- 書名:珈琲が呼ぶ
- 著者:片岡義男
- 発行所:光文社
- 発行年:2018年
現在、電子出版の老舗VOYAGERによって小説家でエッセイストである片岡義男の全著作電子化(片岡義男.com)が進んでいる。
学生時代からライターでも活躍していたが、1974年『スローなブギにしてくれ』で鮮烈に小説家デビューした1939年生まれの片岡義男。1908年、明治生まれのモダニストで評論家の植草甚一とともに70年代サブカルチャーを牽引する雑誌「宝島」の草創期を支えた。
宝島は当時の多くの若者や出版社に影響を与えた。この雑誌を出したJICC出版は紆余曲折の末、モノ付き本を大ヒットさせた現・宝島社である。
電子出版が進んでいるのに、厚いペーパーバックのような本を入手したか。それはコーヒーとコーヒーにまつわるエッセイ集だから。片岡義男とコーヒーといえば、タブレットが似合うカフェではなくコーヒーの香りとタバコの煙が染み込んだ喫茶店で読む物体としての「本」だと思い込んでしまったから。そんな感じで読もうと思ったのだ。
ちなみに、タイトルや帯には「珈琲」という漢字が使われているが文中は「コーヒー」である。文中で漢字を使うと嗜好品としての飲み物色が強くなるからだろうか?
ヨーロッパのタンゴ『小さな喫茶店』の話。侯孝賢(ホウ・シャオシェン)が日本で撮った映画『珈琲時光』の主人公・陽子が銀座のコーヒー店『ダット』でミルクを注文する話。ボブ・ディランのOne more cup of coffeeにあるfore I goという念押しの言葉について言及したり、コーヒー・バッグという言葉は英語かどうかを悩みながらハワイのコナ・コーヒーに話が流れていったり。
本書には45ほどのエッセイが収められている。すべてが音楽や映画や小説、そして日常がコーヒーによって呼び起こされる話だ。
ある意味、知らなくても考えなくてもいい話が詰まっている。しかし、われわれは、どうでもいいことから刺激をうけて成長していることを忘れてはいけない。その刺激は眠っていた細胞を目覚めさせる。コーヒーの役目と少し似ている。
出版にたずさわることから社会に出て、映像も含めた電子メディア、ネットメディア、そして人が集まる店舗もそのひとつとして、さまざまなメディアに関わって来ました。しかしメディアというものは良いものも悪いものも伝達していきます。 そして「食」は最終系で人の原点のメディアだと思います。人と人の間に歴史を伝え、国境や民族を超えた部分を違いも含めて理解することができるのが「食」というメディアです。それは伝達手段であり、情報そのものです。誰かだけの利益のためにあってはいけない、誰もが正しく受け取り理解できなければならないものです。この壮大で終わることのない「食」という情報を実体験を通してどうやって伝えて行くか。新しい視点を持ったクリエーターたちを中心に丁寧にカタチにして行きたいと思います。