2022.11.23

A_RESTAURANT Imaginative liquid ( Mocktails ) October . 2022

Pairing要素を前提にしつつ、料理や使われている素材などをフックに、産地や風土、歴史や文化など連想されるものをグラスの中で表現する 1杯の” 作品 “としてのドリンク。

” Imaginative liquid “

音楽や映画、カルチャーやアートなど様々なものからインスピレーションを受け、通常ドリンクでは使われないであろう”食材”や”植物”などからエキスやフレーバーを抽出。ミュージシャンが曲や詩を書くように。アーティストがキャンバスに描くように、表現方法の一つとしての” liquid “を作り出します。

一見、アーティスティックな感性や直感的に作られていそうな Imaginative liquid ですが、alchemy(錬金術)や mixology(科学的調合)といった科学的・理論的なアプローチで緻密な計算の元、開発しています。

本記事では、そんな Imaginative liquid の発想の起点や表現したかった想い、レシピやリキッド生成の技法を紹介します。

Intro : 秋刀魚

Drink : Frozen Daikon ー 大根滅多切り

焦点 : ダイキリ

コースの一皿目は秋刀魚のお料理。秋刀魚には大根おろしでしょ!ということで、前回デザートに合わせていた” Frozen Daikon “がここで登場。つかみのネタみたいな感じで捉えられるけれど、秋刀魚との相性も、モクテル単体としても、完成度の高い一杯。

※レシピ詳細は前回の記事参照  

Interlude : エイヒレ

Verse : 雲子

Drink : 畑のイカ ー やめられないとまらない

焦点 : 海への憧れ

自家製ジンジャエールを作る際に使用した新生姜の千切り。コレをディハイドレーターでドライにすると、無限おつまみ 通称 “ 畑のイカ “ になる。

海の食材が続くので、ドリンクでは畑のイカで海への憧れを表現し、次のドリンクへストーリーのバトンを繋ぐ。

山のボタニカルを使った自家蒸留ノンアルGINと合わせ、畑のイカに海への憧れをより強くもたせる。

次の白子の料理には、トマトのニュアンスに合わせ、ライムのコーディアルで味変させる。

畑のイカ

  • Home distilled Non_Alcoholic GIN – Japanese flavor  30ml
  • 畑のイカ 5g・・・※ジンジャエールを作る際にでる生姜の千切りのドライ
  • レモンバーム 適量
  • FEVER TREE premium soda  適量
  • FEVER TREE tonic  10ml
  • ミョウガの千切り 適量

すり鉢にミキサー(割り材)以外の材料を入れ、すりこぎを使いリキッドにフレーバーとエキスを瞬時にインフューズする。

氷を入れたタンブラーに、すり鉢のリキッドをストレーナーで濾して注ぐ。

ミキサーを注ぎビルド。

千切りにしたミョウガを飾る。

畑のイカ 味変 Ver.

  • 畑のイカの残り 20~30ml
  • 自家製ライムコーディアル 10~20ml
  • FEEVER TREE premium soda  適量

1杯目を20mlほど残しておいて、ライムのコーディアルを加えソーダでフィルアップ

※influenced by music : およげ!たいやきくん / 子門真人

Interlude : 松茸椀

Drink : なし

Bridge : 鮑

Drink : 海豆腐 ー 大豆と潮

焦点 : ミネラル

海をテーマにした一皿。ここでは大豆(=陸地・畑)をウォッシュし藻塩を混ぜ込んで、海への憧れを持った”畑のイカ”からついに大海に出る流れのイメージ。

豆乳をベースに使うけれど、クリアなテクスチャーとミネラルを感じるために、藻塩を溶かし込んだ状態でウォッシュ(タンパク質を取り除きクリアにする)。イワシの魚醤を加えグラスのリムには揚浜式の塩をスノースタイルで塩味を追加。

