2021.01.04

桉田優子
食べつなぐレシピ
【私の食のオススメ本】

  • 書名:食べつなぐレシピ
  • 著者:桉田優子
  • 発行所:家の光協会
  • 発行年:2019年

著者が店主の代々木上原「桉田餃子」には数回訪れたことがある。餃子の皮に小麦粉と全粒ハトムギが入っていたり、具材が大根だったり、まるで中国の奥地の街道沿いにある食堂のようだと思っていた。何かで読んだが、当人もそんなイメージで作ったらしい餃子を中心にした店だった。

いま人気の料理評論家などは自身のインスタに投稿するほどのファンであったりするのだが、料理サイトの書き込みコメントを見るとその素朴なメニューは賛否両論だ。そこまで必要かと思うほど丁寧に「これは餃子ではない」「美味しいと思えない」理由を長文で投稿する人がいる。しかし読み進むと不味さに怒り心頭ということよりは「食には関心あるよアピール」の人たちの「理解できない」できないモヤモヤが長文足らしめたのではないかと思うのだ。

この本を読む(見る)と著者の食の立ち位置が見えてくるように思う。この本は表紙に「年収200万円でも楽しく暮らすヒントがいっぱい」とあり、「漬ける、干す、蒸すで上手に使い切る」というコピーが添えられている。つまりこれは一般的な食材を残すところなく「美味しく」食べ切りながら生き延びる自炊方法を解いた本である。それも切った野菜の残りをその辺に転がして乾燥させてしまうという考えを実践する著者によるものだ。

著者は先の著作「冷蔵庫いらずのレシピ」を刊行し、そのためにJICAによってインフラの整っていないペルー、アマゾンの地域開発プロジェクトに招聘され、現地に1回に3週間、これまでに6回以上通い続けている。そこで芋を中心とした食生活をしていても男は屈強な身体を持ち、誰もが茹でるだけなので調理に参加でき、味付けは銘々好みでいいので作る人の腕が問われず、誰とでも食卓を一緒にできるということを知った。

アマゾンにもあった、この「食べつなぐ」という感覚が、一度は冷蔵庫を捨てた著者の中心にあるのだが、一つの食材が古くなっていく過程をも楽しんで美味しく食べようとするレシピは一読の価値があり、実践するのは割と安易である。そして読後に「桉田餃子」を訪れればその面白さに気づくかもしれない。もちろん値段は中国奥地やアマゾンとは違うけれど。

RIFFの梁宝璋氏のインタビュー記事で「餃子は季節の食材を使う」ということを知ったが、著者の活動は「食の視点」の偏りということや「世界の食の共通点と差異」も常に意識しなければいけないことを教えてくれる。

WRITER Joji Itaya

出版にたずさわることから社会に出て、映像も含めた電子メディア、ネットメディア、そして人が集まる店舗もそのひとつとして、さまざまなメディアに関わって来ました。しかしメディアというものは良いものも悪いものも伝達していきます。 そして「食」は最終系で人の原点のメディアだと思います。人と人の間に歴史を伝え、国境や民族を超えた部分を違いも含めて理解することができるのが「食」というメディアです。それは伝達手段であり、情報そのものです。誰かだけの利益のためにあってはいけない、誰もが正しく受け取り理解できなければならないものです。この壮大で終わることのない「食」という情報を実体験を通してどうやって伝えて行くか。新しい視点を持ったクリエーターたちを中心に丁寧にカタチにして行きたいと思います。