Pairing要素を前提にしつつ、料理や使われている素材などをフックに、産地や風土、歴史や文化など連想されるものをグラスの中で表現する 1杯の” 作品 “としてのドリンク。
” Imaginative liquid “
音楽や映画、カルチャーやアートなど様々なものからインスピレーションを受け、通常ドリンクでは使われないであろう”食材”や”植物”などからエキスやフレーバーを抽出。ミュージシャンが曲や詩を書くように。アーティストがキャンバスに描くように、表現方法の一つとしての” liquid “を作り出します。
一見、アーティスティックな感性や直感的に作られていそうな Imaginative liquid ですが、alchemy(錬金術)や mixology(科学的調合)といった科学的・理論的なアプローチで緻密な計算の元、開発しています。
本記事では、そんな Imaginative liquid の発想の起点や表現したかった想い、レシピやリキッド生成の技法を紹介します。
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Intro : 陽宝
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Interlude : 甲イカ
Drink : 果樹園 − シトラススパークリング
焦点 : 培養
どんどん寒くなって柑橘がおいしくなるこの季節。
おいしい柑橘類が多く実る果樹園をイメージしたモクテルで、そんな季節の到来を感じさせたいと思う。
使った柑橘は高知の水晶文旦。爽やかな香りと独特の苦味は、最初の1杯には最適だし、モクテルとしての味の厚みに繋がる。
リキッド自体で果実を。添えるハーブの香りで枝や葉を表現。
文旦の苦味と発酵の旨みで、二皿目のイカの甘みをより感じてもらえるよう、モクテル自体の甘みは抑えめで調整する。
Recipe : 果樹園
- 自家製 KOMBUCHA – BUNTAN 30ml・・・※
- FEVER TREE SODA 10ml
〈 garnish 〉
- レモンキャンディーチップ・・・※
- アップルキャンディーチップ・・・※
- タイム
※自家製 KOMBUCHA – BUNTAN
文旦の皮を剥き大きなビーカーやピッチャーのなかでペストルで潰す / 実取れ 1600g
鍋に移し、ラフランスティーの茶葉 5g、バタフライピー 8g を加え、沸騰直前まで加熱。
弱火にし 10min 加熱後火を止め、グラニュー糖 200g 加え溶かす。
保存瓶に濾して冷却後 液量の10% のベースコンブチャとスコビーを加え一次発酵させる。
※キャンディーチップ
スライスしたフルーツを 50%シロップで炊いて細胞を壊す。
沸騰させた150%シロップにフルーツを潜らせ低温のオーブンでじっくり加熱。
氷をいれたグラスに文旦のコンブチャ、ソーダを注ぎ軽くステア。
ガーニッシュを飾る。
タイムは香りづけなので、飲む直前に小皿に避けてもらう。
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Verse : 雪吊り
Drink : ハードシェイク・カルボナーラ − 黄色い雲
焦点 : 泡
兼六園の雪吊りと香箱ガニ。冬の金沢の象徴とも言える2大要素が盛り込まれた料理。
香箱ガニをグラタンのように仕立てた料理に合わせ、卵黄を使ったコクのあるドリンクをあわせる。ミルクやチーズの要素を重ねたいなと考え思いついたものがカルボナーラだった。
とはいえ、生クリームを使うと重すぎる…というかドリンクではなくソースになるので(笑)
ココナッツウォーターを使う。ココナッツウォーター単体だと甘さが際立つので、ホワイトペッパーを一晩漬け込んで香りと辛みを溶け込ませた。
チーズとブラックペッパーを振りかけてー…あと欲しい要素はベーコンかな。
実際にベーコンを炒めてウォッシュしようかとも考えたけれど、味わいの大きなレイヤーを重ねすぎて大味になりそうなのでやめておこう。ベーコンの代わりにグラス自体に燻煙の香りをつけて、カルボナーラをドリンクで表現。
ドライハードシェークすることにより、多くの空気を含みふわふわなテクスチャーになる。金沢の冬。積もった雪をこのふわふわで表現している。
地元住民からすれば、こんなに厚く雪積もらないでほしいなぁ(苦笑)
Recipe : ハードシェイク・カルボナーラ
- 卵黄 1個
- ココナッツウォーター インフューズド ホワイトペッパー 60ml
- パルミジャーノレッジャーノ 適量
- ブラックペッパー 適量
- バーボン樽チップ 適量
