2026.06.30

吉田太郎「土が変わるとお腹も変わる」【私の食のオススメ本】

  • 書名:「土が変わるとお腹も変わる〜土壌微生物と有機農法」
  • 著者:吉田太郎
  • 発行所:築地書館
  • 発行年:2022年

著者、吉田太郎氏は1961年生まれ。筑波大学自然学類卒。同大学院地球科学研究科中退。大学では地質学を専攻。東京都及び長野県の農業関係行政職員、長野県農業大学校教授、有機農業推進担当職員(〜2022年3月)。

主な著作には『シン・オーガニック(2024年・農山漁村文化協会)』『社会実装するオーガニック(2025年築地書館)』『コロナ後の食と農(2020年築地書館)』がある。

長く土と有機農法に携わってきた人だ。ただし、毎日毎日有機で農業をやってきた人ではない。

本書がテーマにしているのは『菌根菌』のことである。こいつが土に存在しなくなるとヤバいぞという、有機農法こそが土を救い、世界の食を救い、その土を育った作物を食べることで腸活になって正常なお腹になっていくという話である(めちゃくちゃザックリで申し訳ない)。

『菌根菌(きんこんきん)』とは、植物の根に共生して土壌中の養分や水分を供給する代わりに、植物から光合成でつくられた栄養分(糖類)をもらって生きる有益な、カビやキノコの仲間である菌類の総称だ。

発行者による本書の情報にはこうある。

「日本の農地の25%を有機農業に、それ以外の全農地も化学肥料や農薬を削減する—-日本でも生物多様性の激減と気候危機に適応した農政転換がおこっている。とはいえ、有機農業面積はわずか0.5%。病害虫や雑草が多い日本では、ゲノム編集技術やドローン、AIといったハイテク技術の実装がなければ不可能だというのが世間一般の見解だ。

実際には欧米はもちろん、日本以上に高温多湿なインドや台湾などでも有機農業は広まっている。そのカギは、4億年かけて植物と共進化してきた真菌、草本と6000万年共進化してきたウシなどの偶蹄類にある。

本書は、最先端の研究を紹介しながら、土壌と微生物、食べ物、そして気候変動との深い関係性を根底から問いかける。世界各地で取り組まれる菌根菌を活かした不耕起自然農法や自然放牧での畜産の実践事例は、『一度失われた表土再生には何百年もかかる。化学肥料や有機堆肥がなければ農業はできない』という通説を見事に覆していく(注:あくまでも発行者の見解)。

腸活や健康を考えれば有機農産物はコスパがいい。川下の消費者意識がカギと、国をあげて有機学校給食を推進するデンマーク。森林、海、農地の循環と地域経済再生のコアに土づくりを据える大分県臼杵市。篤農家が在野で開発した農法を横展開して、流通や消費を総合的にガバナンスすればどうなるか。『有機』こそが、日本の食べ物を担う、あたりまえの農業であることがわかるだろう」と。

そして本書は次のような内容で、発行者が言うとおり<通説を覆し>、読者をマインド・リセットに向かわせる。

● 有機農業で洪水と旱魃を防ぐ〜ヨーロッパの洪水とオーストラリアの緑野を結ぶ土壌とは
● 土が健康なら無肥料で農業ができる〜根からの液体カーボンと菌根菌ネットワークの共生進化
● 草本と偶蹄類の共進化が生み出した肥沃な土壌〜野生動物の行動パターンを模倣して肉牛を飼育しながら地球温暖化を防ぐ
● 表土は根から放出される液体カーボンで作られる〜化学窒素肥料と菌根菌
● 土壌カーボン・スポンジで地球を冷やす〜緑・土壌・微生物による水循環の再生が地球を蘇生させる
● 生物はプチ飢餓が常態〜土壌にカーボンを再び戻すことが大気中の二酸化炭素を減らす
● 消費を変えれば腸も健全化し土壌と地球も再生する

<マインド・リセットに向かわせる>と書いたのは、本書の冒頭で著者が「オーガニック給食実現の鍵は関係者のマインド・リセット」と言っているからである。思うに、これは給食だけでなくオーガニック化を目指すべてのことに通じるのだろう。

なるほど、と思うところが多いのだが、エビデンスのところが、〇〇博士の研究に書かれているとか、正式な分析はないのだがこういう事実がある、といったことが多く、もう少し書き方があったのではないかとも思ったりするのだ。

「無農薬とか無肥料って、とても良さそうだけど、無理なんじゃないかな? 持続可能性には大事だけど・・・」という役人から現場の人のマインド・リセットをするには何かたらないと感じてしまうのだ。

消費者の頭だけがリセットされると、現実との壁は広がるだけかもしれない。内容を理解すればするほど、もやもやは増えるというジレンマに陥る。

子供たちのお腹はまもってやりたいのだが。


読んでもらいたいRIFF「食のおすすめ本」
⚪︎藤原辰史『食べるとは どういうことか』
⚪︎図解でわかる 14歳から知る『食べ物と人類の1万年史』

WRITER Joji Itaya

出版にたずさわることから社会に出て、映像も含めた電子メディア、ネットメディア、そして人が集まる店舗もそのひとつとして、さまざまなメディアに関わって来ました。しかしメディアというものは良いものも悪いものも伝達していきます。 そして「食」は最終系で人の原点のメディアだと思います。人と人の間に歴史を伝え、国境や民族を超えた部分を違いも含めて理解することができるのが「食」というメディアです。それは伝達手段であり、情報そのものです。誰かだけの利益のためにあってはいけない、誰もが正しく受け取り理解できなければならないものです。この壮大で終わることのない「食」という情報を実体験を通してどうやって伝えて行くか。新しい視点を持ったクリエーターたちを中心に丁寧にカタチにして行きたいと思います。