トマト、アワビ、鮎をテーマに夏の和食の旬を巡る対談ですが、アワビの天敵、タコの話題を経て、そのタコを冷やす氷の話題へと。 確かに、氷も夏が旬ですよね。涼しげな対談をご賞味ください。(この記事は2019年7月に掲載されました。)
宮田:電気が発明されるまでは冷凍ってのはないんですか。
三石:無いですねー。加賀藩が、有名な氷室を持ってましたけれども。
宮田:じゃあキューブの氷とか、世に言う氷が世に出回ったのはいつ頃なんですか?
三石:幕末からで、明治中頃以降に夏でも氷作れるようになります。氷の話だと、明治が始まったぐらいの夏に福沢諭吉が熱出しちゃって、福沢のとこの塾生みんなが「氷が必要だ!俺たちの科学技術を結集しよう!」て言って、アンモニアを使って氷を作るみたいな話はあるんですけど、実際には氷ができたんだけどひとかけらだけで、「できたー!」って科学実験やって喜んでる間に福沢は勝手に治る、っていう話がある(笑)
髙木:要するに何もしてないのと同じだ。
宮田:氷作り出したのはすごいけどね。
三石:平安時代にも氷室みたいのを作って、清少納言がかき氷みたいな、削った氷の上に甘葛(あまづら)から作ったシロップをかけて食べてます。
新品の金属の器にいれると、上品!って言ってるんで、あの当時からかき氷はあったんですよね。
髙木:清少納言がかき氷食ってたの??
三石:食ってました。シャクシャク。
髙木:すごいねえ。
宮田:そうなんだ。その時から甘い物として。
三石:そうそう、氷には甘いもの、って。
髙木:でもどうやって砕いてたの?氷を。
三石:ねえ。
髙木:食べれるくらいのサイズにするって、結構細かくしないと。
三石:大量にノミで打つとか?
板谷:カンナじゃなくて?
宮田:カンナかもしれないね。
三石:でも当時のカンナは今みたいな形ではなくて槍鉋(やりがんな)って言う鍬みたいな道具なんで、今みたいにフワッフワな氷は無理でしょうねえ。ロックの氷を砕いたやつみたいになるんじゃないかな。
宮田:テクノロジーとともに進化していくと。
三石:技術はもっと上いってるんだから、かき氷ももっと進化のしようがありそうな気が。
板谷:そうだよね。 氷室からお殿様に献上するのに、ものすごいでっかいやつを持ってきて、最後にこのくらいっていう。
三石:このくらいになるだろうっていう計算で。ちなみにそれは加賀藩が将軍に毎年献上していた氷ですけれど、アレは厳密には氷じゃないんです。正確には積雪を地下で貯めておいたものです。雪です。
髙木:加賀藩の氷室って本当はどこまで行ったんですか?江戸まで行ってないでしょう。
三石:いや、これが本当に行ってたようです。江戸の前田家上屋敷の地下に氷室がありますが、献上したのは江戸の氷室のものじゃなく、ちゃんと運んでたみたい。
髙木:それは今の(東京大学の)赤門のあたり?
三石:赤門の。ちなみにアレは加賀藩主が、俺の娘と結婚しろ、と将軍徳川家斉から娘を押し付けられちゃって、そのときに将軍の娘を迎えるにあたって格式に応じるために作らされたものです。ちなみに表門が黒塗りの黒門で、裏門が赤門。アレ、じつは裏門。
江戸時代の食ニーズ
三石:江戸の話になったんで、江戸の話ちょっとしますと、食べ物ってニーズをちゃんと反映してできあがってるんですよね。江戸の人って、とにかく手っ取り早く食べたかったんですよ。いちいち待ってられないっていう職人気質なのもあったし。
男たちが集まって、江戸っていうのは男所帯なんで、さっさと食えるやつ!って。
さっさと食えるっていうのが第一要望なんですよね。
寿司も、今まで<なれ鮨>みたいなタイプだったのが、もう待てない!作る方も売る方もめんどくさい!って話で、その結果、なれ鮨は酸味ですから、だったら、「ご飯に酢入れたほうが早くねえか!?」って展開でご飯の方に酢をいれちゃう。
<早ずし>になって、早ずしが<握り寿司>になってくる。
髙木:でも今の握り寿司のサイズよりも遥かにでかかったんですよね。
三石:遥かにでかいですね。豆腐だって今より四倍から六倍の大きさありますしね。
髙木:でも、修業時代、豆腐屋さんに(修業時代に)行ってた時は、だいたいもう、これぐらいのステンレスの缶に何本、という感じでお願いしてましたけど。
朝、カットして入れてもらうんですけど。カットした端のところ出来たての、あれもらって、生醤油だけかけて食べると美味いんですよ。
あの時に、豆腐ってやっぱり豆でできてるんだなって思いました。市販の豆腐ってあんまり豆の味しないじゃないですか。
なんか間違った作り方…流通もあるんでしょうね。
板谷:今、安いやつは充填豆腐ていって、豆腐じゃないやつですよね。
三石:あれ、ニガリも何も使ってないですからねえ。単に凝固剤で固めちゃって。
(一同ため息)
充填豆腐 : 冷やした豆乳と凝固剤を同時にパックに充填した後、密封し加熱をして固めたもの。冷やした豆乳を使うのは、温かい豆乳では固まりやすくなり、充填しにくいため。一般的な豆腐は冷蔵保存で賞味期限が数日程度だが、充填豆腐は長期保存と大量生産が可能。
キーンと冷やす氷の話題は、江戸前の伝統、早く食べる握り寿司や、豆腐についての話題にまで至りました。
次回は、再び鮎について。前回、語りきれなかった鮎の意外な生態などについて!