カクテルスモーカーでグラスをバーボン樽チップの燻煙で満たす。
シェーカーのティンに卵黄とココナッツウォーターを入れホイッパーで軽く泡立てる。
ドライハードシェイクする。
グラスに注ぎ、チーズをゼスターで削りかけ、ブラックペッパーを振る。
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Interlude : 京都牛 源助大根
Drink : なし
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Bridge : あん肝 ソイ
Drink : 漁師茶 − ソルティードッグ
焦点 : 兄弟船
魚料理には、その魚を獲りに行った漁師さんたちが船の上で飲むお茶をイメージ。
エビとカニの殻から取ったエキスで加賀棒茶を炊く。エビ・カニの旨みと棒茶の香ばしさ。そこにリンゴの酸と甘さ。異なる旨み成分をリンゴのペクチンで分子レベルで結合させる。
これでかなり濃厚なリキッドが完成するわけだけども、このままだと強すぎて料理の味わいを潰してしまう。かと言って折角の旨みの凝縮を加水で薄めたくない。
というこで、ウォッシュした(タンパク質を除去)豆乳で透き通ったコクを加え、味わいをマイルドにした。
あまりお酒を飲まない人でも知っているであろうメジャーなカクテルとして”ソルティ・ドッグ”がある。ソルティ・ドッグとはスラングで甲板員。船のデッキで潮風を浴びながら汗だくになって働く様子から、ソルト・スノースタイルのカクテル名の由来となっている。
僕の中で今回、棒茶を使ったこのドリンクは日本版ソルティ・ドックの位置付け。
八戸あたり出身で、屈強な肉体を持つ兄弟漁師が、父から継いだ小さな漁船であんこう漁にでて、甲板で茶を飲んでいる。
恐らく、同じ甲殻類であるエビとカニを使ったせいでこんなワケのわからない妄想が膨らんだのだと思う。ちなみに、兄はカニで顔も身体も大きく体力バカ。弟はエビで魚探や衛星を駆使しポイントを見つける頭脳派のイメージ。
Recipe : 漁師茶
- エビ・カニ殻エキス 300ml
- 加賀棒茶 8g
- リンゴ 1/2
- ウォッシュ豆乳 100ml・・・※
※ウォッシュ豆乳
豆乳500mlに藻塩2つまみと魚醤10mlを加え、湯煎で温めながらクエン酸でウォッシュ。
鍋で加賀棒茶を煎る。
エビ・カニ殻エキスとすりおろしたリンゴを加え沸騰するまで加熱。
沸騰後、中弱火で5min加熱し、蓋をして火を止め40min置く。
濾してウォッシュ豆乳を加え混ぜ合わせる。
提供時、湯煎で60℃に温め、おちょこに注ぐ。
※influenced by music : 兄弟船 / 鳥羽一郎
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Chorus : 能登牛
Drink : beats it − ギターリフ
焦点:dance
今回のお肉とソースに合いそうなものは、ビーツの土っぽい香り。そこに酸を加え錆っぽい、血のような香りのニュアンスを持たせたい。ビーツ・血というワードでふと頭に浮かんだものは、マイケルジャクソン / Beat It のMV。ビーツとビート…ダジャレやないかい(笑)
いや、ほら。ウエストサイドストーリー的な、若者の抗争を描いたビデオじゃないですか…あと、たぶん、人気マンガ 東京卍リベンジャーズが完結したのも無意識に影響したの、きっと…
ビーツはより香りが溶け込むように冷凍粉砕して溶かし込む。発酵による酸とレモンで血に寄せ、ガーニッシュでも血の赤と毛細血管をイメージ。
Beat It のイントロのギターリフが鳴った瞬間の、思わず身体が動き、” 血湧き肉躍る “ を表現したモクテル。
Recipe : Beats It
- ビーツ KOMBUCHA 40mi・・・※
- レモンジュース 1tsp
〈 garnish 〉
- グレープフルーツピール
- 毛細血管チュイール
- エディブルフラワー(ペンタス)
カクテルグラスに材料を注ぎステア。
ガーニッシュを飾る。
※発酵ウェルチ
- ザクロジュース 360ml
- クランベリージュース 180ml
- ビーツ(冷凍粉砕) 100g
- スターアニス 1個
- フレッシュレモングラス 少量
- グラニュー糖 60g
冷凍したビーツをグラインダーで粉砕しジュースと共に鍋に入れ軽く沸騰させる。
アニスとレモングラスを加え弱火で10分つめる。
火を止めグラニュー糖を予熱で数回に分け溶かし入れる。
保存瓶に濾して冷却。コンブチャベース、スコビーを入れ発酵させる。
