夏の和食の旬を巡る対談は、トマト、アワビ、タコ、鮎、氷と、想定なしのコース料理のような広がりを見せてまいり参りましたが、今回で夏の食材についてはいったん完結。折しも7月1日、日本は国際捕鯨委員会(IWC)を脱退し商業捕鯨を開始しました。 デザートと言うには少々苦味のある濃厚トークで締めくくりです。
髙木:海外でいろいろ仕事していると、使えない食材というのが出てきます。
いま、フカヒレはどんどんNGなところが増えてますよね。チェーン店、たとえばリッツカールトンとか有名なホテルチェーンはだいたいフカヒレNGですよ。
板谷:その理由はなんなんですか?
髙木:フカヒレ獲ってるやつは残酷な獲り方をしてるっていう。
板谷:ああ。なるほど。ヒレ以外捨てちゃうとか。聞いてはいましたけど、エスカレ ートしてるんですね。 メキシコ湾なんかはそうですね。ただ、日本の水揚げ量トップの気仙沼は身も肉もぜんぶ 使ってるんですよね。
髙木:アメリカのアンコウ漁では、頭捨ててますからね。
海に上がった時点で。尻尾の方しか使わないんで。あの方がもったいないですよね。
三石:アメリカ、昔からもったいないことしてますからね(笑)。
クジラだって、油だけ欲しいからあとはいらねえ、つって。日本人がクジラ全部使いますからね。ヒゲも時計のぜんまいにするし。
髙木:もちろん環境保護とかっていう観点はいろんなものの見方があるんですけど、自給率とかね。意外と知られてないのは、アメリカのマーケット、市場。そういうところでの鮮魚の廃棄率って、日本の倍とまでは言わないけどかなり高いはず。
日本ではそれを売り切ったり、加工したりするんですけど、アメリカじゃ売れなかったらはい、じゃあ以上、みたいな。
三石:無駄にしないという意味では(魚肉を)すり身にした日本人はは偉かったですね。すり身にすると保ちますからね。
髙木:築地から豊洲に移ったうちの出入りの魚屋が、ノースカロライナで仕事してたんですけど、廃棄率なんて尋常じゃないですよと。それを棚に上げてなんだということは言ってますよね。
あとは、食料自給率って、日本は40%とか言うじゃないですか。
必ず、<カロリーベース>って書いてあるんですよ。
ここがポイントで、カロリーベースって、輸入してくるものと、自分のところで作るものの、カロリーで決められるんですよ。
三石:そりゃあ肉のほうがカロリー高いに決まってるじゃないですか。
髙木:あったりまえじゃないですか。お米とか、ほうれん草とか一生懸命作ったって、牛肉1キロのほうがぜったいカロリー高いですからね。
それを、金額ベースだと、7割超えてるんですよね、確か。
だから数字は合っていたとしても、統計の見せ方っていい加減ですね。
三石:統計は恣意的にできるんですよ。
板谷:そうですよね。結論ありきで都合のいいようにもっていける。
髙木:水産資源の保護とか、今いろいろあるんですよね。サスティナビリティをどうのこうのって、大事なことなんですけど。だけど、どういうデータをベースにその人たちは言ってんだってことをきちっとしないといけない。じゃないと単なる流行りになっちゃうよね。
宮田:こないだ食材卸の人と話してて、そんなような話になって「そんなもんいなくなってから考えりゃいい」って言ってましたよ。ずいぶん乱暴だけど(笑)。
一同:(笑)
髙木:でも、クジラとかだって、頭いいからダメだって言うんですかね。
三石:ねえ。哺乳類だから、イルカも賢いからみたいな。
板谷︰さっきのフカヒレのサメは魚類だけどNG。ヒレを切られて海に捨てられ、泳げず沈 む様子が映像で流れたのが影響大きかった。
絶滅危機感と可哀想感が一緒になっている。
髙木:でも、クジラのイワシとかの食い方とかエグいんですよ本当に。
おかげでイワシの値段なんか大変なもんですよ。
思いっきり反対してんのはアメリカとオーストラリアでしょ。牛肉輸出してるから。
髙木:アラスカのエスキモーは、ちゃんと伝統的な漁法でクジラいまだに獲ってますからね。
三石:エスキモーはしょうがない、みたいなね。
板谷:調べたら、アメリカやカナダは伝統的な生業として先住民の権利として認められて いるみたいですね。アラスカ州のイヌイットとか先住民はホッキョククジラを捕獲していいって。
髙木:一度、ニューヨークのスリースターレストランの二番手クラスがうち来たときに黙ってクジラ出したことあるけど。何も言わずにね。
クジラにコロ(皮と皮下脂肪)ってあるじゃないですか。あれのアクを抜いて下処理して、白味噌仕立てで椀物にして出したんです。
そしたら、「これはフォアグラみたいだ!溶けるぞ!」。
「これは何?ちょっと考えてるんだ、魚じゃない、肉だな、いや肉じゃない、魚かな、どっちなんだ!」と言ってたら、みんな表情が固まって気づいたんですね。
こっそりと、3人のうち2人が言ったのは、日本人があれほど食べてるってことを聞いてた。だから一回食べるチャンスがあればいいなと思ってたと。
日本人が食べるんだから絶対うまいに違いないと思ってたと。で、どうだった?て聞いたら、「美味かった」と。
