2022.04.06

極選 築地魚河岸三代目
ネットリとろけるマグロの刺身 【私の食のオススメ本】

築地魚河岸三代目 表紙

  • 書名:極選 築地魚河岸三代目 ネットリとろけるマグロの刺身
  • 著者:作:鍋島雅治/九和かずと
  • 発行所:小学館
  • 発行年:2021年 

「旬のものをいつでも?!良いものを安く?!阿呆んだらー!ケッ!!んなもん人類滅亡じゃ!寧ろ滅びろ!!・・・」という過激コメントを居酒屋さんのSNS投稿で目にした。気になったので訪ねてみた。

その本はコンビニで売られている表題の漫画で、過去の連載からまとめたものだった。本を見せてもらいそのページを探すと、それは「山のトラフグ」編にあった。築地市場(豊洲開場以前)に集まる主な登場者がフグ談義を行なっている。関東ではフグといえば冬のもの、と相場が決まっているが、実は8月から秋にかけてのフグはすでに旨くなっている。料理人の一人が夏のフグを出したいと思うのだが築地では手に入らない。そこで談義が始まる。

この「山のトラフグ編」ではアメリカ人研究者が談義中に現れ、海に流される排水の影響の可能性がある天然物に対し、トレーサビリティーの信用度が高い養殖の重要性などを説く(とは言っても最近のアサリ偽装問題もある。考えるとすべて人間の問題ではある)。そして、このまま天然魚を獲り続けると天然魚は絶滅すると実際の数字をもって説明するのである。

後日、腕利き料理人が見た目も味も天然トラフグと思い込んだトラフグを育てる「陸上養殖場」を築地仲間で訪ねると、そこの社長が実は・・・。調べてみたら陸上養殖場はベンチャーとして日本全国に増えつつある(矢野経済研究所よると、国内陸上養殖システム市場(事業者売上ベース)は2018年度50億8,800万円、2023年度は87億6,000万円に拡大の見通し)。

件の居酒屋は若い少し変わった面白い夫婦二人で営まれているのだが、登場するアメリカ人の研究者による「養殖魚をバカにするのは日本人だけ」「中国には凝り固まった天然魚信仰はない」という持論に憤ったための投稿だったようだ。しかし、この研究者の話を読み進むと、天然物が美味しく養殖物は劣るかどうか、というほど単純ではないことも知った。

“他に、表題のマグロ屋ではなく鮮魚売り場で売られるマグロの話や、築地では磯魚(匂いがある。まずい。)として扱われないメジナ(寒グロ)が長崎では驚くほどの美味しさで食されている話があり、面白そうだったのでついその場で同じ本をネット注文してしまった”

味覚による旨味の追求と、旬の美味しさを求めることは一緒でなくてよいのではないか。「おいしさ」というものは残っていくものだろうか。残すことができるのだろうか。それらは環境によって変化していくのではないだろうか。そんなことも考えてしまった。

小さなコマだが、マグロの仲買人が「マグロといえばトロという客も多い」「資源保護の意味でも養殖は重要」「やっぱり天然の味にはかなわない。そのうち本物の本マグロの味が忘れられるのではないかと心配」と漏らすそれぞれに問題を含む言葉が実は重い。

WRITER Joji Itaya

出版にたずさわることから社会に出て、映像も含めた電子メディア、ネットメディア、そして人が集まる店舗もそのひとつとして、さまざまなメディアに関わって来ました。しかしメディアというものは良いものも悪いものも伝達していきます。 そして「食」は最終系で人の原点のメディアだと思います。人と人の間に歴史を伝え、国境や民族を超えた部分を違いも含めて理解することができるのが「食」というメディアです。それは伝達手段であり、情報そのものです。誰かだけの利益のためにあってはいけない、誰もが正しく受け取り理解できなければならないものです。この壮大で終わることのない「食」という情報を実体験を通してどうやって伝えて行くか。新しい視点を持ったクリエーターたちを中心に丁寧にカタチにして行きたいと思います。