2020.02.01

旬と和食と日本人
冬編 ③ 鱈

鱈のイラスト

OPENSAUCEのメンバー、料理人・髙木慎一朗と、歴史学者・三石晃生による対談。冬の片町、スナック・パンチ。「旬」の話は、お酒も手伝い、尽きることなく続いております。

ふぐカブと大根からの流れで今日のお題は鱈。
日常的に口にしているあの魚から、意外なところまで話題が広がります。

タラバガニの名前はどこから?

RIFF編集部:というところで、鱈の話にいきましょう。

髙木:鱈といえばタラバガニ。

三石:タラバガニって蟹じゃない。アイツ、蟹と名乗りながらヤドカリですからね。騙されちゃいけない。

髙木:でも、鱈がいるところにいるからでしょ。

三石:そう。

髙木:でも、鱈がいるところっていったら、蟹は海底にいるのに鱈…はおかしくない?

三石:居心地のいい条件が同じなんですかねえ。タラバガニで面白い話があって、鱈がいる場所にいるからタラバガニってつけたのに、あと足がもう一対あっ”たら”蟹だったのに、「あっ”たらば”蟹だったのに」、の「たらば蟹」って誤解する人も昔はいたらしい。

髙木:タラレバの蟹?!

三石:鱈の場所が命名の由来なのに、あっ”たらば”蟹だったのに、でタラバ。ユニークでいいですよね。
そもそも正しい由来なんてあるのかしらん。名前の由来なんてそもそもが根拠不明ですもの。

実は私、タラバガニ好きじゃないです。茹でても味噌が固まらないでドロドロなのも気味が悪い。

ズワイガニって、茹でたら味噌も美味しく食えるじゃないですか。

タラバガニってあの味噌茹でてもトロットロのまんま。しかも味噌が脚のほうに行っちゃうとマズくなる。

だからタラバガニ買うのに胴体買うのは●●(自主規制)だよね。あんなのいらない(編集部注:これは個人の意見です)。

髙木:だから脚だけ売ってるんだ!(ママに)ハイボールくださーい。

三石:タラバは生で食って美味くない。加熱してなんぼのもの。

髙木:鱈ってさ、最近は少ないけど、昔は能登で一本釣りやってたんです。

一本釣りでも延縄でも、必ずエサはイカなんですね、能登は。

スルメイカの切り身をちょっと大きめにつけて、放り込んで、鱈釣れるんですけど、たまたまエサがついたまま上がってくるやつがあるんですけど、それを漁師はツマミにして船の上で飲んでたっていう。

三石:へえ~!

髙木:今でいう海洋深層水?のあたりでさんざん塩で揉まれたやつ。

だって水深100メートルとか150メートルですからね。

けっこう塩きついんですけど、たしかにあれで飲めっていったらイケるな、と。

でも、気持ちとしては鱈の食い残しか?と思って。

ちょっと微妙な気分ですよね。

あれ「イサブ」っていうんです。能登ではイサブでみんな飲んでた。

漁師さんから聴いて、イサブってなんですか?って言ったら、イサブはイサブだって。


RIFF編集部:「餌部」からきてるみたい。やっぱり食い残し。

三石:やっぱりイカ食うやつって美味いですよね。

中野:ザリガニ釣りと同じですか。

三石:ザリガニはあれ挟んでるだけで、食べる前に釣られちゃってる(笑)

髙木:大間のマグロも、あれイカ食うっていう。

三石:その前はイワシを食ってるから、時期によって違うんです。

この時期のマグロは一番美味いんですよね、イカ食ってるから。

髙木:だから大間のマグロのシーズンって9月から。

イカに寄ってくるわけ、マグロが。

能登マグロも、夏場来る理由は、イカ狙ってくるから。

三石:やっぱりイカ食うと味が美味くなるね。

マグロの旬はここだと思ってるんです。

赤身食べてもぜんぜん違うもんね、やっぱ。

髙木:じゃあなんで養殖のマグロはイカをエサにしないの。

三石:コスパじゃないですか。

悪しきコスパ。

イカ食わせる実験、オープンソースでしましょうよ。

髙木:それ、うちの弟(銭屋総料理長)喜んでやると思うよ。

宮田:むしろそれで釣ってみたのをやろうよ。

髙木:弟、ノースキャロライナまで行かしてくれって言うよ。

イカをエサにして釣れるのって他になにがあるんだろう。

三石:ザリガニ?

髙木:イカをエサにして釣るって、あと何があるんだろう?

宮田:ザリガニ。

中野:中国でザリガニを養殖してる人って、俺は絶対こんなもん食わん言いますからね。

髙木:タラの「子付け」って料理わかる?

