A_RESTAURANTは5月20日、ゲストソムリエにワインペアリングの先駆者であり日本ソムリエ協会副会長の石田博氏を迎え、スペシャル・ペアリング・ディナーイベント 『A “Hiroshi Ishida” RESTAURANT 』を開催しました。
※記事後半にペアリングの詳細があります。
今回が金沢初の開催となった石田氏とのコラボレーションによるペアリングディナー。
テーマは『ペアリングのエキスパート石田博とともに味わうKANAZAWA』。金沢の旬の食材にフォーカスし、日本料理とその技法を主軸として作り上げるA_RESTAURANT ならではの一皿一皿。その料理に寄り添い、味覚を楽しませる、石田氏がセレクトしベストの状態でサービスされるワインペアリング。
コースの始まりに、石田博氏はテーブルのゲストへ次のように話し、これから始まるペアリング・ディナーへの期待をさらに高めました。
石田「ご来場の皆様の中で、今回のペアリングワインがすべて赤ワインであることに驚かれた方も少なくないと思います。
昨今の料理は世界的に見ても素材重視で、比較的シンプルな調理法が多く、ペアリングコースの中での白ワインの比率がどうしても高くなってしまいます。しかし、お召し上がりになるお客様にとっても白ワインが多いということは単調に感じるペアリングとなってしまうので、いかに赤ワインを入れて抑揚を出していくかが、ペアリングを考える際のソムリエのポイントでもあります。
実は今回のメニューをA_RESTAURANT の今シェフからいただいた時に、最初の一皿目に赤ワインが合うと思いました。そして次の一皿を見ると、「また赤ワインがいけるな」と。それ以降の料理も赤ワインを合わせることが出来るメニューが続いたこともあり、「これは全部赤ワインでいこう」ということになりました。
A_RESTAURANTの料理はジャンルレスではありますが、日本料理とその技法がベースになっています。そのようなコース料理に、すべて赤ワインで合わせるという、他ではあまり無いユニークなペアリングをお楽しみいただけるのではないかと思っております。」
石川、金沢の旬の食材を中心とした料理とワインのペアリングディナーコースは、開催までに数度の打ち合わせと試食試飲を重ね、最終的なメニューとワインが選ばれました。食事をされたゲストの方々からは、料理とワインがサービスされる度に、これまでに体験したことのないペアリングの妙に感嘆の声が漏れました。
今回の企画から進行を務めた、ソムリエでA_RESTAURANTマネージャーの垣内大樹は、振り返って次のように話しています。
垣内「打ち合わせで、石田さんにセレクトいただいたペアリングワインのリストを拝見し、すべて赤ワインであることに衝撃を受けました。最初のグラスはシャンパーニュにしたいということで、これも赤に寄せてロゼ・ド・セニエを選んでいます。
金沢は海の幸が豊富で、特にコース料理では魚介中心になることが多いので、” どのタイミングでいかに赤ワインを入れ込むかがポイント ” ということは、私もこれまで念頭に置いてやってきたことでしたが、 まさかすべて赤ワインとは・・・。これまでのペアリングの概念を覆していただきました。
今回、石田ソムリエによるワインサービスを間近で見ることができました。そして、分刻みでの温度や状態の管理、デキャンタージュのタイミングや方法のご教示を頂いたことは、私のソムリエ人生において忘れることが出来ない貴重な体験となりました。」
垣内ソムリエだけではなく、レストランチームにとっても、今後のクリエーションにつながる貴重な経験になったことは確かでしょう。
料理とサービスされたその時点でのワインの味を文字によって伝えることは不可能かもしれません。RIFFでは、多くのワインファン、ペアリングにご興味のある方々の参考になることを願って、料理の食材とペアリングにおけるセレクトポイントを公開しました。
Food and Wine Pairing
【ガス海老】ガス海老, レモンシート, レバーペースト, キャビア, ビワ, パクチーオイル, ライムゼスト
Wine:
CHRISTOPHE MIGNON, Champagne ADN de Meunier Rosé de Saignée Extra Brut NV
一杯目のペアリングワインということで、シャンパーニュをセレクトしました。この料理一皿に盛り付けられた要素を全て一緒に食べていただくことで、ロゼ・ド・セニエの力強さやエレガンスさと調和し、口中で快適に感じるペアリングとしました。
【鮎】鮎, 水茄子, 茗荷, 蓼オイル, 蓼酢, からし水菜
Wine:
CH. MOULIN SAINT-GEORGES, Saint-Emilion Grand Cru 2019
鮎は基本的には肝の味わいの要素が一番強く感じられます。そこで、その肝の味わいをより増長させるため、白ワインではなく赤ワインを選びました。赤ワインの中でも、肝の味わいの強さに負けないようなタンニンがある程度感じられるもの。さらに、魚の肝もレバーと同じく鉄分質が多いのでメルロー品種が適していると考え、ボルドー地方サンテミリオンに着目して選びました。メルローでもあまり肉厚なタイプは魚の味わい自体を壊してしまうので、カベルネ・フランがブレンドされたエレガントなワインを選びました。また、蓼の青みを伴う香りと、カベルネ・フランがもたらす爽やかな印象が調和します。
【治部煮】 鴨肉, クレソン, すだれ麩, トマト, トリュフ, 山椒
Wine:
RAÚL PÉREZ, La Vizcaína La Vitoriana 2016
スペインの土着ブドウ品種メンシアには、鉄分のような味わいを感じることが出来ます。
フルーツのジューシーさ、シラーを思わせるようなスパイシーさの雰囲気もあるということで、鴨肉に合わせました。メンシアには実山椒のようなスパイシーな香りも感じられるので、鴨の治部煮に使われている山椒のアクセントとも共通します。今回こちらの料理に使われたトマトもポイントで、このワイン自体にもトマトやトマトリーフのような香りが感じられます。ですから、こちらのペアリングでは、ワインが持っている味覚要素・香り要素と、料理が持つ風味の要素を同調させるように合わせていきました。
【花ズッキーニ】 鰹出汁, 花ズッキーニ, 山菜, 姫竹, 豚脂, 大根, 白エビしんじょう, ロングペッパー, 白胡椒
Wine:
FESSINA, Erse Etna Rosso 2020
お椀の出汁に使用される鰹には動物性の食材に多く含まれているイノシン酸が豊富に含まれており、動物的な要素を感じます。そのため、出汁の持つ味わいや旨味の要素を引き出すという点では、赤ワインが合うと思っています。タンニンがしっかりとした強めの赤ワインが意外にも合うことが多いのですが、今回は海老しんじょうや山菜が入っていて全体的に繊細なお椀なので、そこに勝ち過ぎないようにと、タンニンが穏やかなエトナ・ロッソを選びました。
エトナ・ロッソにした理由は他にもあり、この料理のアクセントとしてロングペッパーや白胡椒が使われていることがあります。オリエンタルな香りを感じさせる多国籍で複雑な料理です。エトナ・ロッソが作られるシチリア島は色々な国の文化が入り混じるミックスカルチャーな地域であり、多国籍な料理に多国籍な産地のワインを合わせるというストーリー性もポイントでした。
また、シチリア島には「ラルド」と呼ばれる豚の脂を使用した伝統料理が多く存在します。このお椀の一皿に使われていた「豚の脂」にも着目し、シチリア島のワインを選びました。
【のどぐろ】のどぐろ, 金沢蓮根, XO醬, ティムットペッパー, 木の芽
Wine:
GARAGE WINE, Bagual Vineyard Caliboro Maule Valley Garnacha Field Blend 2016
のどぐろに赤ワインを合わせるポイントとしては、やはり脂がしっかりと乗った身の質にあります。料理には旨味を感じるXO醬がソースと共に添えられて、木の芽オイルの清涼感もアクセントとなり、赤ワインにも感じられる要素が多くありました。このワインは樹齢50年〜100年の古木のブドウを使用しているので、のどぐろの脂に負けないようなふくよかさと複雑性を持ったものに仕上がっています。ワインにはピリッとしたスパイスの要素も感じられ、ティムットペッパー、XO醬、木の芽などの要素を持った料理の雰囲気に合うポイントでした。
【能登牛】 能登牛, しいたけ, 玉ねぎとウニのソース, ヤングコーン, 椎茸醤油, いわしガルム, 山ワサビ、干し椎茸と玉ねぎとレモンの煮物
【新生姜】 新生姜と赤鶏炊き込み, 玉子エスプーマ, ガリ, トマトとパプリカの燻製パウダー
Wine:
RÉSONANCE, Résonance Vineyard Pinot Noir 2015
今回のコースでは、世界中の様々な国のワインをペアリングとしてお楽しみいただきたいということと、葡萄品種が被らないようにしたいと考えました。
そのため、この能登牛の料理にはオレゴンのピノ・ノワールを選びました。ソースに使われた醤油の風味と、薪で焼くことによる、しっとりとした優しい火の入りにピノ・ノワールの持つ方向性が一致するように感じました。椎茸や玉ねぎなど、落ち着いた食材の要素を感じたので、クラシックなスタイルということで、フランス ブルゴーニュ地方の名門「ルイ・ジャド」がアメリカ オレゴンで手掛けるピノ・ノワールを選びました。かつてルイ・ジャドを率いた伝説的なワインメーカーであるジャック・ラルディエール氏がオレゴンの地で造るワインです。
コース最後のワインとして、料理との相性以上に 「ワインの飲み手として ” これが出てきたら嬉しい ” と思えるもの」を選びました。ペアリングの場合に意識するところでもあり、「すべてのペアリングに相性ばかりを求め過ぎない」ということも大切だと思っています。
その後はお食事ですが、ピノ・ノワールはお米にも相性が良く、炊き込みには鶏肉も使われているので、そのままこちらの赤ワインをお楽しみいただくことにしました。
参加ゲストには後日、ペアリングの内容がメールで送付されました。
※ペアリングについての解説は、石田博氏とのワイン選定時の会話をもとにA_RESTAURANTソムリエの垣内大樹が補足し、まとめたものです。
石田 博 氏プロフィール/レストラン ローブ (L’aube) ソムリエ 合同会社 Soupless 代表 社団法⼈ ⽇本ソムリエ協会 副会⻑
長きに渡り、仕事やプライベートで世界各国を旅する中で様々な国の料理やワインに触れ、料理にワインを合わせる「ペアリング」の考えを深める。
「ワインには様々な楽しみ方があり、その一つが食事と合わせることである」との考えを持ち、まだ日本国内でワインと料理のペアリングに馴染みがなかった時代からペアリングの可能性を追求し、日本でのワインペアリングの礎を築き上げた。
石田博氏の本『ソムリエが出会った16の極上ペアリング』の紹介記事はこちら
text : Joji Itaya