい視点を持ったクリエーターたちを中心に丁寧にカタチにして行きたいと思います。