三石:なんですか、それ?

髙木:真鱈料理なんだけど。

三石:スケトウダラじゃない方ですね。子供はマコって呼ぶほうのやつですね。

(ママに向かって)鱈には二種類あるんですよ。二種類ってかもっといっぱいあるんですけど。

髙木:明太子、あれはスケトウダラで、いわゆるタラコは真鱈の子。

で、金沢に「子付け」っていう料理があって、鱈の身を昆布締めにするんですよ。

京都みたいに柵で昆布締めじゃなくて、切って昆布に漬けて、糸引くくらいまで。

それで、鱈のマコを、酒と醤油でパラパラに炒って、それにまぶしてお醤油つけて食べる。

まぁ、古臭い仕事ですけど。

三石:美味しいですか。

髙木:卵じたいは旨味ないんですよ。やっぱり食感がちょっと変わってくるんで面白いなと思いますね。

ところが、ご存知のように鱈の身って、虫いるじゃないですか。あれで結構、うちの先代は何度もヒットしてますね。

三石:鱈の身には寄生虫がつくんですよ。アニサキスが。

宮田:今年、二回やってます。

髙木:ふつう、鯖とかのイメージあるじゃない。

イカにもいるからね。

ママ:でもホタルイカとかって…

髙木:あんなん生で食うとか信じられない。

ママ:そうそう、生で食べちゃだめだっていうのはその意味だって聞きました。

髙木:一回、カウンターで仕事してた時、イカ切ってて、ちょっとヘタをパクっと食べるじゃないですか。そのイカで当たって一瞬で崩れ落ちたことあります。

三石:速いなー!(笑)

髙木:鯖で当たって一番ショックだったのは、父方の祖母で当時94歳の祖母が鯖寿司大好きで、料理人になりたての頃に自分で鯖寿司作っておばあちゃんとこ持ってってたんですけど。「ばあちゃん、食べてよ」って言ったら、「おーおー、」ってむしゃむしゃ食べて、ほぼ一本近く94歳が食べて。最後二切れあったからお前も一切れ食べろって言われて、その一切れが当たったっていう。

ママ:大当たり~(笑)

三石:引き運が強いですね(笑)

三石:さて鱈の話に戻してと。えーと、ヨーロッパの歴史って鱈の歴史ですからね。

髙木:ヨーロッパって白子食わないですね。

三石:あれ全部、干物にしちゃうから!保存食でしか考えてないですね。

RIFF編集部:ポルトガルとか、バカラオって言って鱈の干したの食べますね。150種類くらい料理があるようです。

髙木:トマトで煮るやつとかだよね。

三石:そうそう、スペインもそうだし、バスク地方の一番の名産は鱈の塩漬けです。タンパク源。鱈の塩漬けをヨーロッパ中に売った莫大な経済力で独立を保ち続けていた。

髙木:でも、面白いね。南仏って地中海に面してるから魚いっぱいあるのに、どうして塩鱈使う必要があるんだろね。

三石:ヨーロッパの歴史って、鱈を追っかける歴史ともいえます。

バイキングやってきたのもニシンを追っかけて、そのあと鱈漁に移行してというものだったし。

大航海時代なんかも、鱈を追っかけて、グリーンランド行って、カナダ行って、新大陸みつけたのも、もともとは鱈を追っかけた結果なんですよ。
ハンザ同盟もタラ市場で莫大な利益を稼いでいましたしね。

髙木:へえー。大航海時代って、ウミガメスープとか普通に食ってたでしょ。

今、フランス人に君らウミガメ使ってただって言うと、知らないって言うんだ、若い連中。

三石:えー!うちらの伝統じゃないと言うんですか。

髙木:そんなことできるわけないだろって。いやフランス人やってたじゃんって言ったら、いやいや何言うんだよって(笑)

三石:だって、エスコフィエ※のここにレシピに書いてあるだろ、みたいな。(笑)
※Georges Auguste Escoffier, 1846-1935 19世紀フランス料理の創始者。料理の考案、 レシピ集の著述などによってフランス料理の大衆化と革新に貢献した。牛ヒレ肉のロッシーニ風などが有名。

現代の中国人は熊を食べない?

中野(銭屋):中国の熊と一緒ですね。今、中国の若い人は熊食べれない。

国の保護の動物になってしまったんで、扱ったらだめなんです。

唯一入ってたのが日本から輸出されたものなんですけど、日本もそういうのがだめになりつつあって。

今の大半の中国人って、熊の手は食べたことないんです。

三石:熊の手は別としても、中国人も欲しがるような食べ物っていっぱい日本にある。

髙木:あとなに?

