- 書名:古代メソポタミア飯 ギルガメッシュ叙事詩と最古のレシピ
- 著者:遠藤雅司 (音食紀行)
- 監修:公益財団法人 古代オリエント博物館
- 発行所:大和書房
- 発行年:2020年
イエール大学にある「バビロニアコレクション」という紀元前1730年頃までに書かれた古バビロニア時代の粘土板を解読して、それが料理レシピだったことを発表したのはアッシリア学者のジャン・ボテロだ。それは「最古の料理」として日本語訳され出版されている。
著者の遠藤雅司氏はジャン・ポテロの読み解いたレシピをもとに再構築し実際に作ってみるという作業をやってきた。しかし、遠藤氏は歴史学者でも料理研究家でもない。歴史料理研究家と名乗るサラリーマンだ。
この壮大な趣味にギルガメッシュ叙事詩を読み直すという内容をざっくり面白い合わせ技で本を作った。よって、ギルガメッシュに興味のない人は、第三章の古代メソポタミア料理の世界だけを読んでも良い本だと思う。普通のレシピといま風の完成写真もある。
隣ページには粘土板に書かれた象形文字の読み解きレシピもあり、古代飯の気分を盛り上げてくれる。盛り上がりついでにギルガメッシュの章をめくったりしているうちに叙事詩の世界へも片足を入れてしまった。これが著者のトラップらしい。叙事詩じたいには多くの料理描写はないのだ。
古代メソポタミア料理では塩と胡椒が見当たらない。マスタードシードやクミンなどのスパイスは豊富に使われている。著者のレシピでは羊や牛肉などを調理する際に塩が記載されているが象形文字の方には塩が書かれていないようなので、これは著者が加えたものらしい。
古代メソポタミア料理の面白さはスパイスなどが多用され、スープからメイン、デザートまで現代とあまり変わらない複雑さをもって作られていたことだ。
焼いた長ネギの無発酵ミルフィーユパン、ビール酵母の発酵パン。玉ねぎ、にんにく、ひよこ豆レンズ豆などの盛り合わせサラダ。刺激的なマスタードスープ、お酢のルーツ的ネギとお肉の酸味スープ、ビーツと羊肉の甘いスープ。レンズ豆とブルグルの王様用特製リゾット。ピスタチオとレンズ豆のビール煮。スパイシーな鯉のオーブン焼き。羊の香草焼き。方舟をつくる労働者のための羊肉のスタミナ飯。魚醤ニンニク生地の鶏肉パイ。デーツ・レーズン・蜂蜜・ごま油の入ったクッキー。干しリンゴ・ざくろの入ったフルーツケーキ。
まるでNYの最先端のカフェで出てきそうなメニューのようだ。
出版にたずさわることから社会に出て、映像も含めた電子メディア、ネットメディア、そして人が集まる店舗もそのひとつとして、さまざまなメディアに関わって来ました。しかしメディアというものは良いものも悪いものも伝達していきます。 そして「食」は最終系で人の原点のメディアだと思います。人と人の間に歴史を伝え、国境や民族を超えた部分を違いも含めて理解することができるのが「食」というメディアです。それは伝達手段であり、情報そのものです。誰かだけの利益のためにあってはいけない、誰もが正しく受け取り理解できなければならないものです。この壮大で終わることのない「食」という情報を実体験を通してどうやって伝えて行くか。新しい視点を持ったクリエーターたちを中心に丁寧にカタチにして行きたいと思います。