カクテルグラスに材料を注ぎ、ガーニッシュを飾る。
※influenced by music : Beat It / Fall Out Boy ft. John Mayer
原曲のマイケル+エディ ヴァンヘイレン ももちろんいいけれど、個人的にはよりバンドサウンドで身体揺らしたくなる F.O.B +ジョンメイヤー のカバーで
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Interlude : 口直し
Drink : なし
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Solo : 香箱ガニ
Drink : バリの雫
焦点 : オリエンタル
香箱ガニのお食事パート。酢飯を使っているから和テイストかと思いきや、スパイスやハーブでどこかオリエンタルな空気感を纏っている。
そんな空気感に合わせるイメージでハーブティーを淹れる。
フレーバーだけのハーブティーだと弱いというか、やっぱ日本人は酢飯食ったらお茶欲しくなるよね。ということで、家庭菜園しているウチのニガヨモギの苦味を加えた、いままであまり味わったことのないようなハーブティーで、異国感を演出した。
recipe : バリの雫
- コリアンダーシード 1tsp
- レモンバーム 3g
- ニガヨモギ(ドライ)1g
- バイマックル(コブミカンの葉) 1枚
- お湯 120ml
コリアンダーシードをすり鉢でする。
材料全てをビーカーに入れお湯を注ぎ、ラップをして3min抽出。
ESPカップに注ぐ。
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Outro : 柿 / 78%のスモーク
Drink : 焼きみかん − 家族の風景
焦点 : ストーブ
デザート2皿には僕の冬の思い出を表現したモクテルを合わせた。
冬になるとウチの実家の居間には大きなコタツがセッティングされる。そのコタツに家族全員入り、鍋をつついたりコーヒーを飲んだりテレビを見たり。子供時代の冬を思い出すと、雪遊びなんかより、家族全員コタツでゴロゴロしてる映像が思い浮かぶ(笑)
そんなコタツと必ずペアで登場するのが石油ストーブ。上にヤカン置いてお湯沸かせるタイプのアレ。ヤカンおいておけば部屋の湿度キープできるし、おでんや煮物も置いておくだけでしっかり味が染みる。ストーブの前に新聞紙敷いて濡れた靴乾かしたりもしてたなぁ。
エアコン中心で灯油自体買わなくなり、今ではすっかり見なくなったな…と気温が下がり始めた頃にちょっと寂しい気持ちになったので、モクテルでストーブと家族の風景を表現した。
箱で買った大量のみかんの中にたまにいる、甘くないハズレのヤツ。子供の頃、そのハズレのみかんをアルミホイルで包んでストーブの上で加熱して、甘みを引き出した ” 焼きみかん ” なるものを自ら開発し、密かなマイブームになっていた。
※恐らくサツマイモをストーブの上で焼いていたのを見て思いついたのだと思う
今の知識と感性で当時の “ 焼きみかん ” を再構築したものが、令和版焼きみかん。昭和のものを令和版にアップデートした。
たぶん、デザートの、綿菓子をバーナーで炙る炎と、ドライアイスの煙を見て、石油ストーブの燃える炎と沸騰したヤカンの蒸気に繋がったんだと思う。コレばっかりは理屈じゃなく、インスピレーションなのでそれらしい解説もなにもなく、思いついたものを形にしただけ。
永積タカシはハイライトとウイスキーグラスのあるキッチンに家族の風景をイメージしたみたいだけど、居間の石油ストーブとコタツでゴロゴロが僕の思い出す家族の風景かな(笑)
recipe : 焼きみかん
- みかん 10個
- オレンジ 4個
- アガベシロップ 50g
- スターアニス 2個
- オールスパイス 1g
- 馬告 5粒
- クローブ 3個
- キャラウェイ 1tsp
みかんの皮を剥きばらしてオーブンで焼く(90℃ / 1h + 120℃ / 10min )
オレンジをスロージューサーで絞る。
フレッシュオレンジジュースの中で焼いたみかんをマッシャーで潰し、アガベシロップを加える。
鍋に移し乳鉢で潰したスパイス類と共に加熱。
軽く沸騰したら弱火で15min煮詰める。
濾してボトリングし、炭化させたオレンジの器に注ぐ。
※炭化オレンジの器・・・オーブンで3日間焼いて中を掃除し、溶かした蜜蝋を塗り防水処理する。
元音響エンジニアのバーマン。
外食はコンサートと同じ。料理やドリンク、空間やサービスで楽しいショーを体験する時間。ステージを彩るドリンクで、ショーの一翼を担う。