三石:中国人が喜ぶものっていえば、干フカヒレ、干アワビ、干ナマコとか。あれは江戸時代には「俵物」っていって北海道で獲ったものを干して、清朝中国に高級食材として輸出して日本は外貨を稼いでいます。

宮田:七曲り(金沢市)の猟師さんの息子さんが、朝仕留めたから、新鮮なうちに持って行きたいんだけどって、こんな(獲った)写真が送られてきて。

三石:(スマホを覗き込んで)うわ。これでは食欲は湧かない(笑)

髙木:これでありがとうとは言えないですよね。

宮田:こんなもらっても、うちのキッチンはたぶんやったことないですよって言ったら今度はこうやって捌くっていうの送ってきて(笑)。

髙木:確かに骨に沿ったらそういう入れ方になりますけど。

七曲の人たち、みんな食ってるんですか。

宮田:食ってますよ。それで、土曜か日曜で受け取る人が会社にはいなくて、違う日に熊の脚、受け取っておいてくれて言って。冷凍してます。

宮田:あと、身も(冷凍して)あります。

ママ:そう、すっごい新鮮なやつを生で持ってきてくれたんだけど、やっぱり渡すの数日後になっちゃうて言ってたら、じゃあ冷凍のほうがいいよって。

三石:血が回るかどうかが肉の味が決まるから、川の近くで仕留めないと。

髙木:上手い人はみんなそうだって言いますね。川で捌いて、中で冷やさないといけない。

三石:水で冷やして、血を流して、肉に血が回らないように。

宮田:前回、熊仕留めた時もいただいたんですけど、その時は、仕留めてきて家の前でブルーシートで解体してたんですって。

その時、たまたま孫が帰ってきてギャン泣きされて。

ママ:泣きますよ、そりゃ(笑)

髙木:東京の有名なイタリア料理の人が、アナグマをもらって、駐車場で捌いてたんです。ブルーシートで囲って。

なんか物音するなって外を見たら、機動隊が囲んでたって(笑)。

三石:機動隊(笑)

髙木:上から見たら、人を捌いてるように見えて。

なんかちょっと気配感じるなってブルーシートからのぞいたら機動隊がぶわーっと。

宮田:熊もいま旬なんじゃないですか?

三石:今は熊は冬眠前だからね。

髙木:本当に、熊捕る連中は、冬眠してるやつを狙うんだって。

冬眠してると全然動かないわけじゃなくて、やっぱり若干動く。それが一番いいらしいです。

食べてすぐ栄養になるわけじゃないですか。そうじゃないと脂乗らないから。

RIFF編集部:面白いけど脱線してきたんで、鱈の話に。

鱈が歴史を作った?

三石:鱈で思いついたのは明太子。明太子の話をしたい!
明太子はスケトウダラの卵。朝鮮半島ではタラを明太、ミョンテという。その子だから明太子っていうのが主流の説になっているんだけど、私はすごく懐疑的。ミョンテが、メンタイという発音に変化するとは思えない。現に韓国では明太子的なものに「明卵漬」というものがあって、ミョンナンジョ、って言ってます。明太子って言ってない。そもそもミョンテは百歩譲ったとして、なんで子だけを「コ」と日本語訓みするのか。
どうもそこら辺を考えても名前の由来として朝鮮半島由来ではないような気がする。

イクラってロシア語で魚卵って意味なんですよ。イクーラ(Икра)。これと同じで、明太子の語源はおそらくロシア語だろうと。

スケトウダラをロシア語でミンタイ(Mинтаи)

っていうんです。

言語学の音韻の法則からいっても、私は明太子はロシア語由来だと思ってます。

髙木:あれ、朝鮮半島って鱈は穫れる?

おかしいなと思うのは、鱈って北の方の魚なのに、なんで博多で明太子なのかなって。

しかも今、明太子なんてほとんどアラスカから来てる。

三石:朝鮮半島東部、日本海あたりで獲れますよ。
特に日露戦争以降は日本の海の覇権が広がっていましたから。

RIFF編集部:日露から太平洋戦争の頃、釜山と下関を結ぶ関釜連絡線で日本に入っていたんですね。韓国でもいまはあまり食べないようですね。元は明卵漬けといってキムチみたいにニンニクとか唐辛子とかで漬け込んだものだったので、辛子明太子は完全に日本のもの。

髙木:鱈じたいで面白いと思うのは、例えばイギリスの料理、フィッシュアンドチップスの魚も鱈じゃないですか。

あの食文化不毛と言われることの多い国で、ずっと食べ続けられてる魚ってすごいなと思って。

三石:あれもう伝統食ですからね。フィッシュアンドチップスたるものはタラじゃなきゃいけないらしい。カレイもあるけれど、タラこそがフィッシュアンドチップス、イギリスの心だとイギリス人の友達に熱弁されたことがある。

英国にちょっと居た時に、大衆紙の…

RIFF編集部:イギリス居たの?

