2020.12.27

もの食う話【私の食のオススメ本】

  • 書名:もの食う話
  • 著者:文藝春秋編
  • 発行所:文春文庫
  • 発行年:2015年

この本は堀口大学、森鴎外、内田百閒、福田恒存、向田邦子から赤瀬川源平、水木しげるなど30人以上の日本を代表する明治大正昭和の作家のエッセイや短編がコースメニューとして章に仕立てられて編集されている。1990年に文春文庫として刊行されたものの増補新装版。

この本は編集者の力によってできた秀逸なレストランメニューだ。中には食通として有名な作家も多いが、その人たちのグルメエッセイをまとめたものではない。

人間の食欲とは何か。読み(食べ)すすむうちに1日三度の食事を漫然とやり過ごしていたことに気づく。そして食が性やいのちと密接に連絡をとっていることにも気づく。そうなるように仕向けられた編集者の策略で綿密に構成されたものだ。

この編集者の力はおそろしい。

ちなみに食前酒の章の最初には「奥さん あなたの口紅が 私の唇を赤くした その場かぎりの それはシャンパンの泡ですね」という堀口大學の詩がでてくる。ほー、と思っていると続けて大岡昇平が、衝動的だと思っていた若い兵士が空腹に耐えていたのに対し、理性的克己的中年兵士がフィリピン人の捕虜の食事まで奪い取っていた、という戦争中の前線での目撃談があり、食欲と平静の分析がはじまる。

メニューには他に夢野久作、永井荷風、邱永漢、澁澤龍彦、椎名麟三、長谷川伸、萩原朔太郎、武田泰淳、武田百合子、色川武大、吉行淳之介、岡本かの子、筒井康隆、吉田健一、山村暮鳥、永井龍男、小泉八雲、古川緑波、森田たま、西条八十、森茉莉、近藤紘一、直木三十五、吉田一穂、中島敦がならぶ。

この本の構成(メニュー)はバラエティに富んでいて楽しい食卓のようだ。その料理人たちを事前に知らなくても良いのだと思う。十分楽しめるし、ここでは残しても良いのだ。

唯一の漫画は水木しげるの「悪魔くん」で、セイロン産のヒトダマを食べる話である。

WRITER Joji Itaya

出版にたずさわることから社会に出て、映像も含めた電子メディア、ネットメディア、そして人が集まる店舗もそのひとつとして、さまざまなメディアに関わって来ました。しかしメディアというものは良いものも悪いものも伝達していきます。 そして「食」は最終系で人の原点のメディアだと思います。人と人の間に歴史を伝え、国境や民族を超えた部分を違いも含めて理解することができるのが「食」というメディアです。それは伝達手段であり、情報そのものです。誰かだけの利益のためにあってはいけない、誰もが正しく受け取り理解できなければならないものです。この壮大で終わることのない「食」という情報を実体験を通してどうやって伝えて行くか。新しい視点を持ったクリエーターたちを中心に丁寧にカタチにして行きたいと思います。