2021.06.26

バーマンTakeshitaの「いい水って何よ?」

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水

A_RESTAURANT
ノンアルコールペアリング番外編

今回はいつものノンアルコールペアリングに関する記事ではありません。

緊急事態宣言やまん延防止等重点措置による営業時間短縮や酒類の提供自粛など、飲食業のあり方そのものの変革が求められる事態となり、全国の飲食店が試行錯誤しながら自分たちの存在意義や表現を模索している状態です。

A_RESTAURANTもこの期間に、この期間だからこそ出来ることは何かないだろうかと考え、新しい試みをはじめました。
新しい試みとは、徹底的に”水”にこだわるということ───

A_RESTAURANTに設置されている水質調整のための浄水装置PROTEUS

開業当初より、A_RESTAURANTでは水を食材のひとつと捉え、店内入口に6種類のフィルターを通し異なる水を作る浄水器が設置されている。バーカウンターには世界トップクラスの浄水器であるシーガルフォー。厨房には酸性水生成器があったりと、食材や調理方法に合わせ最適な水を使用してきた。

調理やドリンク作成において、最適な水をチョイスしてきたけれど、ふと気付いてしまった。食中の飲料水は浄水しか飲んでないよねってことに。
流し込む。リセットさせて次の料理へ切り替えるという意味では浄水があれば十分かもしれない。もしくは、よりさっぱりさせたいなどの意図で、海外のガス入りのミネラルウォーターをなんとなく頼むくらい。

正直なところ、自分がどこかで食事する時も、カフェでペリエ飲んでればお洒落な感じするし、レストランでは飲み慣れない海外のミネラルウォーター頼んどけばいい所で食事してる感あるよね…くらいにしか思っていなかった。水だって世界中にいろんな種類があり、当然味わいが違うのに。

ノンアルコールペアリングで、ドリンクとしてのattack(ひと口目の強さ)でなく、flavor(香り)やsustain(支える・引き延ばす)を意識して、時にはものすごく繊細なドリンクも作ってきたというのに、食中のお水に対して意識持ってないってマズい気がしてきた。料理に合わせて飲む水も変えれば何か変化があるはず。

そこで、実際にコースの各料理と数種類の水を用意して、食べくらべならぬ飲みくらべをしてみた。
結果、ペアリングのように料理を支え広がるものや、逆に全く合わないものが出てきてかなりの衝撃を受けた。と同時に、水を変えるだけでこんなに食事の雰囲気が変わる興味深いものが、こんなに身近にあったのかとワクワクした。

料理人とバーマンの謂わば感覚で各料理に水を合わせてみたけれど、なぜこの水なのか。理論に基づいた根拠を明確にしなければならない。水について勉強し始めると、どんどん沼にハマって行った。

水は透明なのに底が見えない…材料に関して、ここの産地は水が良いから~という話や、お酒の蒸留・醸造で良い水を求めて創業者がこの地を選んだ~のような逸話を目にするけれども、そもそもいい水って何よ

僕は勉強のできる子ではないので、論文のようなものを読んでも眠くなるだけで全く頭に入ってこない。ここは専門家達のお言葉を参考にするしかない。

僕がとっつきやすいジャンルの専門家。日本酒やビールの醸造家、ウイスキーの蒸留家のwebサイトやブログなど読み漁るとかなりのヒントを得られた。それと同時にこの人たちはこんなところまで考えて、水を厳選したり調整してものづくりしているのかと感動した。

バーマン、水と対話する

調べて多少理解できた水の化学的要素を羅列してもいまいちピンとこないので、実際のコース料理と一緒に合わせた水についてまとめてみた。

Intro : 昆布森の牡蠣 アヒ・アマリージョ

[ water : 軟水 / 弱酸性 / 温泉水 ]

牡蠣の料理には温泉水特有の硫黄っぽい香りと苦味を合わせた。苦味のあるヒダ部分にはもちろん合うし、プリッとしたミルキーな実の部分を強調してくれる。
この水はカリウムが豊富で、水同様カリウムを多く含む昆布に同調しフレーバーに厚みを持たせてくれる。

金沢A_RESTAURANTの生牡蠣

Bridge : スズキ フカヒレ

[ water : 軟水/中性/湧水 ]

雪山から溶岩層を通り、天然のフィルターで濾過されたクリアな湧水。鉱物の少ないこのクリアな水で、繊細な白身魚の味わいや様々な要素が絡み合う複雑なスープを一歩引いて料理全体を支えるイメージ。

逆を言えば、アルカリ性の水は魚の生臭さを引き上げてしまうのでチョイスしない方が良さそう。

金沢A_RESTAURANTのスズキのフカヒレスープ

Chorus : 牛ヒレ

[ water : 硬水 / 弱酸性 / 鉱水 ]

カルシウムが豊富な炭酸水をチョイス。カルシウムはタンパク質を固め落ち着かせる性質がある点と、炭酸による酸味がリフレッシュしてくれる。硬度が高くパリっとした印象なので、ガストロパック(減圧調理)にかけたシャキシャキな野菜ともお似合いの水。

金沢A_RESTAURANTの牛ヒレ

Solo : 鮨 食べくらべ

[ water : 軟水 / 中性 / RO水(純水)]

アルカリ水と酸性水の異なる水で炊いたシャリを食べくらべる、コースの中でも一番水のこだわりを感じられるパート。ここでは逆浸透膜で濾過し水分子以外のほぼ全ての不純物を除去したピュアウォーター、RO水を飲んでいただく。

混じりっけなしのRO水はデンプンの丸みを優しく包み込んでくれる。シャリの違いをより感じていただくため、口に運ぶ順番としては、先にアルカリ水シャリの鮨を召し上がっていただき、ガリを表現したノンアルコールドリンクでネタのフレーバーをリセット。その後にRO水で舌の上をニュートラルな状態へ戻した上で酸性水シャリの鮨を召し上がっていただく。

どのような違いがあるかはレストランで実際に体感していただきたい。

※鮨のネタは当日の仕入れ状況により異なります

Outro : エルダーフラワー

[ water : 軟水 / アルカリ性 / 鉱水 ]

ペアリングドリンクのアルコール/ノンアルコール共に、ココナッツとブラウンカルダモンをメインに自家蒸留したフレーバーウォーターを使用し、エルダーフラワーの香りを引き立てている。

アルカリ性の水はタンニンを溶かしやすく、樹皮系の香りを持ち上げる。デザート、ペアリング、水の三重奏により食後の余韻を引き延ばす。

金沢A_RESTAURANTのエルダーフラワー

──「家に着くまでが遠足です」ならぬ、家に着くまでがA_RESTAURANTのコースです──

今回、水を意識し料理の楽しみ方を広げる、新しい食体験をひとつの形として提案できたと思う。水の性質を掴み料理に合わせたアプローチをすることは、ある意味、他のものを削ぎ落とし、研ぎ澄まされた究極のノンアルコールペアリングかもしれない。

そこに色味や香りなど卓上を華やかに演出するモクテルを組み合わせ、生産者・料理人・バーマンの想いを乗せたコース全体のストーリーを表現できれば、食べるという生理的な行為が一歩先の新たな体験に繋がるだろう。

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まだまだ勉強不足で、いい水って何よ?の問いには明確な答えは出ていません。そもそも答えがあるのかもわかりません。
これから更に研究・実験を重ね、より良い食事、より新しい食体験をご提案できるよう日々進化していきます。

元音響エンジニアのバーマン。
外食はコンサートと同じ。料理やドリンク、空間やサービスで楽しいショーを体験する時間。ステージを彩るドリンクで、ショーの一翼を担う。

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