ママ:三石さん、どこにでも居るんだね(笑)

三石:呼ばれたらどこにでも出没するよ(笑)

で、その時にパブのオッサンから教わったのが一番のフィッシュアンドチップスの美味い食べ方は、大衆紙のSUNってあるんですけど、それで包んだやつじゃないとだめだって。

RIFF編集部:東スポみたいなやつだ。

三石:英国版東スポの包み紙で包んだやつじゃないと、フィッシュアンドチップスの美味さが味わえないらしい。

日経新聞はちょっとお高いから、味が出ないんじゃないかな(笑)

髙木:やっぱり真面目な新聞じゃダメなんだね。

RIFF編集部:フィッシュアンドチップスって昔はレストランで出なかった。今は出るようになったけど。というか、どんどん名物店ができてますね。

港の屋台みたいなところで、ボロボロの油で揚げてるイメージがあってんですけどね。

三石:もともとが屋台の、労働者の食べるものですものね。

髙木:あの国で、ずーっと続く伝統食が鱈っていうのが不思議だし、ヨーロッパで、干してまで食うかっていうと。

三石:ヨーロッパだと棒鱈文化ですもんね。

髙木:日本だって棒鱈、やるけどさ。そこまでして食わなきゃならない魚なのかなっていう気がしますけどね。

三石:やっぱ保存食なんですよ。鱈が、棒鱈が無かったら大航海時代って起こらなかったかもしれない。長距離移動に耐えられて、熱い日なんかもあるからそれに耐えられる保存ができなくちゃいけない。

肉も積むんですけどね、最初の方は肉。肉がなくなった航海の途中からは毎日タラ。

髙木:確かに鱈って脂乗ってないから保存しやすいよね。

塩漬けにするにしても、干すにしても。

脂があると干しにくい。

だから、金沢にある「いなだ」っていう鰤の塩干したやつ。知ってます?…

三石:いなだ、知ってます。

髙木:…あれも、何が難しいかっていうと真冬に獲れた鰤で、なるべくでかくて脂が乗ってない鰤を探すのが大変。

三石:確かに(笑)

髙木:脂が乗ってると、干してるうちに脂が浮いてきてそれが酸化して臭くなって、商品価値が下がる。

だから高いんだよ。

三石:伝統食とはマッチしないところが現代にはたくさんありますよね。

髙木:鱈っていうのは不思議だなと思うんです、それに関しては。

ヨーロッパでは普通に食べてて、地中海なんて海の幸があるのに、でもニースとかでは鱈と一緒にトマト煮込んだり、料理はいろいろあるけど。不思議だよね。

三石:まぁ、言ってみれば鱈はこっちの鯛と同じ扱いだと思うんですよね。高級魚みたいな感じで。

これ出せばハッピーだろ?みたいな。魚の王様って言われてますからね。

髙木:でも韓国行くと、鯛よりも石鯛の方が高いんだよね。歯ごたえがあるから。

三石:キムチとかにしやすい。

髙木:だから白身で言うと、ふぐと石鯛と同じような値段。

三石:韓国の人って、歯ごたえのある食感が好きですからね。

髙木:だから「これはいい鯛ですよ」って言うと、「あぁ、鯛か」。

だから、寝かしちゃだめなの。

中野:それは中国も同じかも。クエとか受けが悪い。

ナニ!?この気持ち悪い刺身、って言われて。歯ごたえも無いし。僕らが言う寝かして美味しいというのは向こうの人感じないんで、そもそも。

僕らは良かれと思って例えば二週間寝かして出しても、なにこのべちゃべちゃしたの、旨味も無いって。

僕らが感じる旨味っていうのを感じないんで。

三石:中国は、ピーナッツオイルを刺身にかけますよね。

中野:そう、ニンニク入れるとか、わかりやすいものを使う。

髙木:衝撃だったのは魚の締め方。我々からすると味のない状態になってる。

あれが良しとされる文化ではうち(銭屋)の仕事無理だなと思って。

中野:ガチガチに活かってる魚が美味しいって言われちゃうんです。

三石:タンパク質が分解されてないのに美味しいんだ。アミノ酸少ないのにいいんだ?みたいな。

髙木:日本人の味覚からすれば、味無いじゃんってなっちゃいます。

三石:日本はアミノ酸主義ですものねえ。

RIFF編集部:アミノ酸主義!!


次回は、冬の旬・完結編。
テーマは岩のりです! お楽しみに!