感じるのは柔らかな大豆の香りとミネラル感。地球を包み込む大いなる大海を連想させるあじわいに。

海豆腐

  • ウォッシュ豆乳 40ml・・・※
  • いしる(ヤマト醤油味噌) 2 drop
  • 奥能登揚浜塩田 大谷潮 適量

※ウォッシュ豆乳

豆乳500mlに藻塩2つまみ加え、湯煎で温めながらクエン酸でウォッシュ。

ゼストしたホースラディッシュ1.5gを一晩インフューズする。

リム1/4ほどに奥能登の塩をつけたグラスにいしるをドロップ。

ウォッシュした豆乳を注ぎステア。

※influenced by music : 海 その愛 / 加山雄三

Chorus : 宮崎牛

Drink : 魔改ウェルチ ー 博士のジュース

焦点:科学

噛みごたえのあるThe 肉!といった印象のモモ肉と、トリュフの香りに合わせ、土や樽の様な香りを持った赤ワインをイメージしたモクテルを作る。

土っぽい香りとしてビーツを溶かしこみ蒸留機を使い濃縮。濃縮したエキスを酵母で一次発酵させノンアル赤ワインに。ハーブやスパイスの複雑な香りとは対照的に、トップの立ち上がりは”葡萄ジュースやんけ!”と思わせるギャップを持たせた方が面白みがあるので、誰もが一口でわかる知っている味、ウェルチのブドウジュースを使用。
口に運んだ瞬間はウェルチの味で”赤ワインの代わりにブドウジュースって子供かよ”と思わせておいて、濃縮・発酵による旨みや酸。スパイスやハーブ、ビーツの複雑な香りが追いかけてくる。科学者が理論的にウェルチを赤ワインに魔改造したイメージに仕立てた。

料理と合わせたところ、発酵ウェルチが濃厚すぎて料理のニュアンスを打ち消してしまったので、加水した上、氷で冷やし若干フレーバーを閉じ込めるよう調整。

10月はハロウィンもあるので、真っ赤なチュイールで魔改造の危険な雰囲気を演出。

魔改ウェルチ

  • 発酵ウェルチ 40ml・・・
  • 水 10ml
  • カチワリ ice 適量
  • ストロベリーチュイール
  • エディブルフラワー(ペンタス)

氷を入れたグラスに材料を注ぎステア。

チュイールとエディブルフラワーを飾る。

※発酵ウェルチ

  • ウェルチ 500g
  • ビーツ(冷凍粉砕) 30g
  • フレンチタラゴン 1g
  • コリアンダーシード 1tsp
  • グリーンカルダモン 1ヶ
  • マーガオ 5粒

スパイスを乳鉢で潰しハーブと共にフラスコに入れる。

冷凍したビーツをグラインダーで粉砕しパウダー化する。
ビーツ・ウェルチを加えロータリーエバポレーターにセット。

真空度 45 hPa / 回転数 230 rpm / Hot bath 40℃ / Condenser -15℃ で150mlほど蒸留。

濃縮した一次側の溶媒をストレーナーで濾す。

液量の0.025%のイーストを加え一次発酵させる。

液量の0.02%の酒石酸を加える。

ボトリングして加熱殺菌処理。

※influenced by music : I Want Out / Helloween

Interlude : 口直し

Drink : なし

Solo : 阿波尾鶏

Drink : レモン酎ハイ ハイ抜き ( cocktails )

焦点 : 居酒屋

ココではアルコールペアリングのゲストにカクテルを提供。

コースも終盤。少し、食べ・飲み疲れてきたところだと思うので、レモン酎ハイでより箸が進むよう誘導するイメージ。

ただ、炭酸は余計にお腹が膨れてしまうので、レモンの爽やかさと米の甘い芳醇を味わう酎ハイの原液のようなものに仕立てる。

レモン酎ハイ ハイ抜き

  • SG SHOCHU KOME 15ml
  • Dolin Vermouth De Chambery 1tsp
  • 自家製レモンコーディアル 1tsp
  • レモンジュース 1/2tsp

ティンに全ての材料を注ぎ製氷機の氷でハードシェイクしダブルストレインでグラスに注ぐ。

砕けやすい製氷機の氷をあえて使い、ハードシェイクで氷を砕きながら加水するイメージ。

砕けた氷が入ると口当たりが悪いのでダブルストレインでしっかり濾す。

※influenced by CM : サントリーのんある晩酌 レモンサワー

Outro : 秋野 / チーズケーキ

Drink : チャイニーズ ミルクドブリュー ー ヘルスケアコーヒー

焦点 : ミルク

秋の野原をイメージした一皿目と、カバーを外すとどろぉんと溶け出すのチーズケーキのデザートの二皿。一皿目は甘みやコクをあえて抑えた印象。二皿目のチーズに繋ぐイメージで、ドリンクに甘みとコクを持たせる。ただ甘いだけだとデザート・ドリンク合わせて全ての印象がぼやけるので、コーヒーの苦味をしっかり抽出したコーヒー牛乳を合わせる。

