- 書名:そば学大全 日本と世界のソバ食文化
- 著者:俣野敏子
- 発行所:講談社
- 発行年:2022年(初版単行本 2020年平凡社)
俣野敏子は1932年生まれ、京大の大学院農学部研究科出身の農学博士であった。信州大学に赴任したときにソバの研究を始めた。ソバというのは『蕎麦っ喰い』のそばではなく植物のソバだ。
本人が「ソバの研究」と人に言うと、そばの打ち方の人だと思われたらしい。しかし30年以上にわたったその研究は、「食」に関わる人間にもやさしくわかりやすい内容の本としてアウトプットされた。
ソバとは植物的にみてなんなのか?作物としてのソバとは何か?なぜ普通種でない他殖性のダッタンソバが外国で生産されるのか?日本の食文化の代表的な存在なのに、蕎麦粉の輸入が拡大し続けるのはなぜか?農業経済ではなく、植物の専門家が調べ続けた30年。
もちろんソバを食すのは日本だけでない。著者は世界中を周りその実態を足と舌で調べた。植物の研究と言ってもそこは「そば」である。学会の都度、大いに食べまくった。
韓国ソバ祭のある春川での『メミルマックッス』という蕎麦粉100%韓国冷麺の麺。リョウトウデンプンによってシコシコする食感。シェルマカロニのような中国の『マオアルドゥ』。ブータンのバター唐辛子のそばがきとパンケーキ。ロシアの煮込み料理的『そばのカーシャ』。同じくキルギスタンのカーシャ。ソバ好きポーランドの王妃様のカーシャ『クラコフカーシャ』はひき割り粉と卵でつくる。同じくポーランドにはカーシャのコロッケ、プリン、そばがき、水餃子、ケーキなどもある。
スロベニアには重く黒く硬いそば粉のパンがある。そしてやはりそばがきだ。『ズレバンカ』『シュトクリー』といったパンケーキやクレープもある。フランスにはもちろん『ガレット』、パンケーキの『ブリーニ』、ブルターニュ名物の厚いタルト『ファール・ブルトン』。イタリアには『ピッツオケリオ』そば粉に小麦粉を足した平たい麺。そしてそばがきのような『ポレンタ』。
読んでいくと日本のつけ蕎麦、かけ蕎麦というのは調理法としても食べ方にしてもちょっと特殊に見える。輸入に頼ってまで食べ続ける食文化とは何か。われわれのDNAに刷り込まれたものはなんだろう。
出版にたずさわることから社会に出て、映像も含めた電子メディア、ネットメディア、そして人が集まる店舗もそのひとつとして、さまざまなメディアに関わって来ました。しかしメディアというものは良いものも悪いものも伝達していきます。 そして「食」は最終系で人の原点のメディアだと思います。人と人の間に歴史を伝え、国境や民族を超えた部分を違いも含めて理解することができるのが「食」というメディアです。それは伝達手段であり、情報そのものです。誰かだけの利益のためにあってはいけない、誰もが正しく受け取り理解できなければならないものです。この壮大で終わることのない「食」という情報を実体験を通してどうやって伝えて行くか。新しい視点を持ったクリエーターたちを中心に丁寧にカタチにして行きたいと思います。