2023.03.15

クリトモのさかな道
【私の食のオススメ本】

  • 書名:クリトモのさかな道
    〜築地がおしえてくれた魚の楽しみ方
  • 著者:栗原 友
  • 発行所:朝日新聞出版
  • 発行年:2016年

本書は『朝日新聞デジタル&W』で2013年から3年半、著者が築地で働きながら連載した<魚のこと>を一冊にまとめたものだ。様々な魚との出会いを日記的に解説していて、タイトルに日付があるのだがこれは取り上げた魚の旬の期間だ。

読んでいて、こんなに取り上げた魚を毎回食べたくなる本に出会ったことがない。

著者、栗原 友は料理研究家・栗原はるみの長女である。同じく3歳下の弟は料理研究家で栗原 心平。父親は60年代から70年代にかけてテレビ、ラジオでキャスターなどで活躍した故・栗原玲児。グルメであった。専業主婦だった妻はるみを料理家として社会に出した人こそ栗原 友の父玲児だった。

“おいしんぼ”一家で育った著者だが、服飾の学校をでて広告の世界に入った。その後フリーライターやファッション広報の仕事をしていた。衣食住コンシェルジェを経て料理の世界へ。

料理に傾倒していったのがわかるエピソードが、外国人とのコミュニケーションが苦手な著者が留学先で一番通ったのが学校よりスーパーマーケットだったという話。マーケットでは食材を通して会話ができたのだろう。

だが、著者が料理の世界に入って7年目、唯一苦手なことが「魚をさばけない、旬がわからない」ということで一念発起、魚修行のために築地場外の水産会社に勤めることにしたのだ。著者は毎日の魚との出会いでどんどん魚にハマっていくのだが、読者である自分も同時にその魅力に引き込まれていく。

あー、この季節になったら絶対この魚を食べるぞ、と思わせるのだ。サブタイトルにある「築地が教えてくれた魚の楽しみ方」を著者、栗原 友と共有できるのがこの本だ。

「仲買さんが<岩牡蠣のカキフライが贅沢でおいしい>って言ってたけれど、私も同感!小粒の真牡蠣を2個合わせて大きなカキフライをつくるより、岩牡蠣で作った濃厚ミルキーフライに、玉ねぎをきかせた自家製タルタルソースとキャベツの千切りを一緒にほおばるのって最強、いや、超絶おいしんですっ!」

プロなのにただの食いしん坊のような、こんな屈託のない文章が逆にとてもリアルなのだ。登場するのは以下の魚たち(一部)。それぞれのエピソードも楽しい。

珍しい生の銀だら 旬のニシンでのパスタ イイダコの相性 太刀魚「本種」 サクラマスサケ カラホをオスメスで 初めてのたかべ すっぽん活け締め 岩牡蠣 秋からの ハタハタ鍋 の旬は冬 高級魚クエ ほうぼう ホッキ貝のカレー あんこう フグのすき焼き 金目鯛のしゃぶしゃぶ 桃の節句の 

ぎんぽう スーパー深海魚メヌケ ホタルイカ コハダ 春の時鮭 千葉の 高級魚アラ コムツのフリット 金華鯖 イタリア風イカの塩辛 カワハギ 生シシャモ 明石の ・・・

WRITER Joji Itaya

出版にたずさわることから社会に出て、映像も含めた電子メディア、ネットメディア、そして人が集まる店舗もそのひとつとして、さまざまなメディアに関わって来ました。しかしメディアというものは良いものも悪いものも伝達していきます。 そして「食」は最終系で人の原点のメディアだと思います。人と人の間に歴史を伝え、国境や民族を超えた部分を違いも含めて理解することができるのが「食」というメディアです。それは伝達手段であり、情報そのものです。誰かだけの利益のためにあってはいけない、誰もが正しく受け取り理解できなければならないものです。この壮大で終わることのない「食」という情報を実体験を通してどうやって伝えて行くか。新しい視点を持ったクリエーターたちを中心に丁寧にカタチにして行きたいと思います。