宮田:「人間だ」って言ってみたらどうでしたかね(笑)
髙木:ジョークが通じないと怖いですからね(笑)。 まあ、だから先入観でもの見るとだめなんですよね。
髙木:だから先入観でもの見るとだめなんですよね。
三石:坂口安吾も『ラムネ氏のこと』で書いてますよね。いろいろ食あたりを起こして死んでも、諦めないでフグ食い続けた奴らは偉いって。
カニとか食ったやつ、正直飢えてたとしか思えない。あんなグロテスクな生き物食ったやつ、絶対クモもトライしたことあるはずだもん(笑)。
初めてアレを食ったやつを尊敬する
髙木:最初に食ったやつを尊敬するっていえばやっぱり、ホヤとナマコですかね。
あれをどうやって食べようという気分になったのか。
三石:あれ、相当飢えてたか、子供がふざけてやり始めて、親がこれ意外といけるじゃん、になったのか。
髙木:今でこそあれ食べ物だってわかるけど、あれ持ってかじるやついないですよね。
三石:沖縄でナマコ持ったら汁ビューって出すんです。
ナマコ持ってるだけで、うわぁ〜あの人たちナニ持ってるの!気持ち悪い!って女の子たち去っていくぐらいのキモさがありますからね。
ホヤとかヤバイですよ、あのクリーチャー感たるや。
ホヤはちなみに、伊達政宗の大好物ですけどね。家臣たちにうまいから絶対残すなよ、とか言うぐらい、ホヤ大好き。
板谷:三陸とかで、朝ぶらぶらっとしてたら、漁師が「食うか?」ってぴゅってやってそのまま食べさせてくれて。もうあれ食ったら、東京のお酢がいっぱい入ったやつは食えないですよね。
宮田:おれ、すげえ抵抗あったのが、フジツボ。
フジツボ食ったことある?
あの密集系がダメなの。でも、あれをゴソっと獲ってきて焼いて出してくれる店があるんですけど、味、カニなんですよ。
髙木:えっ。
宮田:なか、蟹爪みたいになってるんです。食べるとカニの肉の味がするんですよ。
美味いんだけど、見た目…
あれも最初に食ったやつ偉いと思って。
三石:もう海で食べるもんなくて、じゃあもうこれでも食うか、という状況下でのチャレンジが最初ですよね絶対(笑)
板谷:だって、めんどくさいもんね、食うの。
三石:空腹って偉い。
髙木:ゲテモノって言葉は良くないですけど、やっぱりそれでトライしたから食事っていうか、食材として残ってるんですよね。
食うに困ったのか、ふざけて食ったのか、いろいろあるでしょうけど。
三石:結果うまけりゃいいじゃん、と。
髙木:以前、沖縄で食べたウミヘビのスープってあれも衝撃でしたけどね。
これ、美味いんですよ。ぶつで切ったやつ。鱗みたいのついてて、それはえっという感じでしたけど。
面白い言い方だったのは、ウミヘビっていうのは魚しか食わないと。だから鰹節みたいな味がするんだと。
三石:へえ〜、しました?
髙木:言われてみればしないわけでもない、っていう。
でも、そんなクセはなかったし、ちょっとあっさりしたスッポンみたいな部分もあったり、ちょっと血合いの入った鰹節みたいなところもあったり。
三石:あっさりしたスッポンって、スッポンの良さ失ってる気もしますね(笑)
髙木:まぁ、ちょっと水入れすぎたスッポン(笑)
三石:ペリーなんかは日本食、ぜんぜん口に合わなかったみたいで、まだ台湾とか琉球のほうが美味いもん食わせる、って言ってますね。
彼の舌に合ったのは琉球料理だったみたいですよ。
板谷:調味料の問題なのかな?
三石:動物性蛋白質がやっぱり好きなんでしょうね。決め手は肉だったんすかね。
髙木:今は日本ではスッポンは普通に食べるじゃないですか。昔のフレンチはウミガメとか食べてましたからね。今はご法度ですけど。あれは大航海時代からですよね?貴重なタンパク源で。
今ウミガメ食べたってなったらえらいことになります。
三石:ワシントン条約で。
髙木:今の若いフレンチのシェフなんかは、昔ウミガメ使ってたんですよ、って言っても知らないですね。「本当ですかぁ〜?ウミガメですかぁ〜?」って。
あれでコンソメとか取ってたんですよね。すっごい美味しいです。
髙木:スッポンなんかも、うちに蓮根収めてくれてる農家がいて、蓮根って沼地じゃないですか。
そこの農家は完全無農薬なんですよ。土壌改良もして。するとそこでスッポンとか、ザリガニとかいろんなものが棲み着いてるわけですよ。
蓮根掘ってる時に、あ、いた、ってスッポン採ってええい!とかって投げたのを時々もらうんですけど、今、たいていの料理屋で使ってるスッポンはほぼ養殖じゃないかな。
エンペラっていうゼラチン質の硬さ加減たるや、天然のやつは噛み切れないですよ。
だから養殖のは美味しくなるようにできてるんですよ、人間が食べて。
一同:納得
農業生産法人の活動もスタートし、A_RESTAURANTの開業を目前にしているOPENSAUCEのメンバーにとって食資源に関 する考え方は日々の重要なテーマです。
金沢・片町スナックパンチからお送りした和食の夏の旬を知る対談は、日本の食農、そして漁についても展開し、お酒の力も借りて様々な話題を雑食でお届けしました。次回をお楽しみに!