- 書名:自炊力 料理以前の食生活改善スキル
- 著者:白央篤司
- 発行所:光文社新書975
- 発行年:2018年
著者は「都道府県を一つのおにぎりで表すとしたら?」などの著作を持つ、郷土食やローカルフードに詳しいフードライターである。彼は「料理力より自炊力を」と唱える。まったく同感である。
同感というのは、自分が年老いてきて、周りに年代に関わらず自分で自分の食べるものを作れない、作ろうと思わない人間の多さに驚いていたからだ。社会的に引退、半引退ができる人は、引退後に「自炊」という「楽しい」仕事にできたらこんないいことはないだろうと常日頃思うようになったからでもある。
本書にもあるとおり「作らずに買うことも自炊」なのである。コンビニでもスーパーでも1日1回でもぐるっと廻るだけでも、その日の目的ができる。毎日通っていれば、その店の特性もつかめてくる。家に籠らない。自分で調理する自炊を始めれば、行く目的も広がり、リサーチ作業に頭も使い始める。自炊は精神的にも運動療法的にも良いのである(たぶん)。厚労省はこういうことにお金を抱えれば国の医療負担は減るのである(たぶん)。
この本は、自炊へのとっかかりの本である。感心した言葉がある。作らずに買うことも自炊、というのもそうだが、「まずはレシピ本よりテレビを」である。そまったく同感。誰かのファンになれば、料理がもっと好きになる、という章ではNHKや民放局の料理番組、コーナーの解説がある。
最近ではYoutubeも面白い人が楽しそうに料理するサイトもある。podcastの氷川きよしとかの料理もなかなかである。高校生からやってるYoutuberの「はるあん」も老人からすれば可愛い孫みたいでいいかもしれない。そして料理に興味があれば包丁の研ぎ方からマグロの解体まで、ほとんどのことが動画でわかる時代だ。
そして「スーパーの売り場を覚える」。還暦とは子供に還る、でもあるけれど、初めてのお使いが楽しくなる子供になれる。そこから始まる料理人生(になるかも)。
くれぐれも、これなら簡単であなたにもできます的レシピ本には手を出さないでほしい。とはいえ本書にもレシピは載っている。生もずくとトマトのスープ。ゴーヤーとプチトマトのスープ。しらすとクレソンのパスタ。ナポリタン。ベーコンとマッシュルームのソテー。大豆とピーマンの炒め物。サバ水煮缶×ウドの味噌汁。イワシ水煮缶×キャベツ・にんじん・エリンギ・ブナシメジの味噌汁。チゲ鍋。余った野菜のコンソメスープと水餃子スープ、なすソーメン。簡単便利ではあるが、まずは美味しそうが先にある。
あと、料理自慢の友人の仲間になる必要はない。そういう友だちに、どんどんお呼ばれしてもらえるような余計なうんちくを言わない人であれば良い。質問だけして無料の料理教室だと思えば良い。最初から料理を振る舞うことなど考えなくて良い。「自炊」が密かな楽しみになれば最高だ(きっと)。
この本は、パートナーに依存することもできなくなったり、料理をしたことのない人生を生きてきた人には、これからも長く健康で楽しく生きるための料理による大いなるとっかかり、救いの書である(たぶん)。
出版にたずさわることから社会に出て、映像も含めた電子メディア、ネットメディア、そして人が集まる店舗もそのひとつとして、さまざまなメディアに関わって来ました。しかしメディアというものは良いものも悪いものも伝達していきます。 そして「食」は最終系で人の原点のメディアだと思います。人と人の間に歴史を伝え、国境や民族を超えた部分を違いも含めて理解することができるのが「食」というメディアです。それは伝達手段であり、情報そのものです。誰かだけの利益のためにあってはいけない、誰もが正しく受け取り理解できなければならないものです。この壮大で終わることのない「食」という情報を実体験を通してどうやって伝えて行くか。新しい視点を持ったクリエーターたちを中心に丁寧にカタチにして行きたいと思います。