ミルクのコクも重要な要素なので、単純にコーヒーをミルクと混ぜるのではなく、ミルク自体にコーヒーの成分を溶かし込んだ濃厚なコーヒー牛乳。そこに精製してない中国の黒糖である紅糖(アカトウ)を溶かしこみ、甘みとコク、香ばしさを加え、苦いけど甘い超濃厚なコーヒー牛乳が完成した。

チャイニーズ ミルクドブリュー

  • 無調整ミルク 300ml
  • 深煎りコーヒー豆 20g
  • 紅糖 1tbsp

エスプレッソ用深煎り豆をグラインダーで挽き、冷たいまま無調整ミルクに4h浸漬。

ストレーナーで濾して湯煎で60℃に温め、紅糖を加え溶かす。

耐熱グラスに100ml注ぐ。

あとがき

10月中旬、イベントのレセプションパーティーでゲストバーテンディングする機会がありました。単純にカクテルを振る舞うわけではなく、主催企業の理念やイベントのテーマを表現した1杯を、イベント内での一つの企画としてカクテルを振る舞い、ゲストに楽しんでもらうというものでした。

イベントの主催が Femtech 関連の企業で、テーマが「タブーを楽しもう」という男子にはどう触れていいか迷ってしまう内容。案の定何を作ればいいのかかなり迷走しました…

※Femtech とは Female(女性)+ Technology(テクノロジー)の造語で、女性のライフステージにおける「生理・月経」「妊活・妊娠・産後」「更年期」など様々な課題を解決する製品やサービスを指す。


馴染みのBarでひとり、何をどう表現すべきか考えながら飲んでいると、となりにもお一人で和装の美人さんが座っている。普段はひとりでゆっくり飲むのが好きな僕だけど、その時は相当追い込まれていたのか、女性の意見を聞かないと埒が開かない!といつの間にか和装美人さんに声をかけていた。

ナイーブな話題なのに気さくに話してくれた彼女は聞けば中国出身で、現地の女性は生理の時や冷え性改善目的で、血を作る・血の巡りが良くなると昔から言われている紅糖という中国の黒糖を大量に溶かした白湯を飲むらしく、参考にしたらと勧めてくれた。
勧めてくれただけでなく、家に常備してあった紅糖1袋を「いっぱいあるからあげる」と翌日わざわざ持ってきてくれた。

効能的な部分もそうだけど、あんまり甘くないからと大量に(彼女はカップ1杯にレンゲ2杯らしい…)入れるって部分が気になりすぎて、即試してみた。

流石にレンゲ2杯はヒヨってしまい、まずはテーブルスプーン1杯で。

普通この量でも精製糖だと甘すぎて(個人的に)飲めたモンじゃないはず。甘さよりも香ばしさが際立っていてダークラムのようなイメージ。今まで味わったことのない中国の砂糖の味に衝撃をうけた。
とはいえそこそこ甘かったけど(笑)

イベントでは、仕込みや現場の設備等諸々考慮し、最終的には” LUNA SEA “と名付けた、月の引力や潮の満ち引きを表し、”生物は月に支配されている”をテーマにしたMocktailを提供したけれど、おそらく日本人があまり味わったことのない紅糖を、いろんな人に味わって欲しいと思い、10月コースのデザートドリンクで使用しました。

これから年末に向けて飲みに出る機会も増える季節。

このように、思いがけない出会いや新たな発見もある(かもしれない)Barという空間に、皆さんもぜひ足を運んでいただけたらと思います。

会場:六本木ヒルズ / THE MOON Restaurant

バタフライピーをアガーで固め海底を

ハーブと気泡で海水を

飲んで液面が下がる=潮の満ち引きを

G.Fピールで満月を表現

元音響エンジニアのバーマン。
外食はコンサートと同じ。料理やドリンク、空間やサービスで楽しいショーを体験する時間。ステージを彩るドリンクで、ショーの一翼を担う。